研究
社研セミナー
用益権(usufruit)とは何か フランス家族財産法の一断面
齋藤哲志(社会科学研究所)
日時:2013年 7月9日 14時50分-16時30分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)
報告要旨
フランス法上の他物権の一つである「用益権(usufruit)」は、わが国の民法典に継受されなかったこともあり、必ずしも十全には検討されてこなかった。もっとも近年では、用益権が財産管理の一手法を提供し得ることに着目し、これと信託等との異同を論ずる複数の比較研究が見られる。
本報告もこうしたモチーフを共有するものの、以下の二つの観点を掘り下げることでフランス法に一層深く沈潜する。第一に、用益権を取り巻く制度が家族内の財産移転を規律するに相応しく設計されていることを明らかにする。民法典の規定にとどまらず、租税法上の事実上の優遇措置や公証人が担う実務慣行にも視野を広げ、「生前贈与による相続財産の先渡し」という用益権が機能する具体的場面を摘出する。第二に、用益権に関する物権法上の言説について、これを沿革に遡りつつ再構成し批判に付する。用益権は、伝統的に、所有権の権能の一部を他者のために切り出し(=「分肢する(démembrer)」)たものと説明される。しかし、上記の利用実態との照合を行うとき、この説明はある種の破綻を来たし、所有権理論の歴史的文脈に起因するバイアスが露見する。
斯様な分析を踏まえて用益権の実像を言語化する。改めて概括するならば、本報告は、家族法と物権法の交錯領域としての「家族財産法」を、フランスの一つの法概念に即して実践的に記述する試みである。