東京大学社会科学研究所

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研究

『社会科学研究』第72巻第2号

静かなる流出:ポスト3.11における日本人高度人材の豪州への移住

大石 奈々/OISHI Nana、濱田 伊織/HAMADA Iori

Keywords: 高度人材、移住、リスク、福島、災害、日本、オーストラリア

抄録

 日本 から海外への移住者は増加の一途を辿っている。海外在留邦人は130万人を超え、国外の永住権保持者は2017年に過去最多の48万4150人に達した 。オーストラリアは現在、邦人永住者が世界で2番目に多い国である。日本人の海外移住増加の背景には何があるのか。オーストラリアが移住先として人気の高い国の1つになっているのはなぜか。先進国の高度人材はよりよいライフスタイルを求めて移住するというのが一般的な理解であるが、本研究によれば、2011年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の後に日本を離れた高度人材は、震災後に顕在化した現在および将来のリスクを懸念して移住を決めていた。本稿はインタビューによる詳細な質的調査をもとに、海外移住決定に関するナラティブ(語り)の中から浮かび上がった社会・政治・経済・環境リスクを分析する。この現象を包括的に理解するには今後さらに事例研究を積み重ねる必要があるが、本研究は3.11後の日本からの人材流出には、教育レベルの高い人々の間におけるリスクへの感応性の増大、リスク回避志向性、政治的意識といった幾つかの独自の特徴を内包していることを示唆している。

社會科學研究 第72巻 第2号(2021-03-31発行)

(更新日: 2021年 5月 10日)