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全所的プロジェクト研究成果
『20世紀システム』

刊行にあたって

 20世紀のその終わりを間近に控えて、我らの時代の意味が様々に問い直されている。今世紀は世界大戦と社会主義の成立によって始まり、アメリカ的な国内・国際秩序の確立とその国際的伝播とによって特徴づけられる。この世紀をパックス・ルッソ=アメリカーナの時代として、即ち二つの対抗的な構想が構造化(システム)し、さらに構造のサブシステムの組み替え(システムの変容)が進行していくプロセスとして捉えるのがこの研究のねらいである。

 対抗的な構想にもとづいた、二つの世界システムの設計は、まずは国際的な政治・軍事システムの構築における対立となった。冷戦体制がそれである。

 ただ、その際、われわれは、冷戦体制の深部で、二つの世界システム構想の優劣を決する変化が進行していたことを重視したい。そのプロセスの主要動因を、広義の技術体系としてのアメリカ的生産方式が、それを支える市場・労働・国家システムとともに、地球の全域に波及していったところに求める。自由競争と多角的で無差別な貿易体制をシステム設計の基本とする。この構想はそれ自体極めて歴史的に規定された性格を持つにも関わらず一つの〈普遍〉として構造化されていった。20世紀システムの軸は、アメリカの進めた構想にあったのである。

 しかし、アメリカを中心とする20世紀の世界システムが、強烈な固有性を持つアジア・ヨーロッパなどの地域を、サブ・システムとして包摂しようとするに際しては、ヨーロッパでは頑強な抵抗を受け、日本ではその学習の結果逆に大きな変容を受けた。また、アジアの開発の試みもしばしば障害に遭遇し、挫折にまで至った事例もある。システムの均衡はつかの間達成されたかに見えながら、直ちに撹乱されずにはいなかった。加えてこのシステムは常に社会主義という対抗システムとの経済的軍事的な対抗のもたらす緊張にさらされていたことはいうまでもない。にもかかわらず、ソ連型社会主義の崩壊を見る以前において、今世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれなければならない。

 少品種大量生産を中核とする経済力の巨大な発展は、そのもたらした直接間接のインパクトに着目するならば、この時代を経済成長の時代として捉えることを可能にする。19世紀の国際社会の範囲を超えて群生した新生国家の年代記もまたこれを開発主義の歴史として把握できるであろう。そして、そこにはドラマがあった。「アメリカの世紀」が黄昏を迎えようとするとき、アジア諸国はかつては想像することもできなかったような急速な経済発展を実現しつつある。

 もちろんサブ・システムの外延が拡がり、包摂の対象地域が自律性を増すにつれ、またその包摂の深度が市場取引の領域から家族・コミュニティー・環境といった取引が困難な領域におよぶにつれて、この強力な政治的経済的システムに対する抵抗は強まっていく。こうして、20世紀はそのような地域・領域においてアメリカ的世界秩序の波及から独立した変化が進行した時代でもある。グローバリゼーションの中で揺らぎながらも存続している国民国家にわれわれが注目するのも、そのような多様な意味を明らかにするためである。

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