社研セミナー

経済の国際的変動と政党の政策位置の連動――競争的民主統治ではなぜ左派政権でも新自由主義的改革に着手するのか?
樋渡展洋(社会科学研究所)

日時:2014年 7月8日 14時50分-16時30分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 先進諸国(OECD20ヵ国)の主要政党や議会中位の政策位置は定常的に推移せず、むしろ景気循環に連動する。個別の国でも、左右の主要政党の選挙での政策位置は、不況の谷を境にイデオロギー軸上の右に連動し、景気回復とともに左に連動し、分析期間(1970年代から2000年代)全体ではわずかながら右上がりに推移している。
 本発表では、従来あまり着目されてこなかった左右の政党の政策位置の移動と連動を説明する。具体的には、政権の維持・獲得や議席の増大をめざす主要政党は、直面する経済課題に有能に対応できることを有権者に訴えるために、経済変動に呼応して政策位置を移動させ、その結果、上記のような変動が現出すると仮定し、その検証を試みる。経済業績投票の想定が、主要政党間の競争を媒介に、選挙での政党の政策位置の移動と連動に帰結することを実証する本発表の知見としては、競争的民主統治の経済適応能力に関する議論への寄与があると思われる。
 実証としては、経済国際化や所得格差の政党位置に与える影響に関する先行研究に依拠しつつ、先進20ヵ国を対象に、議会や政権、主要政党の(比較マニフェストデータより算出した)政策位置を従属変数に、独立変数としては、景気の循環、主要政党の市場指向的政策の採用を促す「国際不況に対する脆弱性」、市場指向的政策導入の弊害としての「所得格差」の拡大や「労働市場参加率」の停滞、それに加え与野党の競争度や議会の分裂度指標や選挙制度ダミーなど、異なる政治制度が主要政党の政策位置とその移動への影響を検証するための変数を投入する。
 予備的分析では、各国の議会の政策位置の変動のみが(上記の)経済変数に規定され、新政権の政策位置の変動はそれに規定されない結果が示されている。つまり、経済変動は、その後の選挙での主要政党の政策位置の連動を齎すも、新政権による選挙後の政権の政策位置の変動には影響しない。発表までに、代替的な独立変数を投入することで分析結果の頑健性を向上させ、それとともに左右の主要政党の個別の政策位置を分析することで、政党位置の連動が経済局面への各国の柔軟な政策対応を齎すとする本発表の立論を補強し、併せて経済変動の各局面での政党の左右方向の連動に、左右の主要政党のいずれがより先導的役割を果たすのか析出したい。
 本発表は、民主制での政党競争が、政権の経済統治能力に齎す影響に関する比較研究の一環をなす。本発表に先立つ2012年の社研セミナーの発表では、市場指向的改革が各国の政権の政策位置ではなく議会の政策位置を反映していることを確認している。本発表と併せて考えると、このことは、選挙制度や政党制により発生する政権と中位投票者の政策位置の乖離が、改革の議会通過を期しての与野党の妥協により是正され得ることを示唆し、競争的民主統治の政策応答性と代表性にとっては朗報であろう。他方で、応答性と代表性の条件として、政策に関する有権者の信頼を獲得し、実績を確立した「古参」政党の存在と、そのような政党間の伯仲的競争があるとすると、自民党一党優位と選挙制度改革後の非自民勢力の離合集散が日本の経済運営に与える影響をも本発表は照射している。

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