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教授任用10年の自己評価とこれからの10年の研究:超低炭素社会に向けての排出原単位規制の役割
松村敏弘(社会科学研究所)

日時:2019年11月12日 15時00分-16時40分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 セミナーの前半は教授任用後のパフォーマンスを数字を使って振り返り、自己評価したうえで、今後の10年の研究の目標を挙げる。 後半は、今後の研究課題の一つである排出係数に基づく環境規制(排出原単位規制)に関して現時点で得られている成果を報告する。
 将来の超低炭素社会の実現のための一つの有力なシナリオは、電化+電源のゼロエミッション化である。そのためにも電力セクターの排出係数を長期的に削減し、最終的にはゼロ近傍に持っていくことが不可欠である。環境規制に関しては、日本は伝統的に「排出係数」を目標とし、これを削減する政策がとられてきた。
 しかし、排出係数の規制は、生産1単位当たりの二酸化炭素排出量を削減できたとしても、生産量自体が拡大すれば排出量が増大しかねない。実際に排出係数規制では、低炭素電源を用いる誘因は高めるが、電力消費量を抑制する効果が弱く、そのため二酸化炭素排出削減のための政策としては不適切で、総量規制、あるいは排出係数を下げかつ消費量も抑制する効果を持つ炭素税等のカーボンプライシングが望ましいとの主張は学問的には主流で、日本の政策は必ずしも高く評価されてこなかった。 理論的には、完全競争下では炭素税によって最善解を導くことは可能だが、排出係数規制ではそれが出来ないことが知られており、完全競争を前提とする限りこの批判は正しい。しかし、不完全競争市場においてはそもそも生産量が過小で、消費量(生産量)抑制効果の小さい排出係数規制がより効率的である可能性がある。 つまり排出係数規制は優れた規制手段である可能性がある。
 本報告では、排出係数規制に関して私自身の最近の3つの論文の成果、
(1)ゼロエミッションに近い目標を挙げる超低炭素社会において、排出係数規制が炭素税よりも優れていること
(2)炭素税を導入し、電化促進のために税収を再エネ賦課金の軽減に充てる政策は排出係数規制と同値であること
(3)排出係数を基準とし、未達成分を環境税で調整する政策で、不完全競争市場においても最善解が得られること
を紹介する。

■参考資料
Hirose, Kosuke & Matsumura, Toshihiro, 2017. "Emission Cap Commitment versus Emission Intensity Commitment as Self-Regulation," MPRA Paper 82564, University Library of Munich, Germany.
https://ideas.repec.org/p/pra/mprapa/82564.html

Hiroaki Ino & Toshihiro Matsumura, 2019. "The Equivalence of Emission Tax with Tax-Revenue Refund and Emission Intensity Regulation," Discussion Paper Series 188, School of Economics, Kwansei Gakuin University.
https://ideas.repec.org/p/kgu/wpaper/188.html

Hiroaki Ino & Toshihiro Matsumura, 2019. "Optimality of Emission Pricing Policies Based on Emission Intensity Targets under Imperfect Competition," Discussion Paper Series 199, School of Economics, Kwansei Gakuin University.
https://ideas.repec.org/p/kgu/wpaper/199.html

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