所員の著書

保城広至『歴史から理論を創造する方法—社会科学と歴史学を統合する』
(勁草書房, 2015年3月)

2015.3.30更新

「はじめに」より

 「歴史から理論を創造する方法――社会科学と歴史学を統合する」という本書のタイトルは、多くの読者に違和感を与えるかもしれない。政治学・経済学・社会学といった社会科学(social sciences)と、人文学(humanities)のひとつである歴史学とは異なった学問分野であり、そのアプローチや分析対象、あるいは学術論文の形式などは異なっているのが一般的な理解だからである。したがって、それら異なった二つの分野が並列しているだけでなく、統合を目指しているこのタイトルからは、ある種の矛盾を感じる読者もいるだろう。また大風呂敷を広げすぎだという印象や、不快感を抱く研究者も少なからずいるかもしれない。

 もちろんそのような違和感は、生じて当然のものである。ただしそのような読者のためにあらかじめ述べておくと、本書はすでに確立された社会科学・人文学といった独立の学問分野を壊して、新たなそれを創造しようとしているわけではない。そうではなく、どのようにすれば両者の積み上げてきた長所を活かすことができるのか。この問いを筆者なりに考察し、それを可能にするような方法論を示すこと、それが本書のねらいである。政治学・経済学・社会学を中心とした社会科学と、政治史・経済史・社会史を含む歴史学との乖離は一般に考えられているほど大きくはない。それらの共通部分をさぐって融合する試みは、両者の強みを活かすという意味で、むしろ大いに生産的なはずである。そのような筆者の期待が、本書を上梓するきっかけとなった。

目次

はじめに

序章 歴史と理論:古くて新しい緊張関係

はじめに

1 歴史学者による社会科学者批判

    歴史社会学の名著

    歴史学者による社会科学者批判①

    近代日本政治の理論と歴史

    歴史学者による社会科学者批判②

    両研究に内在する問題点

2 社会科学者の見解

    狭い歴史学者の視野?

3 歴史と理論の断絶にはらむ問題

    本書の目的

    本書の構成

第1章 中範囲の理論:イシュー・時間・空間の限定

はじめに

1 パターンと個性

    理論とは何か?

    法則性と一過性?

2 「自然主義」と社会科学

3 社会科学理論の社会への影響

    予言の自己否定性

    予言の自己実現性

    理論の現象消失性

4 中範囲の理論

    イシューの限定

    時間の限定

    空間の限定

    中範囲の理論へのひとつのアプローチ

おわりに

第2章 「説明」とは何か?

はじめに

1 「説明」に関する三つの見解

2 因果関係の解明としての「説明」

    社会科学者の因果説

    歴史家による因果説

3 統合としての「説明」

4 記述としての「説明」

    歴史研究者の記述説

    歴史学の叙述傾向

    社会科学者の記述説

5 解釈・理解としての「説明」?

    文化人類学者の解釈学

    ポスト実証主義と解釈学

    社会構成主義者の理解説

6 二つの「説明」概念を同時に満足させる

    因果説と記述説の統合

おわりに

第3章 帰納/演繹、アブダクション

はじめに

1 帰納法とその問題点

    J・S・ミルの五つのカノン

    実験の不可能性

    自然実験という試み

    帰納的飛躍:「すべてのスワンは白い」?

    理論負荷性:ウサギにもアヒルにも

    理論負荷性を問い直す

2 社会科学における演繹法の陥穽

    前提の不確実性と結論の不確実性

3 アブダクション

    アブダクションと仮説演繹法

    アブダクションとさまざまなディシプリン

おわりに

第4章 構造的問いと事例全枚挙

はじめに

1 単一事例の問題点

    単一事例の擁護

    単一事例への批判

2 構造化、焦点化された比較の方法

    ヘンペルのカラスと比較の単位

3 事例全枚挙

    分析対象範囲の問題

    事例を全枚挙する利点

    従属変数からの選択という問題

おわりに

第5章 過程構築から理論化へ

はじめに

1 過程追跡という手法

    ベイズの定理と過程追跡

    理論志向「過程追跡」の問題点

    プロスペクト理論とキューバ危機

2 歴史過程の構築

    現象の発端と事例の定義

    プレイヤーの特定

    プロセスに沿った分析

3 抽象化、比較分析から理論化へ

    分割表による体系的比較

    戦後日本の地域主義外交の例

おわりに

終章 さらなる議論を!

    本書が論じてきたこと

    本書の意義と限界

謝辞
引用文献
事項索引
人名索引
ショート解説一覧

ショート解説00-1  定性的研究と定量的研究

ショート解説0-1   一次資料と二次文献

ショート解説0-2  「プロクルーステースの寝台」問題

ショート解説0-3  中心極限定理

ショート解説0-4  経済学「方法論争」

ショート解説0-5  パラダイム・シフト

ショート解説1-1  前向きの解

ショート解説1-2  最小二乗法

ショート解説2-l  D-N説明とI-S説明

ショート解説2-2  社会構成主義

ショート解説3-1  実験群と統制群

ショート解説3-2  比較優位説

ショート解説3-3  「ハード・ケース」と「イージー・ケース」

ショート解説3-4  反証可能性

ショート解説4-1  「最もありえそうな事例」 と 「最もありえそうにない事例」

ショート解説4-2  決定的実験の不可能性 「デュエム=クワイン・テーゼ」

ショート解説4-3  ヘンペルのカラス

ショート解説5-1  ベイズの定理と3囚人問題

ショート解説5-2  プロスペクト理論

ショート解説5-3  ブール代数とファジー集合

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