研究
社研セミナー
「政権交代なき政治」における政党・官僚制・独立機関
牧原出(東京大学先端科学技術研究センター)
日時:2024年6月11日(火)15時~16時40分
オンライン(Zoom)
報告言語:日本語
報告要旨
本報告は、日本政治について、政党政治・官僚制・独立機関の3つの視角からの分析が有効であることを示す。報告は資料状況を説明しつつ、従来必ずしも共有されてはこなかったこれらの分析視角の関連が、なぜ有効なのかを明らかにしたい。国際比較においては、ドイツの行政組織法理論、英米の政治制度論の視角に留意しながら、今後の政治学研究に向けて何が課題となるかを論じる。
第1に、戦後の日本政治について様々な研究が行われてきたが、政権交代が近年に至るまで見られなかったため、政党政治においては自民党の分析が中心とならざるを得ず、その際には官僚制との関係が不可欠であったにもかかわらず、それが解明されていないことを示す。自民党政治の特質とその政策決定の変容は何か、さらには「党近代化」以前の組織的特質が政策決定にどのような影響を与えているかについても議論する。諸資料の状況と、オーラル・ヒストリーで何が明らかになったかもあわせて論じる。
第2に、政権交代なき政治において、官僚制と政策決定の機能が相対的に高まったにもかかわらず、内部の動態と制度的特質についての分析がいまだ十分ではない。報告者は歴史分析によって、様々なアーカイブにおける官僚制の資料を再検討し、並行してオーラル・ヒストリーを行うことで、官僚制内部の動態についての研究を続けてきた。研究状況を説明しながら、何をどこまで解明できたのかを共有したい。
第3に、司法政治研究がきわめて貧弱な日本の政治学では、司法権のみならず、公正取引委員会、会計検査院、人事院、近年で言えば原子力規制委員会などの独立機関の制度研究・規制分析などがほとんど行われてこなかった。Who guards the guardian?と欧米でしばしば問われる分野について、どう応答するか。政権交代との関わりでこれが近年に特に重要になりつつある状況と、分析の意義について論じる。近著『田中耕太郎』の分析動機と、その意義についてもあわせて示す。
以上を踏まえることで、徐々に「政権交代ある政治」へと移行しつつある2009年以降の日本政治も理解が可能になるというのが本報告の帰結である。最後に第二次安倍晋三政権で生じた事象の歴史的・政治学的意義は何かについて論点を提示することにしたい。