東京大学社会科学研究所

東京大学

MENU

研究

社研セミナー

労働市場におけるポジショナルな報酬不平等問題に社会学はいかなる貢献が可能か?
―日本と韓国の事例を基に―
有田 伸(社会科学研究所)

日時:2011年11月 8日 15時-17時
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 他国の研究状況に比べると、こんにちの日本の社会学における階層・不平等研究には「(所得など)報酬格差の研究が少ない」という特徴が認められる。「所得の問題は経済学者が扱い、社会学者は社会移動や階層意識の問題を扱う」という暗黙の役割分担が日本では特に強かったこともこの一因と考えられるが、いずれにせよこのために、日本の社会学においては報酬格差問題に対する独自のアプローチが十分には展開されず、社会学者がひとびとの報酬格差の説明を試みる場合でも、人的資本論をはじめとする主流派経済学の理論的視座の無批判の借用を余儀なくされてしまっている。社会学の領域における階層・不平等研究の多くは、社会経済的な格差の分析視点として「個人」よりも社会構造上の「地位」に着目しながらも、なぜそれらの「地位」の間に報酬の格差が生じるのかを十分に説得的な形で説明することができない、という状況が生じているのである。

 本報告はこのような関心に基づき、社会学の視点を生かしつつ、従来とは異なる報酬格差の説明図式の構築を目指すものである。具体的には、日本や韓国における雇用形態間(正規職/非正規職間)の報酬格差等を事例としつつ、具体的な制度条件やひとびとの規範意識をも視野に入れながら、労働市場におけるポジションそれ自体に付随する報酬格差がどのように生じ、再生産されてきたのかを説明するための仮説的な視座を提示する。さらに、このような視座に基づいた場合、何が今後のリサーチ・アジェンダとして重要になるのかを検討する。


TOP