社研セミナー

ケーススタディの方法ー「人材ポートフォリオの編成」を素材に(中村圭介教授最終報告)
中村圭介(社会科学研究所)

日時:2015年1月13日 14時50分-16時30分
場所:(経済学研究科学術交流棟・小島ホール

報告要旨

 労働研究の主流が統計的分析に移ったのはいつの頃だったでしょうか。今日においてそれは学術論文のほとんどすべてを占めていると言っても過言ではないでしょう。そんな流行に逆らい(というより流行に乗れずに)、ケーススタディに固執してきた30有余年間でした。労働に関わる実態を詳細に明らかにするためにはケーススタディが最も有効だと信じていても(今も信じていますが)、「一般化」「理論化」できるのかと問われると、やや肩身の狭い思いを感じていたのも事実です。

 そんな時に、大学院の授業で学生の発案で読んだRobert Yin, Case Study Research: Design and Methods, 5th edition(2014 Sage)にはとても勇気づけられました。研究方法としてはケーススタディの他に、歴史研究、大量観察、統計的分析、実験などがありますが、「様々な研究方法は階層をなしているという考え、またケーススタディは探索局面にのみふさわしいという考えは、いずれも誤解である」、「事例を標本(サンプル)とみなして、ケーススタディから統計的一般化(statistical generalization)を図ろうとするのは間違いである。事例はいかなる意味でも標本ではなく、ケーススタディが目指すべきは実験と同じく分析的一般化(analytic generalization)である」

 ここで分析的一般化とは、特定の社会現象について①何が生じているのか(what)、②なぜそれが生じているのか(why)、③いかにそれが生じているのか(how)のいずれかについて、抽象化された諸変数間の関係として叙述することだと私は考えています。その結果、当該現象についての仮説、モデルが検証される、あるいは新たに提示されることになる。

 この30年有余年間で労働組合について8つ、作業組織と生産システムでは6つ、労使関係で5つ、ホワイトカラーで2つの合計21のケーススタディを行いました。これに地域経済調査も加えると23になります。数だけは立派なものでしょう。これらを今、振り返ると、自分では特段、意識してはいませんでしたが、Robert Yinの言う「分析的一般化」を試みている研究が大部分です。若いころは仮説検証型が多かったのですが、そのうち仮説発見型が多数を占めるようになっています。

 もっと早い時期に、このことに気が付けばよかったと今、私は反省しています。そうすれば若い研究者にケーススタディの魅力をもっと伝えることができたでしょう。「分析的一般化」とりわけ仮説発見型のそれは、自分の経験から言っても難しく、労力のかかることですが、それを意識していれば難しさや大変さは軽減されることになるでしょう。

 そうした反省の上に、この最終講義では、最近行ったケーススタディ「人材ポートフォリオの編成」を素材に、どうやって「分析的一般化」を試みたのかを具体的に述べてみたいと思います。通説とはかなり違う、異端の説ですが、議論の題材を提供できればと考えています。

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