新刊著者訪問 第23回

『歴史から理論を創造する方法―社会科学と歴史学を統合する』
著者:保城広至
勁草書房 2015年:2000円(税抜)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第23回は、国際関係論・現代日本外交論を専門分野とする保城広至准教授の『歴史から理論を創造する方法―社会科学と歴史学を統合する』(勁草書房 2015年3月)をご紹介します。

――本書は方法論について書かれた本ですが、国際政治学者でいらっしゃる先生が本書を執筆されたのは、どういう経緯によるものでしょうか?

アジア地域主義外交の行方

 社研のHPにも載せているように、私の専門分野は国際関係論、特に現代日本外交論です。15年前に書いた修士論文や、それを大幅に広げた博士論文(後に単著→『アジア地域主義外交の行方:1952-1966』木鐸社 2008年第25回大平正芳記念賞2009年))は日本外交史という専門分野に位置づけられていますし、自分でもそのつもりで書きました。ただし研究を始めたばかりのころは、現状を理論的に分析することに興味があり、それを指導教官に伝えたところ、次のようなアドバイスを受け、なるほどなあと思ったわけです。すなわち、現状分析では大学院生レベルが新しい視点を生み出すのはかなり難しい。それに対して歴史分析では時間をかければ誰も手をつけていない資料などを掘り起こすことが可能であり、学界にも貢献できるのではないか、と。そこで1990年代を分析するつもりが、結局時代を40年もさかのぼり、1950年代後半が分析対象の時期となり、最終的には、1960年代まで分析することになりました。
 ただし元々は理論に興味があったので、せっかく歴史分析をするのだから、もう少し理論的な知見を組み込めないかと試行錯誤しました。その際に科学哲学や社会科学の方法論を勉強し、そこで得たものを暗黙的に組み込んだのが博士論文です。ただしそこで使った方法論を、明示的に発表したいという考えがずっと頭の中にありました。7年かけてようやく一つにまとまり、今回の出版へと繋がった次第です。

――学術書でありながらすでに重版もされたとのこと、お喜び申し上げます。「こんな本が欲しかった」という絶賛の声があがっています。

 おかげさまで第三刷出来しました(2015年12月現在)。専門書というものは理解ある少数の人たちに読まれればそれで良いと思っていましたが(今でもそう思っている自分がいますが)、多くの人に読まれるというのはやはりうれしいですね。ただし絶賛の声というのは本人には直接伝わらないものなんでしょうね、あまり聞いたことはないです。

――あちこちのブログで本書が取り上げられていますよ。

 よく売れている一番の理由はタイトルでしょうね(苦笑)。当初はもう少し大人しいタイトルを考えていたのですが、やはり広い読者層に読まれるためには、本書のような大風呂敷を広げたタイトルが必要かなと。編集者との合意です。そのような大げさなタイトルなのですが、決して奇をてらったものを書いているわけではなく、また言いっ放しの啓蒙書になってもいないと思っています。歴史学と社会科学が異なっていると考えられてきた諸点を明確にした上で、その相違点をどうすれば解消することができるのか。その問いに自分なりの解答を与えたのが本書です。

――さて、社会科学者の「プロクルーステースの寝台」問題、歴史学者の「木を見て森を見ない」問題など興味深い例えが出てきて、読みやすい工夫がされていますね。社会科学と歴史学の統合は成功したと思われますか?

プロクルーステース

 プロクルーステースとは、ギリシャ神話に登場する強盗の名前です。彼はつかまえた人間を鉄製の寝台に横たわらせて、相手が長すぎればはみ出た部分をちょん切り、逆に短ければ強引に引き延ばして寝台と同じ長さにしたと伝えられています。歴史を理論に適合させるように取捨選択したり、最悪の場合は事実をゆがめてしまったりする社会科学者の試みは、批判的にそう表現されます。反対に、歴史学者は自分の研究対象に埋没してしまって、その他の時代との比較をすれば見えてくるものも見えなくなりがちです。それを私は「木を見て森を見ない」と表現しました。
 社会科学と歴史学の統合は成功したかどうか・・・さてどうでしょうか? こればかりは自分で評価すべきものではないので、読者の判断に任せます。私が本書で伝えたかったのは数ある方法の一つに過ぎず、別のアプローチももちろんあるでしょうし、私の考えた方法はおかしいと思う読者もいるでしょう。またそもそも両者を統合する必要などない、と考える人もいるかと思います。本書を踏み台にしてさまざまな意見が表出されることになれば、出版した意義もあるのではないでしょうか。

――そうですね、ますます活発な議論が展開されていくといいですね。ところで、執筆にあたって1番ご苦労されたのはどういうことでしたか?

 本書を書くにあたって最も苦労したのは、自分の専門外のディシプリンを吸収して、咀嚼した上で本書に盛り込んだ点でしょうか。前の単著のときはそのような苦労はなく、今まで学んできたことを出し切れば良いだけだったので。先に述べたように私の専門は国際関係論(政治学)ですが、それ以外の社会科学分野と歴史学、それに科学哲学などを広範囲に学習するのは不可欠でした。それはそれで非常に楽しかったのですが、当然ながら大いに時間がかかりました。そして依然として不完全(不勉強)だと思っています。したがって、「なぜこの本にはあの業績が入っていないのか」というご批判はごもっともで、ひとえにそのご批判は私の力量不足に由来します。その不足を埋めるという作業はこれからの私の課題であり、決して終りの見えないプロセスであることも痛感しています。
 また、本格的に本書を執筆していたのは海外研修に出させてもらっていたときだったのですが、そのために、日本語の文献——特に歴史学——に十分にアクセスできなかったことが悔やまれます。帰国後(出版後)に、日本の歴史学者が出されている方法論的考察を継続して読んでいますが、本書に活かすことができたと思われる興味深い論考はいくつかありました。これらはもし改訂版を出す機会が与えられたら、本書に盛り込もうと思っています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 本書の対象とするメインの読者は大学生から大学院生です。その人たちに何か伝えるべきものがあるとすれば、自分の専門のディシプリンだけにとどまっているのはもったいない、という点でしょうか。もちろん一つ専門分野を持つことは必要でしょうが、他のディシプリンから発展した方法や考えが、自分の研究テーマや問題関心にうまく応用できるということは多々あると思います。特に頭の柔軟な若い人が、さまざまなディシプリンをどしどしと吸収して、今までにないような新しい考えなり知見を打ち出していくというのは素晴らしいことではないでしょうか。

(2016年1月28日掲載)


保城広至先生

保城広至(ほしろひろゆき)

東京大学社会科学研究所 准教授

専門分野:国際関係論・現代日本外交


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