東京大学社会科学研究所

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自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

広渡清吾

1.経歴

1945年 12月4日生まれ
1968年3月 京都大学法学部卒業
1968年4月 同 助手
1973年4月 東京大学社会科学研究所助教授
1979年4~10月 文部省海外学術調査(農家相続調査)・ドイツ
1980年10月~82年9月 ドイツ・フンボルト財団奨学生(ドイツ・ギーセン大学)
1987年4~10月 ドイツ・ベルリン自由大学客員講師
1991年4月 東京大学社会科学研究所教授
1993年11月~94年10月 ドイツ・ミュンヘン大学客員教授

2. 専門分野

比較現代法大部門,大陸法系分野,専門分野:ドイツ法・比較法社会論

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. ドイツの都市法制
  2. 外国人問題と法の日独比較
  3. ドイツの企業法制
  4. ドイツ統一と法制度の再編
  5. ドイツ基本法改正問題
  6. 氏名法の日独比較
  7. 戦後責任と戦後補償の日独比較
  8. 男女平等論の比較法的解析
  9. 借地・借家法制の比較研究
  10. 競争法の比較研究
  11. 「法化」論の研究
  12. 戦後法学方法論の日独比較

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『法律からの自由と逃避-ヴァイマル共和制下の私法学』日本評論社、1986年3月
  2. 『借地借家制度の比較研究-欧米と日本』(稲本洋之助・望月礼二郎・内田勝一と共編著)東京大学出版会、1987年4月
  3. 『二つの戦後社会と法の間-日本と西ドイツ』大蔵省出版局、1990年2月
  4. 『外国法-イギリス・ドイツの社会と法』(戒能通厚と共著)岩波書店、1991年9月
  5. 『現代の都市法-ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ』(原田純孝・吉田克己・戒能通厚・渡辺俊一と共編著)東京大学出版会、1993年2月(不動産学会著作賞受賞、1994年)
  6. 『戦争責任・戦後責任-日本とドイツはどう違うか』(粟屋憲太郎・三島憲一・田中宏・山口定・望田幸男と共著)朝日選書、1994年7月
  7. 『統一ドイツの法変動-統一の一つの決算』有信堂、1996年3月
  8. 「日本社会の法化-ドイツとの対比で」岩波講座『現代の法』第15巻「現代法学の思想と方法」所収、1997年6月
  9. 『財産・共同性・ジェンダー-女性と財産に関する研究』(御船美智子・上村協子と共著)東京女性財団発行、1998年3月
  10. Das japanische Rechtsverstandnis und die Gemeinschaftsbezogenheit, in: Walter Schweidler(Hrsg.),Menschenrechte und Gemeinsinn - westlicher und ostlicher Weg ?, Academia Verlag,1998.

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

 研究所におけるわたしの研究分野はドイツ法である。ここを持ち場にして、研究所のプロジェクト研究及びその他のグループ共同研究に参加してきた。自己の研究分野における個別基礎研究とこれらの共同的研究の相互関連に留意してこの10年について述べれば次のようになる。

(1)研究所プロジェクト研究「現代日本社会」(1986-92年)においては、運営委員として第6巻「問題の諸相」の編集を担当し、同巻に「序章・いま、何が問題か」及び「外国人と外国人政策の論理」を執筆した(1992年)。個別研究としてドイツの外国人問題をすでに取り扱ってきていたので、ここでは、日本とドイツの外国人問題と外国人法制の共通性と異質性の分析を通じて日本社会における外国人問題の位置と特性を明らかにした。また、このプロジェクト研究は現代日本社会を「企業社会」(「会社主義」)として分析する視角を提示したが、これはドイツにおける「企業と社会」の関係(企業法制の位置)の分析を進める刺激を与え(これに関する直接的な業績としては「社会国家と会社主義」『法の科学』18号、1990年)、またわたしのドイツ法研究に「日本型企業社会」と「ドイツ型福祉国家」との対置という比較社会論的視角を提供した(主要業績(3)(4)参照)。関連して「序章・いま、何が問題か」では課題としてしか提起できなかった「企業社会と社会の法化」のテーマについて、その後主要業績(8)(10)で分析を試みることができた。

(2)研究所プロジェクト研究「20世紀システム」(1993-1998年)においては、第5巻「国家の多様性と市場」に「競争法の普遍化-資本主義法の発展と20世紀システム」を執筆した(1998年)。「20世紀システムの形成と展開」の総合的分析という問題提起から、わたしは二つの論点を引き出した。一つは、社会科学的な志向をもった法律学において論じられてきた資本主義法の発展史を「20世紀システム」という視角からあらためて分析すること、もう一つはそこにおいて従来必ずしも明確に対象化されてこなかったアメリカ法を位置づけること、である(これについてプロジェクト研究会での報告を基にした「資本主義法の段階論と比較論-方法論的覚書」『民法学と比較法学の諸相Ⅱ』信山社、1997年)。ドイツと日本の比較法論にアメリカを加えることの意義(国際比較のトライアングル化)は、外国人法制の分析に際して確認したが、競争法の分析においてより一層明確になった。「20世紀システム」の研究では国民国家をサブシステムとする「20世紀システム」の変容局面として「グローバリゼーション」の問題が提出されたが、これについて国民国家的福祉国家の機能変容に関する若干の考察を試み(「グローバリゼーションと日本国家」『法の科学』27号、1998年)、また本研究所の国際コロキウム「グローバリゼーションと日本社会の変容」の企画(1999年3月)を準備した。

(3)グループ共同研究としては、この間法社会学的な土地法・都市法の研究グループ(原田純孝氏を中心に組織)に参加し、ドイツの土地法・都市法の分析を担当した。この共同研究も国別比較を方法の軸にするが、共同研究者がそれぞれ各対象国の法システムを詳しく検討するので、共同討議を通じて相互の特徴をより深く把握しうると同時にドイツの研究だけからは思いつかない研究視角や論点を発見することができる。ドイツの都市法制は、もっとも規制的な性格が強く、比較論的に見ると都市空間規制システムのモデルを提示しており、この比較研究では重要な位置を占める。主要業績(2)(5)はその成果であり、最新のものとしては「日本の借地借家法制の特色とその動向-比較法的検討」(『新借地借家法講座』第1巻、日本評論社、1998年)がある。また、都市法研究の成果は「現代日本社会」のプロジェクト研究においても活かされた。

(4)ドイツ法という研究分野でのわたしの個別の基礎的研究は、「現代ドイツ社会と法」の動態をそれとして分析する仕事と、日独の法と社会の比較をより総合的パースペクティヴの下で行なう仕事に-もちろん両者は重なりあうところが大きいが-大別される。後者の仕事は「ドイツ法研究」を包摂するが、それをこえて「比較法社会論」という枠組みで捉えるべきものと考えている。前者に属するものとして主要業績(7)があり、これは6年間(1989-95年)の動態観察に基づいたドイツ統一過程の法的分析である。主要業績(6)所収論文もこれに近い。対して主要業績(3)(4)及び(8)は後者の比較法社会論的な仕事に属する。主要業績(9)(10)は日本の法を対象にしているが、比較の視点を含んでいる。

前者の仕事は、一種の地域研究であり、ヨーロッパ統合過程についての今後の研究所における共同研究をも期しつつドイツの「法と社会」の動態分析を進める積もりである。後者の仕事については、「比較法社会論」という枠組みの方法的な検討を行なうとともに、個別の実証的な研究をさらに進めていく予定である。ここでは、現代社会のかかえる重要な問題を比較の対象分野として設定するが、法制度のみならずポストモダン的パラダイム転換が主張されるなかで法律学のあり方、法学イデオロギーの比較研究も重要である(これらについて「末弘法学から学びつつ、現代の法律学を考える-法律学論としての末弘法学の継承と発展」『法律時報』1998年11月号)。こうした二つの課題を持つドイツ法の研究分野基礎研究は、研究所の比較総合的社会科学研究の基盤を構成し、また研究所プロジェクト研究からの刺激を通じて他のドイツ法研究に対する固有性を獲得していると考えている。

6. 今後の研究テーマ

  1. ヨーロッパ統合過程におけるドイツの法体制の研究
    German Legal System in the European Integration
    ドイツの統一過程において生じた基本的な諸問題への法的な対応の分析を踏まえて、ヨーロッパ統合の一層の進展にともなって生じる国民国家としてのドイツ型福祉国家の法体制(憲法構造・外国人法制・企業法制・社会保障法制)の変容を追跡する。
  2. 比較法社会論の基礎づけ
    Methodological Foundation of the Comparative Study on Law and Society
    日本とドイツを対象にした法と社会の比較の実証的研究を個別の領域(とくに都市・土地法、ジェンダーと法、戦後補償問題と法)でさらに進めるとともに、比較法社会論の方法について検討する。
  3. 戦後法学方法論の比較研究
    Comparative Study on Postwar Methodological Legal Theory
    第二次大戦後の法学方法論(法の解釈・法の正統化についての法理論)の展開を日本とドイツを中心にして追跡し、とくに「法化」論とポストモダンの法理論の歴史的性格を明らかにすることを試みる。

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院法学政治学研究科において「ドイツ法」を担当している。
  2. 学部
    東京大学教養学部ドイツ科において「ドイツの法制」を担当してきた。現在所内管理職のため出講をとりやめている。

8. 所属学会

日本私法学会,信託法学会,日本法社会学会(理事・財政担当),比較法学会(理事・学術会議担当),民主主義科学者協会法律部会(理事・企画委員長),日独法学会(理事),日本ドイツ学会(理事・財政担当),Gesellschaft fur Rechtsvergleichung

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