東京大学社会科学研究所

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社会科学研究所について

研究所長からのご挨拶


社会科学研究所長
玄田有史

 東京大学社会科学研究所(通称「社研」)は、第二次世界大戦終戦の翌1946年に設立され、2023年で77年目を迎えました。この間、社研の教職員の諸活動に対し、ご支援、ご協力をくださいましたすべての方々に、心より感謝申しあげます。

社研の設立を主導した南原繁・総長(当時)は、その設置事由に関し、「純粋に学問の立場から、戦後の復興、平和民主国家及び文化日本建設のために、真に科学的な調査研究を目指す機関の必要なるを痛感せしめられるに至った」と述べています(「社会科学研究所の設置について」『社会科学研究』第一巻、1947年、157頁)。背景には、多くの人々の生命と暮らしを奪い去った戦争に対し、時勢に歪められた学問が必要な責任を果たし得なかったことへの痛切なる反省がありました。その思いを南原総長と共有した多くの人々の情熱と尽力により、社研は設立されました。

東京大学百年史では、社研の設立について、次のように記されています。「「社会科学」という言葉自体が使用を封じられ、抑圧されていた暗黒の時代のあとで、それは大学と学問の歴史に新しい時代を拓くものと考えられたはずである。社会科学研究所は、新生日本の建設に資する方向への大学と学問の革新の拠点となるべき使命を担っていたといっても過言ではない。」(東京大学百年史・部局史4・第17編、373頁)。

真に科学的な調査研究を目指す機関として、社研の関係者一人ひとりが、77年前と変わらず今もなお大切にしていることがあります。それは、どんなときも複眼的に現実のものごとを見、考えることです。そして重層的に学問としての問いを立てつつ、真理の扉を開こうとすることです。

社研では、設立以来、日本を含む世界の国々と地域における社会を、国際比較という視点から俯瞰的に把握することを旨としています。そして、法学、政治学、経済学、社会学という社会科学の4分野の研究者が一つの機関に属するという独自の恵まれた環境のもと、日々の交流や相互研鑽を積むことで、社会科学の総合的な知を追求しています。加えて社研では、理論と現実との結合を考え、「学問の研究を国民生活の基底にまで滲透」(前掲『社会科学研究』第1巻、158頁)すべく、社会に向けて実践的な研究活動を続けることも、つねに志向されています。

社会科学は、人間の営みにかかわる現象全般が研究の対象です。物質的なものから精神的なものまでが、あまねく社会にかかわっています。対象の多くは、たえずダイナミックな変化を繰り返しています。そのような広範で複雑な社会とその現象を考察する上で、とにかく学術的な成果を得たい場合には、研究対象を狭く定め、しゃにむに深堀りしていく「深くて狭い」アプローチが、選択される傾向が一般にはあります。反対に、なにより広く注目を集めたいのであれば、わずかな直感と経験を頼りに、なんでも直截に語る「広くて浅い」アプローチも有効なのかもしれません。

しかしながら、社研が目指しているのは、そのどちらでもありません。目指すのは、いわば「深くて広い」アプローチです。そのために、所員一人ひとりが、科学研究費補助金なども活用させていただきながら、専門分野基礎研究に日々精進し、学問的深化に挑んでいます。同時に、所を挙げた全所的プロジェクト研究グループ共同研究にかかわることを通じ、広くて柔軟な知見とそこからしか得られない独自の分析や行動にも取り組んでいます。研究所の伝統であり、50年以上続いている全所的プロジェクト研究では、2021年度から「社会科学のメソドロジー:事象や価値をどのように測るか」に着手しています。社会科学の方法論に再検討を加えつつ、社会のありようをいかに測るか、測ることがいかなる社会的価値を創造するかなどについて、人々の生活や人生に資する新たな知見を求めていきます。

これらの研究活動とあわせ、社会調査の独自の実施やデータの収集・保管・提供を行っている附属社会調査・データアーカイブ研究センター(CSRDA)、日本の社会科学研究の成果を世界に発信する役割を担っている英文の社会科学専門誌Social Science Japan Journal(SSJJ)、社会科学の豊富な資料を収集・保存している図書室など、いずれも高い評価をいただいています。さらには東京大学の人文・社会科学研究者による海外での書籍出版を支援する英文図書刊行支援事業(UT-IPI)の遂行など、社研は東京大学にとって欠かせない存在となっています。あわせて現在、さまざまな企業や組織とともに、共同研究や社会連携研究などにも積極的に取り組んでいるところです。これらの社研の日々の活動や実績については、随時こちらのホームページと社研メールニュースなどで情報発信をしていきます。

加えて、若手の社会科学研究者養成やダイバーシティ&インクルージョンの実践も、研究所の重要なミッションとなっています。

どんな時代であっても、社会科学は、社会に生きる人々と共に歩み続けるものでなければなりません。そのために社研は、苦しさややり切れなさを抱える人々にたえず思いを寄せながら、にもかかわらずより良き社会は築けるのだという愉快なる希望を胸に、社会を研究する他に類のない「深くて広くて愉快な」学問の場として、努力を重ねていく所存です。

これからも社会科学研究所に、変わらぬご支援とご協力をお願いします。

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