新刊著者訪問 第16回

『大学就職部にできること』
著者:大島真夫
勁草書房 2012年:2700円(税別)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第16回となる今回は、教育社会学を専門分野とする大島真夫さん(東京理科大学理工学部講師)の『大学就職部にできること』(勁草書房2012年7月)をご紹介します。

大学就職部にできること
<目次>
はしがき
第1章 新規大卒労働市場における大学就職部
第2章 斡旋からガイダンスへ
―大学就職部業務の歴史的変遷
第3章 就職斡旋における大学就職部の役割
―学生の選抜・企業の選抜
第4章 誰が大学就職部を「利用」するのか
―機会という観点からの分析
第5章 誰が大学就職部を「経由」するのか
―斡旋を受ける機会
第6章 大学就職部「経由」の効果
終 章 セーフティネットとしての大学就職部
あとがき/文献/索引

――本書の刊行当時は社研の助教でいらっしゃいましたが、今年の4月に東京理科大学に異動なさったのですね。早速ですが、本書は四六版という小説の単行本のように読みやすい大きさの本です。タイトルも学術書らしくないし、何か意図があってのことですか?

 拙著をご紹介いただきありがとうございます。四六判という少し小さめのサイズで、かつタイトルを平易なものにしたのは、研究者以外のより多くの方に手にとって読んでいただきたいと思ったからです。

 本書は、2009年に執筆した博士論文がもとになっています。博士論文をもとに本を出版する際、これは学術書になりますから、A5判という大きさにするのが普通です。表紙もタイトルも重々しくして、見た目からして立派なものになるようにします。しかし、それでは研究者の人にしか手にとってもらえません。そこで出版社の編集者と相談して、学術書より一回り小さくて小説の単行本とほぼ同じ大きさの四六判にしました。こうすればカバンにも入れやすくなりますし、あわせて値段も極力下げることで、書店でたまたま手にとった時に「買ってみようか」と思っていただけるのではないかと考えました。

――内容も読みやすく修正なさったのですか?

 装丁とともに内容をどうするかという問題もあったのですが、博士論文からかなり修正した箇所とほぼそのままの箇所の両方があります。博士論文の構成は、先行研究の検討と問題の設定→分析(大卒就職の歴史に関する史料、大学就職部職員のインタビュー調査、社研パネル調査)→考察という流れになっていますが、大卒就職の歴史についてはかなり修正しました。日本社会で現在見られる大卒就職の仕組みがどのような歴史的経緯でできあがってきたのかを説明するもので、博士論文の中ではそれに続く分析を読み解くための前提条件を確認するという役割が与えられています。

 しかし本書では、もうすこし情報を付け足して、この章だけを取り出して大学の授業などでも使えるように工夫しました。私がもし授業の1回分を使って日本の大卒就職の歴史的経緯を教えるならこういう内容にするだろうな、というのをイメージしながら書いています。具体的には、博士論文では取り上げなかった戦前の様子について新たに加筆するとともに、1970年代前半頃まで見られた指定校制について私の修士論文の成果を利用しながら加筆しました。大学の授業やゼミで扱う文献として手頃なものになっていると思いますので、是非使っていただければ大変ありがたく存じます。

 歴史的経緯以外の箇所については、読みやすくするための加筆や修正をところどころ行っていますが、内容や構成はほとんど博士論文のままです。特に「社研パネル調査」を用いた計量分析の箇所は、分析結果をわかりやすく提示する工夫をしたかったのですが、力及ばず論文調のまま残ってしまいました。ただ、分析の詳細については読み飛ばしていただいても、本書を通じて私が主張したいことはご理解いただけると思います。

――今お話に出た「社研パネル調査」ですが、本書ではフル活用ですね。

大島先生

 「社研パネル調査」は、社会科学研究所の石田浩教授を中心とした研究プロジェクトが行っている全国規模の社会調査です。若者のライフコース上に起きるさまざまな問題、たとえば就職、交際、結婚、出産、育児などを包括的にとらえるために、多様な質問が盛り込まれています。詳細については社研パネル調査のサイトを是非ご覧いただきたいのですが、調査項目の中には在学中の就職活動についても含まれていまして、それを利用させていただくことで博士論文や本書を書き上げることができました。

 私が社研に在籍中はこの社研パネル調査を担当していました。パネル調査というのは同じ対象者に繰り返し調査を行う手法のことで、社研パネル調査では2007年から毎年1回継続してお尋ねしており、2014年調査で8回目となります。調査にご協力いただいている皆様のおかげでデータが蓄積し、本書のような分析が可能になります。この場をお借りして、調査対象者の皆様にお礼を申し上げます。

――ところで、大卒就職研究に取り組まれたきっかけは?

 学部生の時に、苅谷剛彦先生の『大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史』(中公新書)を読んだのがきっかけです。この本は大卒就職の話をメインのテーマに据えているわけではないのですが、社会階層という社会学の考え方について知るきっかけになりました。いい学校やいい企業に入るのには本人の能力以外にもどういう家庭の出身なのかなどいくつか決め手があるということが、当時の私には新鮮でした。

 そんなことがあって教育社会学を専攻することになり、大学院に入ってから大卒就職に強く関心を持つようになりました。苅谷先生に就職研という研究会に入れていただいたこともきっかけの一つです。また、私が上智大学の出身だったということも関係しています。上智大学は今でこそ知名度もありますが、男子校として出発し、のちに共学になったという経緯を持ち、当初はそれほど有名ではない大学でした。ところが、1970年代前半にとある方が就職指導課長になり、有名大企業に卒業生を送り込む敏腕ぶりを発揮してから、徐々に世間に名前が知られるようになってきたのです。そんな母校の歴史をいろいろ調べているうちに大卒就職研究が面白くなったということもありました。

 博士論文でも引き続き大卒就職研究にするかどうかは踏み切れずにいましたが、社研に来てから石田浩先生にアドバイスを受けて背中を押していただき、最終的には大卒就職研究で書くことになりました。当時社研パネル調査を一緒に担当していた三輪哲さんにもたくさんのアドバイスをいただき助けていただきました。

――大学就職部の役割は具体的にどういうものですか?昔と今と変わりましたか?

 大学就職部の役割は、昔は斡旋、今はガイダンスという違いがあります。日本社会における大学進学率の上昇とともに変わってきたと言ってもいいと思います。まだ日本が貧しく大学進学率が10%程度にとどまっていた1960年頃までは、大卒者は企業の幹部候補生でした。「よい学生を紹介してください」と企業から求められた大学が「こんな学生はいかがですか」と送り出していた、そんな時代です。ところが現在は大学進学率が50%を越え全入時代などと言われるようになりました。誰でも大学に入ることが出来るようになり、学力や精神的な面で十分に発達していない学生が増えたと言われています。そのため、大学就職部には基礎的な勉強やマナーに始まり適性の発見や働く意欲の喚起に至るまで、手取り足取り学生に指導してあげなければという役割が期待されることが多いようです。

 本書が「それでもなお斡旋が重要だ」と大学就職部に期待するのは、上記のような時代背景を踏まえた上でのことです。同じ斡旋でも昔と今では役割が異なっていて、今の斡旋はなかなか就職の決まらない学生に対するセーフティネットになっています。学生も保護者も、大学就職部がこのような役割を果たしていることをご存じでない方が多いと思います。自分で就職先を見つけることができればそれに越したことはありませんが、いよいよという時には大学就職部に頼ってみるのも一手かもしれません。詳しい議論については是非本書をお読みになってください。

大島先生

大島真夫(おおしままさお)

東京理科大学理工学部教養 講師

専門分野:教育社会学

主要業績
「学校経由の就職活動と初職」石田浩編『格差の連鎖と若者 第1巻キャリアと教育』(勁草書房、近刊予定)
『大学就職部にできること』(勁草書房、2012年)
「大学就職部の斡旋機能とその効果」苅谷剛彦・本田由紀編『大卒就職の社会学  データからみる変化』(東京大学出版会、2010年)

――最後に、今後の「大学就職部にできること」について、お考えを聞かせてください。

 セーフティネットとしての役割は残って欲しいなと思います。救われた学生はこれまでにもたくさんいると思います。ただ、就職斡旋は非常に手間暇がかかります。職員は、学生対応だけでなく求人情報の整理や企業への挨拶回りもしなければいけません。少子化で厳しい財政事情の大学も少なくなく、職員も減らされていて、十分に手が回らなくなったときに、それでも斡旋を続けられるかどうかは難しいところです。斡旋の必要性がなくなることはないと思うのですが。

 本書が描いたのはなかなか決まらない学生のことでしたが、逆の状況、すなわち決められる学生をさらにいいところに決めるような大学就職部も、ひょっとするとできてくるかもしれませんね。ロンドン、ニューヨーク、香港、シンガポールといった世界の大都市に拠点を構えて、自大学の優秀な学生をグローバル企業に売り込むような就職指導も面白いんじゃないかと思います。国際的に知名度の高い企業で活躍する人材が増えれば、出身大学である東京大学のステータスもさらに上昇するかもしれません。いま以上に高い国際的地位を獲得するために、東大がそんな就職指導を始めたら面白いことになると思うのですが。

(2013年11月7日掲載)

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