社研セミナー

政治体制と国際経済変動への対応
樋渡展洋(社会科学研究所)

日時:2013年 6月11日 14時50分-16時30分
場所:センター会議室549号室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

政治体制と国際経済変動への対応

 本発表の目的は、政治体制により異なる政治指導者の生存(政権維持)条件から、経済国際化に直面しての各国の経済改革の進展、及びその一環としての貿易協定の締結を説明しようというものである。近年、飛躍的に進展した専制体制や「混合(ハイブリッド)専制政」・「競争的専制政」、民主政移行の理論的・実証的研究が示唆するところの、民主指導者と専制指導者の違いは、前者は競争的な選挙戦で、その経済運営・政権担当能力への有権者の審判をうけ、有権者多数の支持を確保しないと政治的生存ができないのに対し、後者は制御された排他的支持基盤の培養によりその政治的生存が保証されているという点である。

 この結果、民主的指導者は、国際的不況の遭遇し、その政権担当能力を、野党との対抗において有権者に訴え、その信任をうける必要があるため、現状の改善策として構造改革に着手し、その補完として貿易協定の締結を指向する。但し、改革を実現に移す際には、民主指導者は反対勢力に対する妥協、補償を提供することが求められる。これが、選挙過程や政策過程での政党競争に関する最新の政策空間理論や経済投票理論の実証成果が示唆するところである。更に、この発想に基づけば、新興民主主導者は、国内民主制度が脆弱で、反民主勢力の挑戦を受け易いため、国内改革に対し、反対勢力への妥協を制度的に構築できるとは限らず、国内構造改革の実効性に懸念を抱く貿易相手国や海外投資家の国際的信認を得る必要性が、安定的な民主国の指導者以上に高いことになる。この信認確保の手段が、国内構造改革を国際法的契約として関係国に確約するのが貿易協定である。

 このような民主指導者の国際経済変動への対応とは対照的に、専制指導者は、特に国際的不況に直面して、その経済手腕の評価により政権の帰趨が左右されることを許容することはできず、逆に、支持基盤の既得権益を保護し、反対勢力を抑圧する誘因が働く。従って、専制指導者は、経済状況が良いときに、その成果がその排他的支持基盤を優先的に利するように開放的政策改革に実施や貿易協定の締結を進めると考えられる。

 上記の仮説は、まず構造改革や貿易協定を従属変数に、経済危機や経済国際化、他領域での経済改革、政策抵抗・補償要因、政治体制を制御変数に、国際経済変動や国内政策改革、改革抵抗要因と政治体制の交差項を独立変数とした回帰分析でその妥当性が検証される。次いで、制御された比較事例分析に依拠して、計量的に捉えきれなかった変数間の「因果」関係をより説得的に補強される。本発表では、仮説の説明と作業が概ね終了している計量分析の紹介が中心となろう。

 この研究が目指す意義は、第一に、各国の国際経済対応や経済改革を指導者の政治的生存条件から整合的に説明しょうとしていること。第二に、新興民主国の改革遂行上の脆弱性を国際協定締結や国際(経済)制度参加の信認理論に結びつけて説明しようとしていること。そして、最近指摘されている新興民主政・混合専制政の不安定性に関する理論分析(いわゆる「逆U字仮説」)への経済政策面での基礎付けを行おうとしていること、に求められよう。また、仮説が示唆する実践的含意は、アジア太平洋のように異質の政治体制の共存している地域では、それらを包括するような地域統合は困難で、それがゆえにさまざまな組み合わせによる協定関係が混在し易くなるというものである。

When to Cooperate?: Leadership survival and trade agreements as a part of economic reforms

 We demonstrate that political survival explains when and why governments enact open economic reforms and enter trade agreements. The survival of democratic leaders depends on popular approval of their economic competence at competitive elections, whereas that of autocratic leaders depends on their ability to purchase the support of an exclusive group. Hence, democratic leaders pursue trade agreements with likeminded counterparts as a part of regulatory reforms after international recessions, when their policy reputation and survival is at stake, and they realize such reforms by accommodating opponents. By comparison, autocratic leaders proceed with economic reforms and trade agreements when they are confident that the policy benefits would preferentially accrue to their exclusive support base. The hypothesis is corroborated by showing that different regimes (democracies, new democracies, autocracies) exhibit the expected correlations between trade agreements on the one hand, and international crisis, regulatory reforms, and the room for accommodation on the other. Our theorizing explains why leaders of new democracies advance market reforms in spite of limited room for domestic accommodation and at the cost of political instability, and why they depend on trade agreements to internationally lock-in open market reforms and increase chances of democratic survival.

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