『社会科学研究』第57巻第2号

社会規範の「ヨーロッパ化」の政治過程 ―ドイツとオーストリアにおける反差別指令の国内法制化―
Europeanizing Social Norms : Politics of Implementation of the Anti-Discrimination Directives in Germany and Austria
網谷龍介/AMIYA-NAKADA Ryosuke

Keywords: オーストリア, ドイツ, 反差別指令, 民主主義の赤字, ヨーロッパ化,

抄録

 1990年代以降,社会規範に関わる分野でもEUレヴェルの立法が見られるようになった.しかし各社会の規範意識には差異があり,国内法制化は極めてセンシティヴなものとなる.本稿はその一例として反差別指令のドイツとオーストリアにおける国内法制化過程を分析する.これにより,以下の二つの点に光を当てるのが本稿の目的である.第一に,従来の「ヨーロッパ化(Europeanization)」研究は構造的要因に注目した政策分析を行ってきたが,国内の政治過程とその変容の意義は軽視されるべきではない.とりわけ指令置き換えという「外圧」を内政上の資源として利用しようとする政権の戦略,内政とヨーロッパのタイムテーブルのズレ,という二つの要因が本稿の中心におかれる.第二に本稿が照らし出すのは,「ヨーロッパ」に実体的価値を担わせることで,統合の正統性を獲得する試みから生じる衝突である.「民主主義の赤字」問題の本質が,EU機構の抽象的な民主性評価ではなく,「実感」に基づく一般市民の不満であるならば,この衝突は,憲法制定などにより問題を一挙に解決しようとする戦略の困難を示唆するだろう.

abstract

Rule-making on "social norms" at the EU-level has been growing since the 1990s, whose transpotision sometimes becomes politically sensitive. As a case study, this article analyses the transpotision of anti-discrimination directives in Germany and Austria. Main contention of the analysis is twofold. First, domestic political processes should be given more weight in the Europeanization studies. Especially, the importance of the transposition strategy of the incumbent government and the different time tables of the EU-level and domestic politics are stressed. Second, it is illuminated how an attempt to legitimize further integration through highlighting substantial values of Europe causes the collision of norms. This would suggest the difficulty of eliminating democratic deficit at a brush, e.g. by the Constitution.

社會科學研究 第57巻 第2号(2006-01-31発行)

(更新日: 2012年 11月 2日)

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