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諮問委員会

第5回 諮問委員会議事要旨

日時 2012年3月28日(金)15:00〜17:25
場所 社会科学研究所第一会議室
出席者 (諮問委員 あいうえお順)
浅倉むつ子 委員 (早稲田大学大学院法務研究科教授)
寺西重郎 委員 (日本大学商学部教授)
田中耕司 委員 (京都大学次世代研究者育成センター教授)
馬場公彦 委員 (岩波書店編集部)
平野浩 委員 (学習院大学法学部教授)
列席者 (社会科学研究所)
末廣昭 所長
石田浩 副所長
大沢真理 協議員
中川淳司 協議員
平島健司 教授
木村久 事務長
土屋雅史 総務チームサブリーダー(記録)

 議事に先立ち,末廣所長から,出席者紹介,本会の趣旨説明,配付資料の説明がなされたのち,議事進行係に田中委員が互選された.

 まず,末廣所長から,資料1 に基づき,第4 回諮問委員会までに諮問を受けた「社研の基本方針,研究組織としての在り方」「予算収入構造の見通しと今後の対策」「調査対象とした地域との関係,社研がどのように意義を見出していくのか」について説明があり,これらに対する社研の取り組みを中心とする2011 年度の活動報告があった.

2011 年度報告,配布資料を受けて各委員からの意見・感想等

社研の東日本大震災への取り組み

● 東日本大震災から1 年,特に西日本にいると,少なからず記憶が風化し,関心が薄れてきていることを感じる.震災発生後の社研の取り組みについて,震災から1 年,そしてこれからの1 年について伺いたい.また社研では各種の調査を実施しているが,これらの調査結果を政策に提言する際の問題点など,釜石などとの関わりを例に教えてほしい.さらに記憶の風化について何か打つ手があるとすれば伺いたい.

(社研)調査結果の政策への提言については,例えば東大と大槌町との間で震災復旧及び復興に向けた連携・協力に関する包括協定を結んでいるが,実際には地区毎に,いくつも委員会や復興グループがあり,様々な意見や利害の対立があるため,調査結果をそのまま政策提言に発展させるのは容易なことではないというのが実感である.釜石市と東京大学(社研が窓口)の間では,包括協定ではなく「協力の覚書」の締結を近い将来実現する予定でいる.

● 震災から1 年たって様々な分野で大震災に対して,学問として取り組んでいるという気運が出てきたと実感している.社研がこの1 年間取り組んできた報告を聞いて,自然科学と対話をするという意味において,非常に重要な役割を果たして頂いたと感謝する.社会科学の個々の学問の中にいると自然科学との対話はできない.広渡清吾元社研所長(法社会学)が,日本学術会議の会長であったからこそ,日本学術会議は今回の大震災に分野を超えて提言を行うことができた.このように,社会科学というまとまりがあって初めて自然科学との対話が可能であるということを考えると,この一年間で社会科学研究所はその存在意義を立証したといっていい.これを前提として,来年度は今までより一歩進んで,社会科学としての調査分析に加えて,自然科学の在り方についても,社会科学がリードしていく必要性があることを強く認識してもらいたい.これらは,急に求めてもうまくいかないが,お互いに信頼関係を築いていく中で,一歩一歩近づいていけることだと思う.社研にその方向性を是非確立していってもらいたい.

● 震災復興に向けた調査研究,データ・情報収集をする場合,どういった復興を目標にするのかという,復興に向けたある種のイメージを共有する必要があると認識しているが,その点どのように考えているか.

(社研)データ収集にあたっては何を集め,どういった方向に向けて利用するのかについて,被災地や被災住民の側との事前のすり合わせが非常に重要ということは常に意識している.単に色々なデータを集めるだけに終わらないように配慮している.

● 震災後膨大な震災関連の出版物が世に出たが,どれも似かよったものが多く,学問的な裏づけのある防災学的なものは,まだまだ不足している印象を受ける.そうした中で自然科学系の専門分野に関する本はそれでもまだ多い.社研の存在意義として,社会科学系のこのような成果を今後さらにまとめていく必要があると考える.

● 調査はそれ自体が目的化しがちだが,災害に対する調査については,殊更,社会のための学術として,どのように調査や研究の結果を社会還元していくのかがとても重要な点になる.また同じような目的で調査している組織との棲み分けをどう考えるかも重要であると考える.

● 災害の記憶を伝承していくのは重要だが,今回の震災では特にスマートフォン等の普及もあって,膨大な数の映像記録が存在する.しかし,権利の問題でこうした記録を有効に利用できていないのが現状である.記録の公開原則をどうするのかも考え合わせながら調査する必要性を強く感じる.

● ここ数年社研はかつての理論志向の研究から,現場でのデータ収集,すなわち実証しながら研究を積み上げていく方向へ変わってきたと認識している.それはそれで,社研独自の方向として,新しい試みであると評価している.しかしながら,社会のための調査のみならず,学術のための調査を志向するのが社研の一つの方向性なのではないのかとも考える.社研には,理論研究に携わる人々もいるのだから,実証と理論をどのように組み合わせるのかということは,常に問われなければならないと考える.

(社研)社研は伝統的に理論志向の研究者であっても,実証に関心を持っている人材を獲得してきた.例えば,法律系で言えば,学部は解釈法学,社研は法社会学という棲み分けがあった.かつての全所的プロジェクト研究では,特定のテーマについて大規模な実態調査やアンケート調査などは行っていなかったが,近年,全所的プロジェクト研究や競争資金を使った共同研究では,新たにヒアリングや実態調査,アンケート調査を行うようになってきている.ただ,ご指摘のとおり理論的な探求がやや後手にまわっているというのも事実なので,その点を意識して今後成果を出していきたい.

予算の問題を含めた組織運営等について

● グループ共同研究等への予算配分はどうなっているのか.また個人研究については,どの程度のエフォートが確保できているか.

● 外部資金を獲得すれば、それに伴って事務処理量が増加し、研究以外の仕事の負担が当然増すが、そういったことを敬遠する傾向が所員にあるのかどうか。

● 受託研究を積極的に確保していくことも必要だと思う。

(社研)運営費交付金の2012 年度予算の大幅削減は回避されたが,それでも予想される大口需要家向けの電気料金の大幅値上げは,理系ほどではないにしても支出の増加に直ちにはねかえる.全所的プロジェクトの運営資金に関しては,従来運営費交付金を優先的に配分してきたが,ここ数年間はできるだけ外部資金を利用して,アンケート調査など実施しているのが現状である.一方,所員が自主的に行っているグループ共同研究に対する運営費交付金を使った支援は僅かであり,基本的にはグループの自助努力でやっている.また共同研究等のリーダー格になると個人研究に割く時間的な余裕はあまりないのが現状である.

(社研)個人的には全所的プロジェクト(通常3 年から5 年続く)への参加は2 回に1 回程度の頻度であり,個人研究に割ける時間はあった.そういう意味では,所内での人員配置と研究時間の調整はある程度とれていると思う.その一方で,今回の震災復興に絡めると,特定の所員にさまざまな負担が集中したという事実は否めないかもしれない.

● 次に組織面での課題等について伺いたい.昨今の業務量の増加と予算削減に対しては,例えば,(特定)短時間勤務有期雇用教職員についても,専門的なスキルをもった職員を採用して,一定のプロジェクトに参画してもらっているのか.

(社研)特定短時間勤務有期雇用教職員であっても特任研究員,学術支援専門職員は各活動単位で専門知識,経験に応じた役割を担ってもらっているが,一方で学術支援職員や学術支援専門職員についても,予算管理等の役割を担ってもらうことは当然ある.ただし,彼らは裁量労働制ではなく,しかも2011 年度から就労管理システム(打刻制度など)を導入して勤務時間を厳しく管理しているため,時間内に処理できない業務をどうするかという問題も生じている.この点については,外部資金を積極的に獲得するという従来の路線の再検討を含めて,さまざまな業務の見直しで対応せざるを得ないと考えている.

● 今後グローバルCOE(拠点形成)については,研究期間中の成果のみならず,研究期間が終了したあとも,当該機関の活動がその後の拠点形成にどう結びついているのかが問われていくと思う.実際,そうした評価が始まっている.このことは,大学全体として対応していくのはもちろんだが,社研ではその点をどう考えているか.

(社研)社研がグローバルCOE で提携している東北大学は,今後独自予算でクロスナショナル・ドクトラル・コースを恒久的に継続していく方針を明確にした.今後要請があれば,社研としてもクロスナショナル・ドクトラル・コースの学生を客員研究員として受入れるなどの協力をしたい.それとは別に,社研としては若手研究者への研究スペースの提供,研究報告会や研究費獲得に向けてのサポートといった支援を実施しているが,社研には直接所属する院生等がいないので,拠点化していくのは難しいと思う.東大全学のグローバルCOE 拠点事業については,東大が今後も独自の予算で若手研究者支援を続けていくのかどうかが問われているのだと感じている.

広報活動について

● 印象として社研の出版物には表紙など外見面で統一性が無く,社研をアピールするという点では,まだまだ弱いと感じる.ウェブサイトの製作も含め,専属のデザイナーや,アドバイザーなど広報活動について専門知識がある人材を雇うなどの試みをしてみてはどうか.

(社研)広報については,ホームページの充実等を含め積極的に行ってはいるが,他方で全学的な意見の中には,社研の活動の内容が十分伝わってこないという厳しい評価があるのも事実なので,今後さらに対応を検討していきたい.

配付資料

  • 社会科学研究所の『年報2011』(第48 号)
  • 社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターのパンフレット
  • 全所的プロジェクトの紹介パンフレット(2012 年3 月作成)
  • 『釜石市民の暮らしと復興についての意識調査 基本報告書』(2012 年1 月)
  • 『福井の希望と社会生活調査』の紹介パンフレット
  • Social Science Japan Newsletter No.46 Employment in the Near Future(March 2012)
  • 〔資料1〕第4 回東京大学社会科学研究所諮問委員会議事要旨(2010 年度)
  • 〔資料2〕社会科学研究所の研究体制と研究事業
  • 〔資料3〕2011 年度社会科学研究所の活動日誌
  • 〔資料4〕社会科学研究所のHP と「新刊著者訪問,社研卒業生の現在」
  • 〔資料5 の1〕震災復興と社研,仙台附置研シンポ・末廣報告
  • 〔資料5 の2〕震災復興と社研,仙台附置研シンポ,佐藤慶一報告
  • 〔資料5 の3〕社会科学研究所と釜石市支援関係(2011 年9 月28 日作成)
  • 〔資料6〕全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」2011 年度活動報告
  • 〔資料7〕社会調査・データアーカイブ研究センター2011 年度活動報告
  • 〔資料8〕現代中国研究拠点第1 期活動報告(2007 年度〜 2011 年度)
  • 〔資料9〕近未来事業・希望学福井調査2011 年度活動報告
  • 〔資料10〕グローバルCOE 連携事業2011 年度活動報告
  • 〔資料11〕社会科学研究所の活動単位別人員配置(2012 年4 月現在)
  • 〔資料12〕社会科学研究所の助教・特任研究員等の就職状況(2011 年度)
  • 〔資料13〕社会科学研究所の収入構造(2004 年度〜 2012 年度)
  • 〔資料14〕社会科学研究所の活動,写真集(2011 年度)
  • 〔資料15〕社会科学研究所員が刊行した本(2011 年度)
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