基本的活動

「プロジェクト型研究所」としての社会科学研究所

三層の研究活動

 社会科学研究所の研究スタッフは、法学・政治学・経済学・社会学という社会科学の4つのディシプリンにまたがっています。このような構成は、全国の国立大学法人附置研究所のなかで他には見られない社会科学研究所の特色です。

 また、社会科学研究所は、特定地域の研究に特化した地域研究機関ではありませんが、研究スタッフは、日本のほか、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、欧州連合、ロシア、ポーランド、中国、タイなど、南北アメリカ、東西ヨーロッパ、東アジアを広く研究対象としてカバーしており、これら諸地域との“比較”と“関係”という観点から、日本社会を社会科学的に研究するための主体的条件が整っています。

 社会科学研究所における研究活動は、3つの層からなっています。

 第1は、個々の研究スタッフが、それぞれの専門分野において、自律的に課題を設定して行う〈専門分野基礎研究〉です。

 第2は、数年を単位に、社会科学上の重要テーマに取り組む〈全所的プロジェクト研究〉です。研究スタッフの討論にもとづいて研究所がテーマを自律的に決定し、社会科学の諸ディシプリンを横断する複合的アプローチをとり、国内外に広がる開かれた研究ネットワークを築きつつ、厚みのある研究成果をまとめ、刊行しています。

 第3に、スタッフ個人の責任において行う〈専門分野基礎研究〉と研究所として取り組む〈全所的プロジェクト研究〉との中間に、研究所の研究スタッフが中心となり、研究所内外の研究者を結集して日常的に行っている〈グループ共同研究〉ないし〈サブ・プロジェクト研究〉が広がっています。主として同じディシプリンの研究者によって組織されるものとディシプリンの枠を超えた研究者によって組織されるもの、また、共同研究の成果のとりまとめについて比較的具体的な目標をもったプロジェクト型、研究者間の持続的な意見交換・情報交換に主眼をおく研究交流型、両者の混合型など、その性格はさまざまです。〈全所的プロジェクト研究〉から派生したものもあれば、将来〈全所的プロジェクト研究〉に発展する可能性のあるものもあります。

 〈全所的プロジェクト研究〉その他のプロジェクト研究に着目したとき、社会科学研究所を「プロジェクト型研究所」と特徴づけることができます。〈全所的プロジェクト研究〉は、社会科学研究所が築いてきた伝統であり、そのもっとも特徴的な活動のひとつとなっているからです。

 同時に、中期的な時間幅で継起的に展開される〈全所的プロジェクト研究〉の基礎には、より持続的な〈専門分野基礎研究〉があることを忘れてはなりません。そこで一人ひとりが優れた研究者として能力を発揮し実績をあげることが、研究所全体の研究の土台となっているのです。また、〈全所的プロジェクト研究〉をはじめとする共同研究への参加が、各人の〈専門分野基礎研究〉の幅と厚みを増すという効果をもたらすことが期待されています。

 社会科学研究所の研究活動は、以上のような循環構造をなす三層の活動全体に即して評価を受けるべきものと考えられます(ちなみに、比較現代法など4つの部門は、それぞれが一定の研究課題をもつ研究ユニットとしての意味をもつものではなく、研究スタッフの帰属先を示すものにすぎません)。

全所的プロジェクト研究

 社会科学研究所はこれまで、「基本的人権」、「戦後改革」、「ファシズム期の国家と社会」、「福祉国家」、「転換期の福祉国家」、「現代日本社会」、「20世紀システム」というテーマで〈全所的プロジェクト研究〉を行い、それぞれ2巻ないし8巻からなる成果を、東京大学出版会から刊行してきました。

 2000?2004年度には、「失われた10年? 90年代日本をとらえなおす」(The Lost Decade?: Re-appraising Contemporary Japan)と題するプロジェクト研究を実施しました。このプロジェクトは、90年代は改革の機会を逃した「喪失の10年」であったという通説的な見解を批判的に検討しつつ、90年代の日本において、実際には何が生じ、何が生じなかったのかを実証的に解明し、さまざまな点で長期的な構造変化の生じた90年代の歴史的位置づけを与えることをつうじて、21世紀の日本のあり方を考えるための基礎的な知的基盤を提供することをねらいとしたものでした。その成果は、研究所紀要「社会科学研究」、「社会科学研究所研究シリーズ」などにおいて順次発表されているほか、個別的な研究書の形でも出版されつつありますが、総まとめとして、2005年度中に社会科学研究所編の2冊の出版物を刊行する予定です。

 プロジェクト研究「失われた10年?」は、相対的に自立性をもった12の個別プロジェクトが「失われた10年?」という共通テーマのもとで緩やかに結びつく形で進められました。その結果、個別プロジェクトのレベルにおいて、研究所外の国内外の研究者との連携がかつてなく広がるという貴重な成果を生みました。その反面、個別プロジェクトと「90年代日本をとらえなおす」という共通課題との内的関連において多かれ少なかれ濃淡が生じることは避けられませんでした。

 そこで、最終年度となった2004年度に、次期の全所的プロジェクト研究においては、独立した2?3のプロジェクトを同時並行的に進めることによって、所員のもっている多様なアイディア・創意を生かしつついっそう凝集性の高い共同研究を実現するという、社会科学研究所としてはかつてない方式を試みることを確認しました。

 これを受けて、2005年4月から、次の2つの〈全所的プロジェクト研究〉が4年間の計画でスタートしています。

 ひとつは、「地域主義比較」(ISS Comparative Regionalism Project: CREP)プロジェクトです(プロジェクトリーダー:中村民雄助教授)。

 このプロジェクトは、ヨーロッパ(EU)、南北アメリカ(NAFTA, メルコスールなど)、そして東アジアで興隆してきた地域主義について、法学・政治学・経済学の各視座から三地域共通の分析枠組みを設定し、その経緯と現状を分析しようとするものです。地域主義の制度化に関与する主体的アクターとして、従来のように国家(政府)だけでなく、企業や市民組織、地方自治体にも視野を広げることをめざしています。また、とりわけ東アジアについては、EUなどの経験に照らしながら、今後の制度化のための理論モデルを提示することを目標としています。テーマの性格上、国際的な共同研究を重視していることも、このプロジェクトの特徴です。

 もうひとつは、「希望学」プロジェクトです(プロジェクトリーダー:玄田有史助教授)。

 このプロジェクトは、バブル経済崩壊のあとの長期不況のもと、経済も社会も大きく変わりつつあるなかで、若者も熟年者も将来に対して希望をもつことができず、漠たる不安を抱いているという現状を、日本社会そのものへの警鐘としてとらえ、これに社会科学の立場から取り組もうとするものです。希望とはそもそも何なのか、社会のあり方と人びとの希望とのあいだにはどのようなつながりがあるのか、人びとが希望をもって生きることのできる社会とはどのような社会か、このような問いに対して、安直な答えを用意するのではなく、社会との対話を重視し、社会調査やヒアリング調査などを重ねながら、「希望についての社会科学」を築くことをめざしています。

研究成果の社会への還元

 社会科学の研究は常に一定の社会的文脈のもとで行われ、その結果は何らかの社会的インプリケーションをもたざるをえません。とくに、近年では、政策的示唆を与えるような研究に対する要請が高まっています。このことを自覚しつつ、「研究成果を社会に還元するについて、成果を短絡的に求めるのではなく、普遍的な学術の体系化に繋げることを目指」す(東京大学憲章)という立場を踏まえ、社会科学研究所は「政策の形成プロセスの分析、既存の政策・制度の評価、望ましい政策・制度設計に向けた提言、あるいは具体的な政策的インプリケーションをもたらす研究」を広く意味するものとして政策研究をとらえたうえで、これを研究所における研究の一要素と考えています。この意味では、「地域主義比較」「希望学」を含め、〈全所的プロジェクト研究〉も政策研究としての側面をもっています。

 また、個々の研究スタッフは、それぞれの責任において、国や自治体など政策形成にかかわるさまざまな場で活発に活動しています。それらの活動については、教授会において承認する手続をとり、社会科学研究所年報において研究スタッフの活動の一環として公開しています。

 2004年度に設置された人材ビジネス寄付研究部門は、社会科学研究所としては新しい形態の、研究成果の社会への還元の場となっています。市場環境のグローバル化や不確実性の増大、労働力供給構造の変化、労働法制の変化、人材ビジネスの発展を前提とした、企業の人材活用の現状と課題を理論的かつ実証的に明らかにすること、さらに、その研究成果をもとに、企業の人材活用ニーズを充足するうえで人材ビジネスに求められる経営戦略および人事戦略上の課題を検討することを研究課題とする同部門は、民間からの財政的支援を受けつつ、大学としての自律性を維持して研究を進めています。

東京大学 社会科学研究所

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