東京大学社会科学研究所

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自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

橘川武郎

1.経歴

1951年 8月24日生まれ
1975年3月 東京大学経済学部経済学科卒業
1977年3月 東京大学経済学部経営学科卒業
1983年3月 東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程修了
1984年4月 青山学院大学経営学部専任講師
1987年4月 同 助教授
1987年9月~88年8月 アメリカ・ハーバード大学ビジネス・スクールのヴィジティング・スカラー
1993年10月 東京大学社会科学研究所助教授
1996年4月 同 教授
1996年5~6月 スイス・サンガレン大学客員教授
1996年9月 経済学博士(東京大学)
1998年6月 韓国・延世大学客員教授
1998年10月~99年3月 ドイツ・ベルリン自由大学客員教授

2. 専門分野

比較現代経済大部門,産業経済分野,専門分野:日本経営史

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. 日本電力産業史
  2. 日本石油産業史
  3. 日本不動産産業史
  4. 日本流通産業史
  5. 日本の政府・企業間関係
  6. 日本の財閥・企業集団
  7. 日本の企業金融
  8. 日本の労使関係
  9. 日本の企業間競争
  10. 経営史学の方法
  11. 阪神タイガーズ球団史

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『日本電力業の発展と松永安左ヱ門』名古屋大学出版会、1995年2月、Ⅵ+472頁
  2. 『日本経営史-日本型企業経営の発展・江戸から平成へ-』有斐閣、1995年3月、Ⅸ+341頁。宮本又郎、阿部武司、宇田川勝、沢井実との共著。「第5章 戦後の経済成長と日本型企業経営-高度成長期以後の企業経営-」(263-327頁)・エピローグ 日本企業が直面する問題」(329-332頁)を執筆。その後、1998年9月に増補版]を刊行
  3. 「革新的企業者活動の継起-本田とソニーの事例-」由井常彦・橋本寿朗編『革新の経営史』第9章、有斐閣、1995年6月、167-194頁。野中いずみとの共著
  4. “Enterprise Groups, Industry Associations, and Government : The Case of the Petrochemical Industry”, Business History, Vol. 37 No. 3, Frank Cass, London, 1995年7月、89-110頁
  5. 『日本経営史第4巻 「日本的」経営の連続と断絶』岩波書店、1995年10月、Ⅹ+321+7頁。山崎広明との共編著。「第6章 中間組織の変容と競争的寡占構造の形成」(233-273頁)を執筆
  6. “The Japanese Corporate System and Economic Growth”, Annals of The Institute of Social Science, No. 37, 1995年12月、21-50頁
  7. 『日本の企業集団-財閥との連続と断絶-』有斐閣、1996年12月、Ⅴ+238+6頁
  8. “A New Perspective on the Japanese Distribution System : Structure and Trade Practices”, Institute of Social Science, University of Tokyo, ed., Social Science Japan Journal, No. 1, Oxford University Press, Oxford, UK, 1998年4月、101-119頁。高岡美佳との共著。
  9. 『産業集積の本質 柔軟な分業・集積の条件』有斐閣、1998年9月、ⅩⅣ+316頁。伊丹敬之、松島茂との共編著。「第10章 産業集積研究の未来」(301-316頁)を執筆
  10. 「日本の企業システムと『市場主義』」『組織科学』第32巻第2号、1998年12月、15-24頁

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

社会科学研究所において私が担当する研究分野は、現代日本の企業、産業、経済である。ここでは、まず、1993年に東京大学社会科学研究所に移籍する以前と以後とに分けて、自らの研究活動の推移を簡単に振り返る((1)と(2))。そのうえで、自己の研究活動が研究所全体の研究活動にどのように寄与したかについて言及する((3))。

(1)社会科学研究所に移籍する以前の時期には、電力業を中心とする産業史研究に主として取り組んだ。1995年に刊行した『日本電力業の発展と松永安左ヱ門』(名古屋大学出版会)は、その集大成と言えるものである。同書の大きな特徴は、日本の電力企業の政府や財閥からの自立性を解明し、松永安左エ門という特定の経営者の歴史的役割に光を当てた点に求めることができる。

(2)社会科学研究所への移籍によって、私の研究活動は、大きな影響を受けた。その影響は、次の4点に要約しうる。第1は、研究対象が決定的に現代日本にシフトしたことである。1980年代の終りごろから社会科学研究所は国際比較研究をふまえて現 代日本社会を解析することを重要な使命の一つとして明示的に掲げるようになったが、このことは、もともと戦後の日本への関心を強めていた私の研究対象の選択に大きな影 響を及ぼした。ともに1995年に刊行した『日本経営史』(有斐閣、共著. 高度経済 成長以降の時期を執筆)と『日本経営史第4巻 「日本的」経営の連続と断絶』(岩波 書店、共編著)は、研究対象時期の戦後へのシフトを決定的なものとする契機となった。

第2は、「国際的にみて日本の何を解明することが求められているか」という視点を持つようになったことである。社会科学研究所には、世界各国、各地域の事情に通じ、現地語をマスターした専門的研究者が、数多く存在する。また、研究所の学術交流協定の提携先であるスイス・サンガレン大学やドイツ・ベルリン自由大学で、研究・教育に取り組む機会も得た。これらの専門家との接触や海外での研究・教育活動を通じて、このような点の重要性を痛感するにいたった。第3は、インター・ディシプリンの必要性 に対する認識を深めたことである。社会科学研究所では、経済学だけでなく、法学、政 治学、社会学、情報学などに携わる様々な分野の研究者が活動している。また、経済学 の中でも、種々の異なるディシプリンが併存している。日本の他の研究機関ではあまりみられないこのような環境から得られるものは、ことのほか大きい。第4は、「日本企 業に注目する」という視座を固めたことである。国際色が豊かで多様なディシプリンがしのぎを削る社会科学研究所で活動する日々を重ねるうちに、私は、自らの研究のレーゾンデートルを確立する必要に迫られた。その結果、到達したのが、このような視座である。例えば、1996年に刊行した『日本の企業集団』(有斐閣)で、国際的に適用しうる仮説の提示を意識しながらも、ひとまずは一国史的な分析を行ったのは、このためである。また、研究所の全体研究「20世紀システム」の一環として執筆した論文「経済開発政策と企業-戦後日本の経験-」(1998年)でも、まず日本企業の動向に注目して、そこからアジアや世界へ向けて仮説を発信するという姿勢を貫いた。なお、「日本企業」と言う場合、大企業だけでなく、中小企業も視野に入れるべきだと考えている。ともに1998年に発表した『産業集積の本質』(有斐閣、共編著)や、“A New Perspective on the Japanese Distribution System : Structure and Trade Practices”(Social Science Japan Journalへの投稿論文。共著)は、私にとって、「日本の中小企業に注目する」作業の出発点となるものである。

(3)私が移籍した1993年から今日まで、東京大学社会科学研究所は、「20世紀シテム」についての全体研究に取り組んできた。この全体研究においては、組織委員会のメンバーではなかったが、開発主義班と経済班の二つの班に属して活動し、「経済開発政 策と企業-戦後日本の経験-」と、「『消費革命』と『流通革命』-消費と流通のアメ リカナイゼーションと日本的受容-」という2論文を執筆した。これらのうち「経済開発政策と企業」では、戦後の日本での経験をふまえつつ、開発主義を考察する枠組みとしては、「政府と市場」という視角よりもむしろ「政府と企業」という視角が重要であると、主張した。また、「『消費革命』と『流通革命』」では、戦後日本の消費流通のあり方の推移を検討して、アメリカナイゼーションと日本的受容という通説的な見解とは異なる日米間の複雑な相互作用を指摘した。これら二つの論文には、上記(2)で 前述した、社会科学研究所が私の研究活動に及ぼしたいくつかの影響が反映されている。社会科学研究所におけるグループ共同研究に関しては、1998年に「企業集団研究」を新たに組織し、その研究代表者として活動した。この共同研究の最初の成果である『6大企業集団・融資系列の株式持合い-1974、1984、1994年の企業別データ-』は、東京大学社会科学研究所編纂の資料集第16巻として、近日中に刊行される予定である。社会科学研究所の研究者育成活動や研究交流活動に関連しては、経済学 研究科での大学院生の指導教官としての活動、スイス・サンガレン大学での客員教授としての活動、ドイツ・ベルリン自由大学での客員教授としての活動、などを行った。中でも、指導教官としての活動を通じて、今後私自身を確実に乗り越えてゆくであろう有望な若手研究者の育成に成功したことは、幸いであった。

6. 今後の研究テーマ

  1. 日本経済や日本企業が現在直面する危機の打開方策に関する研究
    Study of the current Japanese economic crisis
    1998年10月~1999年3月にドイツ・ベルリン自由大学東アジア研究所で教壇に立った時、質問が集中したのは、このテーマについてであった。日本経済再生のプロセスにおける会社主義の可能性という観点から、研究を進める。
  2. 日本の企業金融に関する研究
    Study of the Japanese corporate finance
    現下の日本の経済危機の本質は、金融システムの危機にある。十分な実態把握ともなわないままにメインバンク・システムの優秀性などが強調されてきた従来の研究状況を批判することから出発し、当該テーマに関する実証研究に取り組む。
  3. 日本の労使関係に関する研究
    Study of the Japanese industrial relation
    日本的経営の「三種の神器」がすべて労使関係にかかわる事柄であることからわかるように、労使関係は、日本の企業システムのコアに位置するサブシステムである。日本企業が労働力商品化の無理にいかに対応したかという観点から、研究を進める。
  4. 日本の消費と流通の戦後史に関する研究
    Study of the postwar Japanese consumption and distribution
    消費におけるアメリカナイゼーションの進行と、流通システムにおけるアメリカナイゼーションの限界とのあいだの齟齬に注目しながら、当該テーマに関する実証研究に取り組む。
  5. 日本の企業グループに関する研究
    Study of the Japanese company groups
    グループ共同研究「企業集団研究」に、引き続き力を入れる。当面、1999年度は、系列融資の企業別データの作成をめざす。
  6. 日本における規制緩和と規制産業の今後のあり方に関する研究
    Study of the deregulation and the regulatory industries in Japan
    石油産業のケース・スタディを通じて、当該テーマに関する識見を得る。ケース・スタディでは、石油精製・販売業だけでなく、石油探鉱・採掘業の今後のあり方についても展望してゆきたい。
  7. 日本の産業集積に関する研究
    Study of the industrial accumulation in Japan
    1998年に刊行した『産業集積の本質』(「6.1998年度の研究業績」の(2)の中で提示した、産業集積の経済的合理性に関する理論仮説の妥当性を検証することに取り組む。そのために、大規模なアンケート調査を行いたい。
  8. 日本の電力産業史に関する研究
    Study of the development of the Japanese electric power industry
    長年にわたって取り組んできた日本の電力産業史に関する研究を取りまとめることをめざす。当面は、東京電力編纂の『関東地方の電気事業と東京電力』の執筆に着手する。

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院経済学研究科で「産業」,「日本経済史」,「論文指導」などを担当。

8. 所属学会

経営史学会(理事,編集委員,研究組織委員),社会経済史学会,European Business History Society

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