自己点検・自己評価報告書

Ⅱ. 社会科学研究所の組織と活動
日本社会情報センター

1)センター設立の経緯

 1996年度より、本研究所附属研究施設として日本社会研究情報センターが新設されることになった。ここに至るまでには、1992年度にはじめて概算要求をおこなって以来(当初の名称は国際日本社会研究センター)様々な努力が積み重ねられてきた。1993年度に所内措置によりセンター準備室を発足させて準備を進め、1994年度には英文ニューズレターSocial Science Japanの第一号が刊行された。その後、東京大学本部、文部省担当部局との折衝を重ね、1995年8月末に文部省の概算要求に盛り込むことが決定され、同年12月25日平成8年度政府予算案の決定に際して、センターを教授2、助教授2、外国人客員2という陣容で新設することが認められた(時限10年)。なお、これに伴って、助手定員3が教授・助教授定員に振り替えられ、また、外国人客員部門現代日本社会(定員1)がセンターの外国人客員ポストに振り替えられることになった。予算が国会審議をへて成立し、5月10日センターが正式に発足することになった。

 センターは、高度の情報ネットワークを備え、国際化・情報ネットワーク化に対応するネットワーク型組織の研究、調査情報解析法の開発を担うとともに、日本社会研究に関する発信型・交信型の学術国際交流を進めるための拠点として構想された。この構想を実現するために、(1)ネットワーク型組織および調査情報解析という新たな研究領域の設定と定員の配分、(2)情報ネットワークを活用した国際的な日本社会研究情報の発信・交信を可能にする研究情報機能の拡充、(3)国際的研究交流の促進のための外国人客員の増設が要求された。

 ネットワーク型組織研究領域とは、情報化・ネットワーク化にともない、企業組織・企業間関係・行政を含む社会サービスなど、さまざまな分野で、従来の階層的・固定的な組織から、ネットワーク型組織への転換が進みつつあることに着目し、このような現象を既存の専門分野を超えて学際的・総合的に研究しようとするものである。調査情報解析研究領域とは、社会科学の分野においてもオンライン・データベースの利用など研究情報の高度化が進んでいる状況に着目し、これを活用して国際比較研究を一段高い段階に推し進めるために、研究情報の基礎となる調査データをより有効に活用するための方法・ツールを開発しようとするものである。

 センターの担うべき研究情報機能としては、ア)インフラストラクチャーとしての情報ネットワークシステムの構築と維持管理、イ)インターネットを利用したネットワーク・フォーラムの組織化、ウ)社会調査データベースのオンライン提供、エ)英文ニューズレターの刊行、オ)英文ジャーナルの刊行、カ)英文出版 などが予定されていた。センターのスタッフは、上記のような研究領域の研究に従事するとともに、研究大部門所属教官と協力しつつ、これらの多様な研究情報機能を展開していく役割を担うことが期待されていた。

2)センターの組織と活動

 センターの常勤スタッフとして採用されたのは,教授(ネットワーク型組織担当)西垣通,教授(調査情報解析担当)佐藤博樹,助教授(ネットワーク型組織担当)ジョナサン・ルイス,助教授(調査情報解析担当)松井博であった.センター助教授は3年程度の任期制で運用しており、1999年4月よりケネス・ペクター(ネットワーク型組織担当)、清水誠(調査情報解析担当)が着任した。外国人客員については以下の通りである。

 アルバート・クレイグ(ハーバード大学),グレンダ・ロバーツ(ハワイ大学)テルトモ・オザワ(コロラド大学),アーサー・ストックウィン(オックスフォード大学),イルゼ・レンツ(ボッフム大学),金弘汎(福建社会科学院),ペーター・ペルトナー(ミュンヘン大学)、エフド・ハラリ(エルサレム大学)、クワン・クー・ユン(ニューヨーク州立大学)、ピーター・ドライスデール(オーストラリア国立大学)、ケリー・スミス(ブラウン大学)

 組織的には,センター長(本研究所所長が兼任)のもとにセンター運営委員会を設け,そのもとに,多様な機能をになう部会を設置して研究・情報機能の遂行を図っている.センター運営委員会の運営は,運営委員長および副委員長が中心となって,これら部会の活動を調整しながら進めている.運営委員長は仁田道夫(1996-99年度、比較現代社会大部門教授),副委員長は田嶋俊雄(1996-97年度、比較現代経済大部門教授)、樋渡展洋(1998年度、比較現代政治大部門教授)、西垣通(1999年度、センター教授)であった.各部会の活動においても、研究大部門所属教官が全面的に協力しており、センターの研究情報機能は、常勤センタースタッフとこれら研究大部門所属教官との協働によって成り立っている。

 なお,業務の遂行に当たっては,上記のセンター正規スタッフ以外に,システム管理担当助手西田公昭(1996年度)、杉山学(1997,98年度)ジュマリ・アラム(1999年度),英文ニューズレター担当助手ロバート・ヘリヤー,翻訳助手森谷文昭(英文ジャーナル関係),SSJJマネジングエディター、ウオルター・ハッチ(英文ジャーナル関係)、全体研究助手土田とも子(英文出版関係),研究機関研究員ジュマリ・アラム(1996-98年度、システム管理関係・国際交流関係)、石倉義博(1999年度、システム管理関係),宮岡勲(1997,98年度、国際交流関係)、三浦まり(1999年度、国際交流関係)のほか,非常勤講師,研究支援推進員,リサーチ・アシスタント(RA)その他非常勤職員など,多くの協力を得た.また,従来の業務掛・調査統計掛の改組・業務見直しなどにより,1998 年 4 月より,研究協力掛,企画交流掛が設けられ,センターの活動をサポートする事務体制が整えられた.

 センターの活動は,英文ニューズレター(Social Science Japan:年 3 回刊),英文出版(The Political Economy of Japanese Society,オックスフォード大学出版局より 2 巻刊行),英文ジャーナル(Social Science Japan Journal:オックスフォード大学出版局より年 2 回刊),ネットワーク・フォーラム(SSJ Forum),朝日切り抜きデータベースのオンライン検索サービス,データアーカイブ(SSJ Data Archive),多言語プロジェクトなど多面的である.このうち,英文ニューズレター以下の国際交流関連の活動実績については,国際交流の部分でふれる.ここでは,センターの常勤スタッフが中心となって戦略プロジェクトとして推進しているデータ・アーカイブと多言語プロジェクトの二つについて,その活動実績を記すこととしたい.

3)データ・アーカイブ(SSJ Data Archive)

 データ・アーカイブ(データライブラリー,データバンクと呼ばれることもある.)は,統計調査,社会調査の調査個票データ(個々の調査票の記入内容,マイクロデータと呼ばれる.)と調査方法等に関する情報を収集・保管し,その散逸を防ぐとともに,学術目的での二次的な利用のために提供する機関である.欧米諸国のほとんどで設立されており,社会科学分野の研究,教育に活用されているが,我が国にはこれまで組織的なデータアーカイブがなかったため,多くの調査が実施されているにもかかわらず,それらの調査データは,当初の集計が終わるとともに徐々に消え去っているのが現状である.このような現状を打破するために,当センターでは,調査情報解析担当者を中心にデータの集積作業をすすめ,SSJデータ・アーカイブ(Social Science Japan Data Archive)を構築して1998 年 4 月 1日から調査個票データの外部提供を開始した.98年度の利用状況は、申請書受諾件数11,申請書受諾研究者数14,延べ申請書受諾データセット数22となっている。

 提供しているデータの多くは,民間,あるいは公的な調査実施機関が実施したもので,これまでに,連合総合生活開発研究所,生命保険文化センター,日本能率協会総合研究所,全国大学生協連合会,国民金融公庫総合研究所、社会経済生産性本部生産性研究所、関西生産性本部、中小企業総合研究機構、日本経済新聞社、リクルート・リサーチ、選挙とデモクラシー研究会がその保有データを当センターに寄託しており,この数は今後も増える見込みである.

 また,本研究所が実施したいわゆる戦後労働調査の個票データの電子化と公開も進めている.これについては,もともとのデータが電子化以前のものであることから,データの整理と入力に多くの時間と労力がかかるので逐次実施している.現在までに電子化が完了して提供されているのは、新規学卒者(中卒者)労働市場調査(1953年、調査番号R036)である。現在データの整理と入力を実施中のものは、目黒区零細工場調査(1950年、調査番号R010)、京浜工業地帯(従業員個人調査)(1951年、調査番号R018)、京浜工業地帯企業連関調査(1963年、調査番号R050)である。なお、戦後労働調査については、その概要をオンラインで検索できるデータベースを構築し、公開している。

 また,わが国におけるマイクロ・データの再利用を促進し,研究上の利便性を高めるために,少数だが存在する他のデータ公開機関の了解をえて,これらが公開しているデータを含めて検索できる統合的インデックスの構築も進めている.急速に進展する通信ネットワーク技術を利用しながら,わが国におけるデータ・アーカイブ機能の確立を目指している.これに関連して,下記のような公開セミナーを実施してきた。

第1回(1997年2月21日)「マイクロデータの保存と活用」
第2回(1997年10月31日)「マイクロデータの二次分析の意義と可能性」
第3回(1998年 7月 10日)「社会科学研究におけるデータ・アーカイブの役割」

 当データアーカイブは、自ら集積した国内の調査データを利用可能にするだけでなく、年会費を支払って米国のデータ・アーカイブである ICPSR(Inter-University Consortium for Political and Social Research)のメンバーとなることにより,東京大学におけるその窓口として,東京大学全学の教官および大学院生・学生がその所蔵データを利用できるようサービスを行っている.98年度の利用実績は、申請書受諾件数17,申請書受諾研究者数29,延べ申請書受諾データセット数64であった。また、ICPSRが提供しているデータ分析に関するサマー・セミナーに会員大学は割引(50%)で教官・大学院生・学生を派遣できるが、98年度は、全学で6名の大学院生がこのサービスを利用して参加した。これは東京大学に限定されたサービスであるが、99年度には、他の日本のICPSR加盟大学などと協同して、これを全国加盟として拡大すべく活動中である。これが実現できれば、日本の大学、研究機関がICPSRのデータを比較的安価に利用する道が開かれることになる。

 98年度からの新規調査研究プロジェクトとしては、継年実施する総合的な社会意識・社会行動の調査、いわゆる日本版General Social Surveyの企画を、大阪商業大学との共同で立ち上げた。このような調査はアメリカやドイツ、イギリスをはじめ、多くの国で実施されており、その調査原票データが早期に公開されて多数の研究者に利用されている。各国のデータアーカイブで最も多く利用される調査の一つである。1998年度は、東京、大阪で予備調査を実施し、今後の本格的な調査実施のための準備を行った。1999年度は、大阪商業大学が主体となって実施する文部省「学術フロンティア構想」プロジェクト(5年計画)に協力し、第二次の予備調査を実施する計画である。

 また、社会意識や社会行動に関する既存のデータセットを研究や教育に利用する2次分析の方法を紹介し、その普及をはかるプロジェクトとして、2次分析研究会を発足させた。その成果は、1999年度に、佐藤博樹、石田浩(本研究所教授)、池田謙一(本学人文社会系研究科教授)編の著書として刊行を予定している。

 以上のようなデータ・アーカイブの活動全般について詳しくは,下記のホームページを参照されたい.

4)多言語イントラネット

 国際共同研究・学術交流を促進する上で,インターネットをはじめとする国際ネットワーク上で,言語の障壁なく自由な情報交換を行うことの重要性が高まっている.これについて,センター発足以来,ネットワーク型組織担当スタッフを中心に英語以外の言語を国際ネットワーク上で自由に表示・活用するために何が必要か,どのようなシステムを用意する必要があるかなどの準備的研究を進めてきた.

 これを具体化するために,1997年度施設整備費大型特別機械整備費の配分を受け,研究情報高度編集解析システム装置を入札・購入した.これを踏まえ,イントラネットの手法を応用した多言語による学術共同研究推進のためのシステム開発研究を推進している.

 具体的には,第一に,技術的側面については,1998年度より,日立製作所中央研究所との間で契約を結び,自動翻訳を含む多言語システムについての共同研究プロジェクトを行ってきた。この結果、日中、日韓自動翻訳ソフトについて改善提案を行い、実施を進めている。また、日本語-インドネシア語のテキスト理解支援システムを開発した。

 第二に,内容的側面については,1998年度より,多言語ネットワーク問題に関わる諸問題を上記技術・システムを応用しながら議論する国際的なフォーラムとして,LP(Language/Power) Forumをたち上げ,日本語,英語に加えて,中国語,韓国語,インドネシア語による情報交換の試みを行っている.「言語とオンライン共同体」「多言語主義と単一言語主義」「アジアにおける言語教育」「プレーン英語(現在米政府が推進している簡潔な英語を使う運動)」「自動翻訳の現状」「国際共通文字コード」などについて所内外のフォラムメンバーと議論を行った。1999年 9 月には,これに関連して,公開のワークショップを開催したが、そこでは、英語以外の言語で国際的な学術交流を行うことの意義や問題点などについて所内外の参加者のあいだで活発な討論が繰り広げられた。詳しくは,下記のLP Forumのホームページを参照されたい.ワークショップの報告はこのメッセージ32番(9月30日発行)にまとめてある。

 また、LP Forumについて、1998年9月の朝日メディア・シンポジウム(朝日新聞社主催)、および1998年10月の国際情報倫理大会(INFOethic'98)(UNESCO主催)にて報告し、関心を集めた。

5)研究所全体のなかでのセンターの役割

センター設立の目的の一つは、社会科学研究所が現代日本社会の総合的社会科学的研究の一層の発展を実現することであった。この目的がどのように達成されているかを的確に評価するのに、センター発足後、3年強の期間は不十分である。だが、これまでの活動実績からも、大きな成果にいたる萌芽を見いだすことができる。

 第一は、センターの活動が契機となって質量ともに拡充されている国際交流であり、これを踏まえて、国際共同研究、国際比較研究の飛躍的発展が期待される。例えばインドネシア大学日本研究センターとの研究協力(国際協力事業団プロジェクト)による日本とインドネシア関係と相互比較研究プロジェクトである。これは東洋文化研究所スタッフの協力も得て1997年度より3年計画で推進されているが、そのなかで、インドネシアにおける日系企業の生産システムに関する研究(Nakamura and Padang, Toyota in Indonesia,1998) のような先端的研究成果が生み出されている。

 第二は、センターが中心となって推進する研究プロジェクトであり、その代表例としては、大阪商業大学と協力して展開されている日本版GSS(総合的社会調査)がある。センタースタッフと研究大部門スタッフが協力し、また学内外の有力研究者の協力をえて、調査票の設計から調査の実施企画までを行っているこのプロジェクトは、調査の性格上、本来的に学際的プロジェクトであり、センターを基軸として、研究所の学際的総合力、そして東京大学の研究資源を十分に活用したプロジェクトを展開する可能性を示す好例といえよう。このプロジェクトの結果生み出されるデータは調査個票データとして公開されるが、これは、従来の日本の調査研究慣行(調査データの専有性)に革命をもたらすものであり、計量的な日本社会分析の飛躍的発展をもたらす可能性を秘めている。

 第三は、センターの活動が契機となってスパイラル状に展開する日本社会研究の発展である。例えば、比較現代社会大部門教授石田浩「教育と労働市場ー新規学卒者の就職と職安・学校」は、全体研究プロジェクト「20世紀システム」の成果として、その第3巻「経済成長2ー受容と抵抗」の第4章として刊行された業績であるが、その出発点は、センターの戦後労働調査データの整理・公開プロジェクトの一環として取り組まれた「新規学卒者(中卒者)労働市場」調査プロジェクトである。論文のなかで、その成果の一部が利用されているが、この論文が完成するためには、それだけで十分であったのではなく、この調査データに、追加的情報を発掘する歴史的研究を行うことによってはじめて深い分析が可能となったものである。

 これらは一例にすぎない。このような飛躍の芽を活用する体制を一層整備し、創造的研究活動を発展させなければならない。

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