東京大学社会科学研究所

東京大学

MENU

研究

所員の研究

加藤晋・石原章史『企業組織における透明性』
Cato, S., & Ishihara, A. (2017). Transparency and performance evaluation in sequential agency. The Journal of Law, Economics, and Organization, 33(3), 475-506. DOI: https://doi.org/10.1093/jleo/ewx008

2019.11.21更新

概要

 企業の経営デザインの論点の一つとして「透明性」の問題があります。企業内のメンバーが自分たちの知識や活動に関する情報を共有できているような透明性の高い組織は、理想的であるとしてよく主張されます。一方で、透明な組織ではメンバーが多くの情報を持つために、情報に応じた機会主義的な行動(例えば、まじめに働かずにサボるなど)を引き起こす可能性もあり、透明な組織が常に望ましいとは一概には言えない側面もあります。

 この論文では、企業組織における透明性の是非を、モラルハザードのモデルを基づいてインセンティブの観点から理論的に分析しました。自分のグループのなかで先に動いた人の仕事ぶりを後に動く人が観察できるかどうかをもって透明性の度合いを定義し、透明性の度合いに応じた最適な報酬体系と透明な組織が望ましくなるための条件を特徴付けました。大雑把に言えば、透明性はメンバーをグループ単位での業績によって評価すべき仕事には有用となる一方で、チーム内での競争的な相対評価によって評価すべき仕事にはむしろ悪影響をもたらすことが明らかになりました。そこで、透明性はいつでも有用なわけではなく、企業に存在するタスク、それに付随する業績指標が透明性と補完的となるかを見極めなければならないことになります。これらの結果は、一部の先進的な企業が透明性をあえて下げているような事実と整合的です。

TOP