新刊著者訪問 第25回

『計量経済学の第一歩 実証分析のススメ』
著者:田中隆一
有斐閣 2015年:2000円(税抜)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第25回は、田中隆一『計量経済学の第一歩 実証分析のススメ』(有斐閣ストゥディア2015年12月)をご紹介します。

計量経済学の第一歩
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主要業績
田中隆一・中嶋亮(2015)「子育て支援政策が居住地選択と出生行動に与える影響について」『季刊 住宅土地経済』2015年秋季号, pp.20-27.
 
アングリスト・ピスケ(2013)『「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイド』(大森義明, 田中隆一, 小原美紀, 野口晴子訳)NTT出版.
「ほとんど無害」な計量経済学
Francesc Ortega and Ryuichi Tanaka, "Immigration and the political economy of public education", HANDBOOK ON Migration and Social Policy, Edited by Gray P. Freeman and Nicola Mirilovic, Edward Elgar Pub, 2016 pp.121-136.
HANDBOOK ON Migration and Social Policy
島根哲哉・田中隆一(2011)「母親の就業が女性労働供給に与える影響について-独身者と既婚者の調査を用いて」『ワーク・ライフ・バランスと家族形成-少子社会を変える働き方』樋口美雄・府川哲夫編,東京大学出版会. pp.123-142.
ワーク・ライフ・バランスと家族形成

――昨年(2015年)11月の社研メールニュース(*)お便りコーナーで、本書についてお書きいただきましたね。丁度、本書の最後の校正の最中というタイミングでした。せっかくですので、まずはここでご紹介させてください。

■社研メールニュース2015年11月号(No.111)

「計量経済学の第一歩」田中隆一

 いま、計量経済学入門の教科書を書いています。前任校である政策研究大学院大学で教えていた計量経済学入門の講義ノートをまとめています。

 政策研究大学院大学は留学生が3分の2、日本人学生が3分の1程度を占める、学部学生のいない大学院大学です。日本人学生の多くは地方公共団体から派遣されてきた「社会人学生」ですので、「普通」の大学とはかなり違った雰囲気の大学です。

 計量経済学入門は春学期に開講され、講義も入学してすぐに始まります。近年の実証分析に対する関心の高まりもあってか、それなりに多くの学生が履修してくれます。しかし、確率統計のバックグラウンドがほとんどないので、私の講義は確率統計入門からはじめなければなりません。

 初学者にとって確率統計は敷居が高く感じられます。「明日雨が降るという事象が起きる確からしさは、晴れになるという事象が起きる確からしさと同じ」などといわれても、何がなんだかちんぷんかんぷんです。学部時代の確率統計の成績が散々だった私は、受講生の皆さんの気持ちが痛いほどよくわかります。

 そんな確率統計嫌いだった私が実証分析にのめりこむことになったきっかけ は、ニューヨーク大学大学院留学中にある授業のレポートのために行った、国勢調査の個票データを使った回帰分析です。アメリカの国勢調査の個票データは、研究目的であればたとえ海外からでもインターネットを通じてダウンロードできます。自由に変数を選びながら、自分の調べたいことを次々と回帰分析し、巨大な標本サイズにものを言わせて、いくらでも「星をつける」ことができるのです。

 いま書いている教科書にはできるだけたくさんの実証分析演習を盛り込んでいます。演習の多くは東大社研パネル調査をもとに作った、リアルなデータを分析するものです。この教科書を手に取った人が、実証分析にのめりこんで、質の高い論文を書くようになる日がいつかやってくるかもしれない・・・などと勝手に妄想しながら、最後の校正に取り組んでいます。

――先生にとっての「計量経済学の第一歩」は「実証分析にのめりこ」まれたご経験から始まるんですね。

 お便りコーナーでも書きましたように、計量経済学を始めとする実証分析にとても強い魅力を感じるようになったのはアメリカに留学してからです。日本では経済理論を中心に学んでいたこともあって、実際にデータを分析する機会はあまりありませんでした。ところが、アメリカの大学院では、データ分析の課題が毎週のようにでます。また、レポートで実証分析を行おうと思えば、匿名の個人データが使えるということがわかりました。それまでは調べたいことがあってもデータが無いという状況だったのが、データが豊富にあって、全部を調べ尽くすことができないという全く逆の状況になりました。手当たり次第に色々と調べているうちにやめられなくなり、今にいたっているというわけです。

――豊富なデータを前に、手当たり次第に色々と・・・あのギリシャ文字が出てくる数式を使って調べていくわけですね?

 「あのギリシャ文字が出てくる数式」とは回帰モデルのことですね。

――はい。本書では初学者のためにColumnを設けて大変丁寧に説明されているので、確率統計が苦手な方にはとても心強いと思いました。

 計量経済学において最も大切なのは、「学歴と所得」といったように二つの事柄の因果関係を知ることですので、その関係を表す上で便利な回帰モデルをよく使います。計量経済学は確率統計を使いますから、それが苦手な人にはちょっと敷居が高いと思うのも無理はないと思います。しかし、確率統計と計量経済学はすこしおもむきが違います。確率統計は限られたデータから、その背後にあるメカニズムを探る方法についての学問ですが、計量経済学を始めとする実証分析では、何よりもまず「自分の調べたいこと」がなければ始まりません。逆にいうと、調べたいと思うことがあるからこそ、その目的を達成するために確率統計を学ぶのです。目の前の壁が超えなければならないものかわからないのに、あえて超えようとする人はいませんが、目的がはっきりしていれば、壁を超えてみようという気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。初学者に対しては、何が目的なのかを見失わないように、いろいろな実証例を紹介するように心がけました。

――ところで、今回、本書でウェブサポートページというものを初めて知りました。なんだか本そのものとウェブサポートページが車の両輪のようになっていますね。実際にネットで次のページを見たときにはその充実ぶりに驚きました。

ウェブサポートページ

 日本の教科書でもウェブサポートを準備しているものが徐々に増えてきたのではないかと思いますが、まだまだ少ないと思います。ウェブサポートページはストゥディアシリーズの特徴ですが、今回の教科書作成にあたって最も力を入れた部分で、内容もボリュームもシリーズの中で最も充実しているのではないかと思っています。このページでは、教科書の例題と練習問題で利用したデータ、発展的な内容についての補論、練習問題の解答・解説、統計ソフト使い方の簡単なガイド練習問題の結果を再現するためのプログラム(Stata,R,gretl)を提供しています。複数のソフトウェアに対応していますので、自分にあったものを選んで学ぶこともできますし、解答解説を使えば、独学もできるようになっています。また、生データを分析できる形に整理する作業は初学者にとって結構ハードルが高いのですが、演習問題用のデータをどうやって作ったのかをウェブページで解説しようと思い、現在準備中です。さらに政府統計や社会調査といった実証分析に使えるデータの入手方法についても紹介していく予定です。とにかく自分でデータを分析してほしいという強い思いを込めて準備しましたので、ぜひチャレンジしてみてください。

――最後にこれから計量経済学に挑戦しようと思っている方へのメッセージをお願いします。

 自分の思いや考えを人に伝える時、根拠があると格段に伝わりやすくなります。計量経済学はこの根拠を手に入れる手段です。その手段を身につけるためには、何度も自分で手を動かして分析してみることが一番良い方法です。まさに「実証分析、実践あるのみ」です。


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(2016年8月31日掲載)


田中隆一先生

田中隆一(たなかりゅういち)

東京大学社会科学研究所 准教授

専門分野:労働経済学・教育経済学


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