社研セミナー

「社会階層研究における雇用関係・技能・制度的不平等に関する理論」
小川 和孝(慶應義塾大学法学部)

日時:2017年9月12日 15時00分-16時40分
場所:センター会議室(赤門総合研究棟5F)

報告要旨

 本報告は、社会学の社会階層研究における不平等の捉え方の理論的特徴に焦点を当てることを目的とする。社会学は、近代社会の理解を大きな目的の一つとする学問である。近代社会は人々が伝統的な身分から解放され、「平等」という概念が大きな価値を持つことになった時代である。社会学者は、近代社会においてもなお存在する経済的・社会的格差を捉えるために、社会階層という研究対象を設けてきた。これは今日まで様々な批判や論争にさらされながらも、依然としてその有効性が確認されている。
 近代社会においては、市場、とりわけ経済的な不平等に関しては労働市場が、不平等を生み出す主要な場となる。マックス・ヴェーバーの思想に影響を受けた理論の潮流においては、労働市場におけるライフチャンスの高低によって、人々は階層化されると見なされる。労働市場における経済的不平等を捉える上では、経済学では人的資本理論が支配的なものの一つとして挙げられる。人的資本理論は技能を個人に帰属するものとして捉える傾向にあるのに対して、社会学における労働市場の不平等に関する理論の特徴の一つは、関係論的な視点を強調することである。
 近代社会では多くの人々は雇用されて賃金を得ており、技能は雇用主との関係によって異なった意味を持つ。たとえば、Robert EriksonとJohn Goldthorpeらによって発展されてきた階級分類では、(1)技能の特殊性、および(2)労働の監視の困難性の2つを、労働者を階層化する主要な要因と見なす。ただし、異なる技能を持った労働者がどのように生まれるか、すなわち階層化のプロセスには普遍性があるわけではない。より具体的には、それぞれの社会の教育訓練制度のあり方によって、技能形成には様々なインセンティヴや意味が生まれ、異なる不平等が帰結しうる。
 社会科学における制度の捉え方は、新制度論と呼ばれる一連の研究によって大きく発展してきた。その中でも経済学者を中心とした研究では、アクターが直面する取引費用の問題に焦点を当て、社会学者を中心とした研究では、認知や規範が共有・伝播されるプロセスを強調する傾向がある。より近年では、合理的選択理論やそれへの批判によって、これらのアプローチはより統合的に捉えられるようになってきている。教育訓練制度と社会階層の関連も、これらのアプローチによって有意義な理解が可能であることを論ずる。

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