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新刊著者訪問 第30回

『ドイツの政治』
著者:平島健司
東京大学出版会 2017年:3600円(税抜)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第30回は、平島 健司『ドイツの政治』(東京大学出版会2017年3月)をご紹介します。

主要業績
『ワイマール共和国の崩壊』(東京大学出版会、1991年)

国家学会雑誌
『ドイツ現代政治』(東京大学出版会、1994年)

ドイツから見たフランス憲法―ひとつの試論
『EUは国家を超えられるか-政治統合のゆくえ(新世界事情)』(岩波書店、2004年)

Das Konzept "Verfassungsentwicklung"

――本書は先生にとって4冊目の単著、御還暦記念の出版ですね。まずはお祝い申し上げます。『ワイマール共和国の崩壊』(東京大学出版会、1991年)、『ドイツ現代政治』(東京大学出版会、1994年)、『EUは国家を超えられるか-政治統合のゆくえ(新世界事情)』(岩波書店、2004年)、と他の編著も含めて一貫してヨーロッパ、特にドイツをご研究されてきたわけですが、あらためてドイツに関心を持たれたきっかけをお尋ねしてもいいでしょうか?

 「ドイツ」への関心、ということであれば、中高の時期に親しんだドイツ文学や音楽でしょうか。トーマス・マンはもっと後になり辻邦生の解説に助けられて好きになりましたが、当時はヘッセやシュトルムをよく読みました。音楽はバロックやクラシック、J・S・バッハは今も生活の一部です。あるいは、母校が関西の理科系の進学校でしたので、「受験英語」ではなく純粋な興味の対象としてのドイツ語であったかもしれません。

――学生時代にヘッセやバッハとの出会いを経験する人は少なからずいらっしゃるでしょうが、そこから先生のドイツ研究がスタートしていたとは、とても純粋で素敵ですね。

 専門分野としての「ドイツ政治」にまで絞り込めば、故篠原一先生が駒場で講じられた「ヨーロッパ政治史」の授業です。法学部研究室で書いた修士論文と助手論文をまとめた処女作『ワイマール共和国の崩壊』がその証拠です。

――本書のタイトルは『ドイツの政治』とあまりにも簡潔ですが、内容は国家統一以降のドイツ政治の展開で、帯にも「内向きの大国か,ヨーロッパの最後の砦か.グローバル化や欧州統合のなか,国家統一を経たドイツは財政赤字,失業,少子高齢化,移民・難民の受け入れといった課題にどのように向き合ってきたのか.ドイツ政治の今を読み解くための必読書」とあります。本書のキーワードは「半主権国家」ですが、この言葉はそもそもどういう意味なのでしょうか?

カッツェンシュタイン

 ドイツはもとより、英語圏を含め、今日のドイツ政治研究者にとっての共通財産の一つにアメリカ人のP・J・カッツェンシュタインによる1987年の著作があります(Policy and Politics in West Germany: the Growth of a Semisovereign State, Philadelphia 1987)。その副題「半主権国家の成長」からとったものです。

――カッツェンシュタインはどのように言っているのですか?

 相互依存の進んだ現代世界では、すべての国家が単独では政策課題を解決できず、対外的には多かれ少なかれ「半主権」的ですが、多様な主体と制度が構成するドイツ連邦共和国では、連邦首相や連邦政府さえもが他の主体との交渉や調整に依存しています。彼は、まさにこれが成功裡に行われるからこそ、ドイツに政治的安定が確保されてきた、と喝破しました。

――ところで、表紙に2枚の建物の写真が使われていますが、何か内容への含みがあるのでしょうか?

 カバー裏の説明にもあるように、ベルリンにある連邦議会と連邦参議院の建物の写真です。前者の正面に刻まれた碑銘(Dem Deutschen Volke)は、「ドイツ人民に」という意味です。内外のドイツ政治の教科書は、国旗たなびく連邦議会の写真を常套的にあしらうのですが、本書では連邦参議院の写真を並置しました。連邦参議院は、連邦制国家ドイツに固有の制度です。16を数える州政府がその代表者を派遣しますが、議題が政治化すると党派的対立が前面に出て連邦議会との間で多数派のねじれを生むことがあります。州政府間で求められる協調と政党間競争との間に緊張が潜在しているわけで、その政治的役割にこそ注目したいという意図が込められています。

――さて、本書の刊行(2017年3月)後、同年9月のドイツ連邦議会選挙で大変なことになってしまいましたね。先日行われた「社研セミナー」の報告要旨を引用させて頂きますと―――

危機のただ中にあるEUを襲ったブレクジットの決定、アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領の登場、さらにはポピュリスト政党の席巻という事態にあって、欧州が頼みの綱としたのはメルケル首相率いるドイツであった。しかし、去る9月に行われた連邦議会選挙では、前与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社民党(SPD)がそろって歴史的大敗を喫し、そのために新政権成立の見通しはいまだに立っていない。それどころか、組閣の遅れは欧州全体の停滞にさえ及んでいる。これまで政治的安定を誇ってきたドイツに一体何が起こっているのだろうか。
3月に刊行した新著『ドイツの政治』では、これらの二大政党が中心となり、1990年の国家統一が残した課題を解決すべくさまざまな制度改革が積み重ねられた過程が分析の対象となった。しかし、二大政党はその後のリーマン・ショックに始まる金融・債務危機あるいは難民危機に対する対応を繰り返すうちに統治能力を枯渇させてしまったのだろうか。ドイツもまた、ポピュリスト政党の台頭から免れないのか。『ドイツの政治』を読み解きながらこれからのドイツの政治を考えてみたい。(2018年1月9日開催)

大変盛況なセミナーだったと伺っております。政治学者としてドイツの歴史政治学をワイマール時代から書き継いでこられた先生ですが、次の著作の構想はすでにあるのでしょうか?

 本書を完成したのも束の間、今年度は法学部で『ヨーロッパ政治史』の講義を非常勤として担当する機会がありました。以前には放送大学でも同名の講義を提供したことがあります。しかし、共著の形でしたし、満足のいくものではありませんでした。自分なりに近現代ヨーロッパ政治における歴史的発展のエッセンスを描き出してみたい。無謀な試みであることは重々承知しておりますが、果たして学問として成り立つのかどうか、という点も含め、次の課題として考えています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 本書は、いわばドイツ政治を構成する要素と、それらの要素間の相互作用を論じていますので教科書ではありません(といっては出版社からおこられそうですが)。政党を初めとするさまざまな主体が、国家統一後に残された課題をどのように解決しようとしてきたのか、という関心に従ってその政治過程を再構成しようと試みたものです。グローバル化や欧州統合が国内政治に及ぼす影響を他国と比較して論じるのであれば、また別のより適切な切り口があるでしょう(無視したわけではありませんが)。各章、各節が有機的につながり合うよう工夫したつもりですので、全体の構成を味わっていただけたら幸いです。

本書は「東大教員の著作物を自らが語る広場 - UTokyo BiblioPlaza」にも登場したばかりです。
また、1月の社研セミナーでの報告をもとにしたエッセイが『学士会会報』最新号(No.929)に発表されました。タイトルは、『「黒と赤」-ドイツにおける二大政党の黄昏?-』です。」

(2018年3月30日掲載)


林知更先生

平島 健司(ひらしまけんじ)

東京大学社会科学研究所 教授

専門分野:比較政治・ドイツ=ヨーロッパ政治