社研セミナー

財政における「ルール」と「法」―社会科学の分野横断的な対話のための1つの素材として
藤谷武史(社会科学研究所)

日時:2012年 7月10日 15時-17時
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 現在、欧州国債市場の混乱を直接の契機として、しかしより本質的には中長期的な高齢化の進展をにらんで、先進各国で財政規律の回復の必要性が叫ばれている。

 こうした文脈の中、研究者が注目しているのが、毎年度の予算編成を軸とする財政運営に予め拘束的なルールを定めておくことで政府を財政規律にコミットさせるという、「財政ルール」の役割である。財政規律が弛緩しがちな原因の一つが、長期的には財政規律が必要であることは認識しつつも直近の「痛み」には耐えられないという認知バイアス(双曲的時間割引)にあるとすれば、財政ルールによるコミットメントはこれに対処するための合理的な手段であるように思える。

 しかし、財政ルールが直面する問題として、(1)例外的な経済状況の悪化に対して硬直的に均衡財政を維持することは望ましくないものの、何が「例外的な」状況かを事前に定義することは極めて困難(ルールの不完備性)、(2)財政ルールが法律レベルで定められている場合、当該ルールが規律する対象であるはずの立法者がルールを変更できてしまう(いわゆる"Who guards the guardian?"問題)、(3)立法者が容易に改変できないレベル(憲法・国際条約等)で当該ルールを定めたとしても、エンフォースメントの実効性は必ずしも保障されない、という側面がある。財政ルールの実際の導入例をみても、「ルールを導入すれば望ましい状態が実現する」という単純な関係にはない(かといって全く無意味というわけでもないように思われる)。となれば、ルール(のみ)が財政制度を作るのではなく、財政制度の一構成要素としてルールがある、というのが、より正確な捉え方と言えよう。

 本報告では、財政ルールの実効性に関する先行研究を紹介しつつ、本来的に政治的・経済的な営為である財政運営について「ルール」を定める、ということの意味について考えることで、財政における「法」の意味、法学と他の社会科学との対話の可能性について、試論を展開したい。

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