案内
- トップ
- 自己点検・自己評価報告書
- 各所員の研究活動
- 原田純孝
自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動
原田純孝
1.経歴
1946年 | 1月1日生まれ |
---|---|
1968年3月 | 東京大学法学部第1類卒業(67年10月司法試験第2次試験合格) |
1968年11月 | 東京大学法学部第3類中途退学 |
1968年12月 | 東京大学社会科学研究所助手 |
1973年7月~75年11月 | フランス政府給費留学生(ストラスブール大学,パリ第2大学) |
1978年4月 | 東京経済大学経済学部専任講師(民法担当) |
1979年4月 | 同 助教授(民法担当) |
1979年10月~80年1月 | 文部省海外学術調査(農家相続実態調査:フランス) |
1982年4月 | 東京大学社会科学研究所助教授 |
1991年4月 | 同 教授 |
1993年 8月~95年3月 | 文部省在外研究員(パリ第1大学ビジター・プロフェッサー兼非常勤講師) |
2. 専門分野
比較現代法大部門,生活関係法分野,専門分野:民法・法社会学・フランス法
3. 過去10年間の研究テーマ
- 都市・土地・住宅法制の比較研究(日本およびフランス)
- 農業政策と農業・農地法制の比較研究(日本およびフランスとEC/EU)
- 現代家族法の比較研究(日本およびフランス)
- 現代家族の変容と社会保障政策の展開動向に関する研究
- 不動産私法(借地・借家法、区分所有法等)の比較研究(日本およびフランス)
- 私法分野を中心としてみた現代日本法の変容と法の役割に関する研究
4. 1998年度までの主要業績
- 『近代土地賃貸借法の研究--フランス農地賃貸借法の構造と史的展開--』東京大学出版会、1980年3月、全507頁(第1回日本農業法学会賞受賞、1988年)
- 『ヨ-ロッパの土地法制』(稲本洋之助・戒能通厚・田山輝明と共編著)東京大学出版会、1983年2月、全516頁
- 「賃借権の譲渡・転貸」星野英一他編『民法講座』5巻、有斐閣、1985年6月、295-383頁
- 『日本型福祉社会』論の家族像--家族をめぐる政策と法の展開方向との関連で--」東京大学社会科学研究所編『転換期の福祉国家・下』東京大学出版会、1988年6月、303-392頁
- 『土地基本法を読む』(本間義人・五十嵐敬喜と共編著)日本経済評論社、1990年7月、全347頁
- 「フランスの新『農業の方向づけの法律』と農業構造政策の再編-1980年代前半期」農業総合研究所『農業総合研究』46巻3号、1992年7月、35~105頁、および、「フランス の構造政策の再編と農地保有・流動化政策の方向」(同前論文の続き・後半部分)島本富夫・田畑保編『転換期の土地問題と農地政策』日本経済評論社、1992年3月、405~490頁
- 『現代の都市法--ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ--』(広渡清吾・吉田克己・戒能通厚・渡辺俊一と共編著)東京大学出版会、1993年 2月、全537頁(日本不動 産学会賞受賞、1994年 5月)
- 「新しい農業・農村・農地政策の方向と農地制度の課題--新政策関連二法律の制定とその評価をめぐって--」『法律時報』66巻 5~10号,1994年4月~9月,計54頁.
- "The Ageing Society, the Family, and Social Policy", Junji Banno (ed.), The Political Economy of Japanese Society, Vol.2, Internationalization and Domestic Issues, Oxford University Presse, March 1998, pp.175-228, 344-347(notes)
- 「扶養と相続--フランス法と比較してみた日本法の特質--」比較家族史学会監修/奥山恭子・田中真砂子・義江明子編『シリ-ズ比較家族第Ⅱ期』1号、早稲田大学出版会、1998年10月、167-237頁
5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ
(1)私の研究分野は、比較現代法大部門の生活関係法である。この分野のスタッフとして私は、フランス民法典成立過程における土地法史の研究(主要業績(1))を踏まえたうえで問題関心を現代に移行させ、(a)現代社会の都市・土地・住宅法制(同(2)、(5)、(5))、(b)農業政策と農業・農地法制(同(6)、(8))、(c)家族法と家族にかかわる社会保障法制(同(4)、(9)、(10))、(d)不動産私法(同(3))などを対象として、幅広い研究を行ってきた。
いずれの問題領域においても、①つねに日本とフランスとの比較という視点をもって、②当該問題の歴史的経緯を踏まえた実証的研究を行っていること、③しかもその際には、一般の法学研究のあり方とは明確に異なった学際的なアプロ-チの方法を採用していることが、私の研究の特徴である。③にいう「学際性」には、”民法とか行政法とかの個別の法領域を超える研究”という意味での学際性と、”法の問題を主たる分析対象としつつも、狭義の法律学の領域を超え、他の学問領域の研究とも結びつく研究”という意味での学際性の双方が含まれる。このような特徴をもった私の研究分野基礎研究と研究所の共同研究との相互関連のあり方をこの10年前後の時期について素描すれば、以下のようになる。
(2)かつて助手として在籍した本研究所に私があらためて着任したときには、研究所プロジェクト研究「福祉国家」が進行中であった。私は、第6巻担当の運営委員になると同時に運営委員会の求めに応じて、日本の住宅保障の問題を分析した(「戦後住宅法制の成立過程」『福祉国家6』1985)。この研究は、私にとって全く新しい課題への取組みであったが、続いて行ったフランスについての同種の研究(「住宅政策と住宅保障」社会保障研究所編『フランスの社会保障』東京大学出版会、(1989)とあいまって、従前から着手していた都市・土地法制の比較研究の内容を拡充させる重要な契機となった。
(3)(2)の共同研究の延長線上で実施されたグル-プ共同研究「転換期の福祉国家」(文部省経費による特定研究)では、私は、日本の社会保障・社会福祉との関係での家族の位置と役割の分析を担当し、「『日本型福祉社会』論の家族像」を執筆し(『転換期の福祉国家 下』1988)。これは、高度成長下での家族の変容に伴う社会保障政策と家族政策の展開を跡づけたあと、低成長下での家族の現状と政策転換の推移を追い、福祉見直しと高齢化社会への対応を図る日本型福祉社会論における家族の位置づけの特徴とそのもとでの政策展開の方向に潜む問題性を指摘した論文である。《社会保障・福祉と家族》というテ-マは、今日でこそ一般的になっているが、当時としてはかな斬新な切り口であった。「福祉国家」以来の共同研究の枠組みの中で課題に接近しようとしたことが、そのような視点の獲得を可能にしたのである。なお、この時期には私は、同時に別のグル-プ共同研究「現代家族法の比較法的研究」(特定研究)において、フランスの現代家族と家族法の変容の分析にも取り組んでいる(「フランスの離婚」に関する論文を執筆)。
(4)研究所プロジェクト研究「現代日本社会」では、(3)の研究の延長上で「高齢化社会と家族」を執筆した(『現代日本社会 6』1992)。そこでは、現代日本社会を「企業社会」「会社主義」という特質をもった高度成長後の「豊かな社会」と捉える共同の分析視角を踏まえつつ、その社会の特徴の一つである人口の高齢化とそれを支える家族(なかんずくその中での女性)と社会保障との関係を、近年の政策と法の展開動向を踏まえて実証的に分析し、そこにみられる日本的特質と問題点を析出した。少子化の問題や戦後家族法の限界などもすでに視野に入れており、その後の英文出版の中では、1994年までの時期を加えて、全体をあらためて書き下ろした論文に仕上げている(主要業績』(9))。また、戦後家族法の限界と日本的特質に関しては、さらに歴史にも溯ったフランス法との比較分析を行い、新しい問題提起を含んだ論文を発表した(同 (10))。なお、研究所プロジェクト研究「20世紀システム」では、班研究会、全体研究会での報告も行っていたが、種々の事情(在外研究での不在期間もあった)で執筆は見送った。
(5)グル-プ共同研究では、1987年以来「現代都市法の研究」を組織し、運営してた。このグル-プは、法社会学的な視座をもった都市・土地法の研究者が主体をなすが、経済学、社会学、都市工学等の研究者も参加した学際的共同研究組織であり、日本、欧米、韓国・台湾等の当該問題の専門家を含む。各国の歴史を踏まえた国別比較と緊密な共同討議を行うことにより、都市空間制御の法システムのもつ構造や機能(経済的なそれを含む)を捉える新しい分析視角を開拓しつつ、日本および諸外国の都市法に関する多数の成果発表をしてきた(主要業績(5)、(7)、参照)。最重要な業績 (7)の中では、私は、フランスに関する1章を分担したほか、共同研究の視角、方法と分析枠組を提示した「序説 比較都市法研究の視点」を執筆し、全体の編集の任にあたった。また、この共同研究の成果は、メンバ-による論文執筆を通じて「現代日本社会」プロジェクト研究にも活かされた。現在、日本に焦点を当てた研究成果の取りまとめ作業が最終段階にある。
(6)以上のように、私の主要な研究テ-マとその成果は、研究所プロジェクト研究あるいはグル-プ共同研究との密接な結びつきのもとに獲得されてきた。(1)で述べた研究方法や内容の特徴も、政治学・経済学・社会学等の諸領域の研究成果を吸収す一方、それらの領域の研究者にとっても積極な意味のある”法と社会の研究”を行おうとする過程で形成されてきたものである。いま一つの主要テ-マである「農業政策と農業・農地法制の比較研究」については、かつての海外学術調査(「農家相続実態の日欧比較」)を除けば、所内共同研究との直接的な結びつきが弱くみえるが、農業経済・史の研究者との日常的な接触・討論が私の研究を支える重要な基盤となっていることに変わりはない。事実、次期のプロジェクト研究では、まさにこのテ-マでの私の参加が予定されている。
このように私の研究分野基礎研究は、本研究所の比較総合的社会科学研究の基盤の一環を構成し、かつ、本研究所のスタッフにふさわしい固有性を有していると考える。
6. 今後の研究テーマ
- 都市・土地・住宅法制の比較研究(日本およびフランス)
従来からのグル-プ共同研究の延長上で「日本の都市法」(広義)について、歴史を踏まえた総括的な研究成果の取りまとめを行うとともに、「フランスの都市法」に関しても、研究分野基礎研究として同様の総括的な成果取りまとめを行う。 - 農業政策と農業・農地法制の比較研究(日本およびフランスとEC/EU)
従来からの研究分野基礎研究を今後に予定されている研究所プロジェクト研究の枠組みのもとでさらに発展させるとともに、フランスとEC/EU、ならびに日本に関するこれまでの研究成果の総括的な取りまとめを行う。日本については、とくにフランスやEC/EUとの比較の視点からみた場合の特質と問題点の析出に留意する。 - 現代家族法と社会保障政策の展開動向に関する比較研究(日本およびフランス)
日本について、現代家族の変容に伴う現代家族法の展開とそれらとの関係での社会保障政策の位置・役割のあり方に関する研究をさらに進め、従来のものよりさらに総合的な成果取りまとめを行うと同時に、フランスについても同様の視点に立った研究を実施する。 - 不動産私法の比較研究(日本およびフランス)
上記(1)の課題とは相対的に区別された問題領域を構成する日本の不動産私法(借地借家法、公営住宅法、区分所有法等)の諸問題を、一方では現代都市の住宅法制のあり方という視点を踏まえ、かつ、他方ではフランスの場合との比較の視点に立って、総合的に考察する作業に着手する。 - 私法分野を中心としてみた現代日本法の変容と法の役割の特質に関する研究
多様な領域の比較研究から得られた知見を踏まえて、主要には私法分野を中心として、現代日本法の変容と法の役割のあり方を--フランスの場合との比較の視点に立ちつつ--総体的に考察することを試みる。戦後日本社会が高度成長を経て「豊かな社会」になっていく過程の変化の様相と力学の検討の上に立って、グロ-バリゼ-ションと「市場化」、それに伴う各般の「構造変容」のもとで進行している新しい質の変化の様相と位相、その動因、意味、方向などを複眼的な視野から分析したい。また、この作業では、いわば”比較法社会学的アプロ-チ”ともいうべき分析手法の導入も試みてみる。
7. 主な教育活動
- 大学院
東京大学大学院法学政治学研究科において「民法」を担当している。
8. 所属学会
日本私法学会,日本法社会学会(理事・事務局長),比較法学会,日本農業法学会(常任理事・事務局長),民主主義科学者協会法律部会(理事),日本土地法学会,日本不動産学会,日本環境法政策学会(理事),日本マンション学会(評議員),農村計画学会,日仏法学会,Union Mondiale des Agraristes Universitaires, Comite European de Droit Rural, Istituto di Diritto Agrario Internazionale e Comparato(correspondant etranger)