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新刊著者訪問 第26回

『法と社会科学をつなぐ』
著者:飯田 高
有斐閣 2016年:2100円(税抜)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第26回は、飯田 高『法と社会科学をつなぐ』(有斐閣2016年2月)をご紹介します。

法と社会科学をつなぐ
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主要業績
「労働審判制度利用者の動機と期待」菅野和夫=仁田道夫=佐藤岩夫=水町勇一郎編『労働審判制度の利用者調査:分析と提言』(有斐閣、2013年)
労働審判制度の利用者調査:分析と提言
「サンクションのない法の効果」太田勝造=ダニエル・フット=濱野亮=村山眞維編『法社会学の新世代』(有斐閣、2009年)
法社会学の新世代
『<法と経済学>の社会規範論』(勁草書房、2004年)
<法と経済学>の社会規範論

――本書は2013年4月から2015年3月にかけて『法学教室』に連載された「法の世界へのバイパスルート-社会科学からみる法制度(1)~(24)」を単行本にまとめられたものですが、元々2年の連載の予定で書かれたのですか?

法学教室2013年4月号

 はい、連載はもともと2年間(24回分)の予定でした。『法学教室』担当の方からは「1年か2年でお願いします」という話で、何となく2年コースを選択したように記憶しています。「続きものではなく読み切りで」という依頼だったこともあり、何を24回分書くかは結構悩みました。当時書いていたメモを引っぱり出してみたのですが、こんな案が書いてありました。

【案1】社会科学上の概念を軸にする案
経済学・心理学・社会学での重要な概念や知見(「効率性」「均衡」「認知バイアス」など)を使って、法原則や判例を説明したり分析したりする。概念は1回につきなるべく1つに抑える。学際的分野の概説としては【案2】よりは分かりやすいかもしれないが、読み物としてはとっつきにくいかも?

【案2】法原則(法格言・法諺)を軸にする案
古今東西のさまざまな法格言や法諺(例・「法の不知はこれを許さず」「法は権利の上に眠る者を保護しない」「自白は証拠の女王」など)を1回につき1つ取り上げ、社会科学のツールを使いながら分析する。特に、法解釈学の標準的な議論との共通点・相違点に留意して記述する。

――どちらも興味深いですね。

 しばらく悩んだ末、結局【案1】にしました。担当授業で話していることを膨らませばいいので書きやすいかなと思ったのですが、連載中の2年間は自転車操業で、締め切りのことばかり考えていたような気がします。もちろん執筆時は単行本になる可能性なんてまったく考えていません。そんな感じでしたから、単行本化の際は内容を一貫したものにするのに少々てこずりました。
 連載中は読者からの反応というのはそれほど大きくなかったので、たぶん読者は相当少ないのだろうなと思っていました。ところが、単行本化すると、私には見えていなかった読者層が見えてくるんですね。「連載のときから読んでいました」という声をいただいたときは嬉しかったです。読んでくれていた方々が意外に多かったことを連載中に知っていれば…とも思いましたが、それを知らなかったおかげで、周りからの評価を気にせず、書きたいことを書くことができたのかもしれません。

――あとがきにご自身のことを「マイナー分野の若輩研究者」などとお書きになっていますが、そもそも「法社会学」にご関心を持たれたのはどのような経緯なのでしょうか?

 「法社会学」というのは、「法に関係する現象を経験科学的に探究する分野」あるいは「社会のなかで法がどのような機能を営んでいるかを実証的・理論的に研究する分野」と表現できると思います(※法社会学についての説明は佐藤岩夫先生の回[第24回『変動期の日本の弁護士』]にもあります)。法社会学のなかにもいろいろなアプローチがあって、私は今のところ経済学的なアプローチを使うことが多くなっています。したがって私が専門にしているのは「法社会学」と「法と経済学」の交錯領域と言えるかと思いますが、通常の「実定法学」に関心のある『法学教室』の読者層からは奇異の目で見られがちな領域です(ちなみに、法社会学自体がマイナーというよりは、私の研究領域がマイナーという意味で書きました。今思うと、これははっきり区別して書いたほうがよかったですね)。
 私の卒業学部は法学部ですが、大学2年までは文科Ⅱ類、つまり経済学系のコースに所属していました。法社会学に関心をもったのは大学4年次に太田勝造先生の「現代法過程論」の授業を聴講したころからです。その授業では経済学の考え方を使って法の機能を説明するパートがあって、それが文科Ⅱ類出身の私の琴線に触れたのだと思います。
 大学院進学当初は刑事分野の法社会学的研究をしようとしていたのですが、経済学部の授業に参加しながらゲーム理論を勉強しているうちに、「自生的秩序」や「社会規範のゲーム理論的分析」に関心が向いていきました。

――「~すべき」という人間の規範意識について、経済学、心理学、社会学、さらに脳科学といった広い知見から法やルールを解釈されていて、とてもおもしろかったです。読みきりの記事なので、どこから読んでも支障はありません、拾い読みでもかまいません、と書かれていますが、ここだけは絶対読んで欲しい、というのはどのあたりですか?

 どうもありがとうございます。絶対読んでほしいというわけではありませんが、第4章(「ルールを求める心」)は学生時代以来の自分の問題意識が反映しているという意味で思い入れの強い章ですね。実はこの章は、別の本のために準備していた原稿をばらして小出しにしたものなのです。この第4章で扱っている社会規範の問題は自分がずっと取り組んできたテーマのひとつなので、いつかまとまった形で公刊できればと考えています。
 それと、なぜか反響が大きかったのは「あとがき」なんです。あの「あとがき」は新幹線の車内で書いたのですが、旅の途中だったせいか、いつもより感傷的になっていたみたいです。ただ、他でもないそのときに私が感じたことや考えていたことを率直に書いたものですので、私自身はちょっと気に入っています。

――そう伺うと「あとがき」から読みたくなりますが、それはNGですね。最後のお楽しみです!ところで、本書は各章ごとに引用文献、参考文献、更に最後に「文献案内」と法学を学ぶ方々にとってとても有益な情報満載ですね。また第1章から5章の最後にはQuestionsが設けられており、一人で考えるより、みんなでディスカッションすると盛り上がりそうです。
  あ、他にも大事なウリがありましたね?

 そうなんです。本書のウリは縦書きだということです(いや、本当に)。連載時は横書きだったのに、わざわざ縦書きに変えています。これは、読み物としての性格を強調したいという有斐閣の担当の方のご提案によるものです。文庫や新書と同じく、左手だけでもページをめくりやすくなっています。ですので、電車のなかででも気軽に目を通していただければと思います。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 法学の知識は前提としていませんから、多くの項目は大学初年次からでも十分読める内容になっています。勉強の進んだ方にとっても、それなりに手応えのある内容かもしれません(飽き足りない方は本書で紹介している諸文献に進んでください)。この本を通じて、「法学っぽくない」法学に少しでも興味をもってくださる方が増えればいいなと思っています。

(2016年12月9日掲載)

飯田高先生

飯田 高(いいだたかし)

東京大学社会科学研究所 准教授

専門分野:法社会学、法と経済学


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