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東京大学社会科学研究所の現状と課題

外部評価報告書の公表にあたって

2000年3月 東京大学社会科学研究所長 広渡 清吾

 東京大学社会科学研究所は、かねてより「恒常的外部評価」という考え方に基づいて研究所の活動の全容をさまざまなルートやツールによって対外的に公表し、外部からの批判的評価をうけ、それを研究所の運営・活動の改善に資することを図ってきた。

 ここに公表する 外部評価報告書は、このような恒常的外部評価の考え方を基礎にしながら、あらためて研究所の目的、組織、運営、研究教育活動の総体について、1999年度に行った外部評価の報告である。

 社会科学研究所は1946年8月に勅令349号により東京帝国大学に附置され、5部門の陣容で発足した。その後のいくつかの段階を画する発展を経ながら、1985年に大部門制に移行し、比較現代法、比較現代政治、比較現代経済及び比較現代社会の4大部門によって構成され、今日に至っている。この間、1996年に研究活動の情報化・国際化を促進するために附属施設として「日本社会研究情報センター」の設置が認められた。現在のスタッフ数は、4大部門21研究分野、1附属センターを合わせて教授23名、助教授15名、国内客員2名、外国客員2名、助手12名である。

 今回の外部評価は、大部門制移行後の時期を対象にして、研究所の運営と活動の全体について、そのために独自に設置された外部評価委員会による評価を受け、研究所の現状に対する自己点検をさらに深めると共に、今後の中期的な研究所のあり方と活動の方向を自主的に検討するために実施したものである。

 今回の外部評価の実施について、研究所教授会は1998年7月に、研究所として実施する外部評価の基本的考え方を審議・決定し、実施細目を検討するための外部評価実施準備委員会を設置した。同委員会の作成した「外部評価実施スキーム」は、同年11月の教授会において承認され、以降これによって実施準備が進められた。1999年度に入り、委員会はその課題を準備から実施に移し(実施委員会として改組)、8名の委員からなる外部評価委員会の設置及び外部評価資料の作成にあたった。本報告書に収録している「東京大学社会科学研究所の現状と課題−自己点検・自己評価報告書」は、1999年7月に外部評価資料として作成され、外部評価委員会に提出されたものである。この間、研究所の活動の基幹部分である全所的プロジェクト研究の運営と実績について、及び研究所附属日本社会研究情報センターの活動と実績について、外部の専門家によるパネルを組織して評価を受けた。また、研究所の国際交流活動について、これまで社会科学研究所に研究のために滞在したことのある研究者のうち、コンタクトを有する外国人研究者225名に対してアンケート調査を実施し、結果の取りまとめを行った。専門家パネルの報告書及びアンケート調査のまとめは、それぞれ外部評価委員会に資料として提出された。

 外部評価委員会の視察・評価活動は、社会科学研究所から提出された上記諸資料の各委員による査読の後に、1999年11月に行われ、それに基づいて各委員によって個別報告書が作成された。これらを基礎にして、2000年2月末に外部評価報告書が外部評価委員会座長石井紫郎教授によって取りまとめられたうえ、社会科学研究所長に手渡された。

 社会科学研究所は、1999年度に、研究所の活動の全体についての上記の外部評価と並行して、教授任用後7年を経過した者について研究業績に関する外部評価を実施したので、ここであわせて報告しておく。これは、1999年4月の教授会で決定した研究所の人事制度に基づくものであり(決定したルールでは「教授任用後10年を経過した者」であるが、全体の外部評価と合わせて、今回は特例として「7年を経過した者」を該当者とした)、今後も恒常的に行われるものである。今回は7名が外部評価の該当者となったが、各自が教授任用後の期間について、業績一覧を付した研究活動報告書を作成し、所長がこれを外部の研究者に評価資料として送付し、評価意見を求めるというやり方を採った。7名につき、総計で55名の外部の研究者(外国人研究者を含む)から評価報告書を受け取ることができた。結果については、個人別に所長から教授会に報告し、評価報告書は各自の一層の自己点検に資するために該当者に手渡された。これらについて詳細は、別途2000年度の「社会科学研究所年報」で報告される。

 外部評価委員会の報告書は、社会科学研究所の活動の多くについて肯定的に評価しながら、同時に期待されるべき役割を十分に発揮するためのさらなる努力の必要性を、さまざまな面において鋭く指摘するものである。とくに、社会科学研究所は、その目的が教育カリキュラムとして示されて自明にみえる「学部」や「研究科」と異なり、あるいは、特定の分野の研究に特化した目的追求型の研究所とも異なり、世界各地域の「比較・総合・実証の社会科学研究」という、「内包・外延ともにはっきりしないジャンルの研究機関たることを標榜」(外部評価報告書「はじめに」)している。したがって、「常に自己の歩むべき道を探り、しかもそれを外に向かって発信していかなければならない宿命にある」(同)と指摘されている。

 社会科学研究所は、「東京大学社会科学研究所の現状と課題−自己点検・自己評価報告書」に示したように、(1) 国際的プロジェクト研究を推進し、プロジェクト型研究所のプロトタイプであることを目指す、(2) 欧米地域とアジア地域の日本社会研究を結ぶノードの役割を果たす、(3) 日本社会研究情報センターを基盤に、社会科学研究の実証データの蓄積・開発・解析・発信の基地を形成する、(4) 研究活動を基礎にした、教育・トレーニング機能を開発・充実させる、及び(5) 国際比較の視点に立った総合的実証的社会科学に新たな次元を開く創造的研究を進める、ことをこれからの課題として設定している。これらの課題に即した内容は、すでに研究所の活動のなかに基礎をもち展開されつつあるものであるが、なお今後に期すべきところが多く、研究所としてはこれらの課題を実際の活動のなかに一層具体化し、課題の実現を追求しなければならない。外部評価委員会は、これらの課題を追求するに際して、なにをどのように問題として検討し、方向づけをしていくべきかについて、多くのアドバイスを与えてくれている。そしてまた、こうし課題の整理をこえて、「冷徹な計算と言葉の真の意味でのラディカルな発想」で将来を展望することの必要性をも示唆している。ここで、私たちにとってなによりも重要な外部評価委員会のメッセージは、社会科学研究所が、社会と学問の要請に応じて自己のアイデンティティを絶えず模索し、形成し、変化させ、そしてその過程を発信していくことが必要であること、それを通じて研究所の存在のアカウンタビィりティが確保されていくものであることを示していることである。

 社会科学研究所は、2000年4月に所内に「学術評価委員会」を設置することとしている。この委員会は、外部評価実施の結果を総括し、外部評価委員会の多様なアドバイスを検討し、研究所の直面する課題を整理しつつ、社会科学研究所の次期の構想を策定することを任務とするものである。社会科学研究所の基幹活動である、全所的プロジェクト研究も、2000年度には新たな形態を模索しつつ、新たなテーマの下で開始する。

 最後に、石井紫郎座長をはじめとする外部評価委員会の8名の委員、専門家パネルに参加していただいた8名の委員、及び国際交流アンケートに回答して下さった外国の研究者の皆さん、さらに教授の研究業績評価の労をお取りくださった研究者の方々に、この場を借りて謹んで心から御礼を申し上げたい。

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