自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

末廣昭

1.経歴

1951年 8月30日生まれ
1974年3月 東京大学経済学部卒業
1976年3月 東京大学大学院経済学研究科修了
1976年4月~87年3月 アジア経済研究所調査研究部
1981年4月~83年9月 タイ国チュラーロンコーン大学客員研究員
1987年4月~92年3月 大阪市立大学経済研究所助教授
1990年4月~91年3月 京都大学東南アジア研究センター客員助教授兼任
1991年5月 経済学博士取得(東京大学)
1992年4月~95年3月 東京大学社会科学研究所助教授
1993年7月~98年6月 アジア経済研究所開発スクール (IDEAS) 客員教授
1994年10月~95年3月 ドイツ・ベルリン自由大学客員教授
1995年4月 東京大学社会科学研究所教授

2. 専門分野

比較現代社会大部門,地域社会分野,専門分野:アジア経済論

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. タイにおける主要産業・タイ系企業発達史研究
  2. 戦後日本の対東南アジア政策の推移の研究
  3. 東南アジア諸国の都市問題の研究
  4. タイにおける開発と民主主義の展開過程の研究
  5. タイにおける技術者形成史研究
  6. アジア諸国における「地域発展の固有論理」比較研究
  7. 戦後日本のアジア観の形成とアジア研究の推移の研究
  8. タイにおける労働政策と労働社会史研究
  9. タイにおける統計制度発達史研究
  10. 20世紀システムと発展途上国の「開発主義」の研究
  11. アジア通貨・経済危機の比較研究
  12. タイにおける経済政策決定過程の政治経済学的、かつ実証的研究

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『NAICへの挑戦ータイの工業化』(編著)アジア経済研究所、1987年
  2. Capital Accumulation in Thailand 1855-1985, Tokyo: UNESCO The Centre for East Asian Cultural Studies, 1989.
  3. 『タイの財閥ーファミリービジネスと経営改革』(共著)同文舘出版、1991年
  4. 『タイー開発と民主主義』(単著)岩波新書、1993年
  5. 『戦前期タイ鉄道業の発展と技術者形成』(単著)重点領域研究、京都大学東南アジア研究センター、1996年
  6. 「タイの労働市場と人事労務管理の変容」(『社会科学研究』第46巻6号、1997年)
  7. 『タイの統計制度と主要経済・政治データ』(編著)アジア経済研究所、1998年
  8. 『タイー経済ブーム・経済危機・構造調整』(編著)日本タイ協会、1998年
  9. 『開発主義』(20世紀システム 第4巻)(編著)東京大学出版会、1998年
  10. 『タイにおける経済政策の政治経済学ー制度・組織・アクター』(編著)アジア経済研究所、1999年

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

研究所における私の所属は比較社会大部門地域社会論であり、研究分野はアジア経済論である。私自身は、大学院経済学研究科を修了後、アジア経済研究所調査研究部に11年間、大阪市立大学経済研究所に5年間、それぞれ在籍したのち、社会科学研究所に移籍してきた。そこで、主として他の2機関での研究との比較で、社会科学研究所における研究分野の拡充と研究方法の進展を整理しておきたい。

(1)アジア経済研究所では、調査研究部東南アジア班に所属し、主としてタイの経済を担当した。この間、2年半のタイ国チュラーロンコーン大学での長期滞在を含め10数回、タイで産業・企業の実地調査を行ない、同時に、当時日本では最初のアジア諸国の製造業の比較研究プロジェクト(CAM Project 1988-1991、東南アジア5カ国、韓国、日本の7カ国が参加)のタイ班の研究主査とプロジェクト全体の事務局長を担当した。また、「アジア工業化プロジェクト」(1986ー91年の5カ年、シリーズ15冊)の企画とタイ班の研究主査も務めた(主要業績の (1))。この時代は、「タイ1国研究」が中心であり、比較研究もアジア域内の製造業の比較検討にとどまっていた。

(2)1987年から5年間、大阪市立大学に在籍し、この期間はアジア経済研究所時代の調査研究のとりまとめと(同業績の (2)(3))、大阪市立大学経済研究所編『経済学辞典第2版』(岩波書店)の編集委員兼事務局長(1988ー92年)に大半の時間を費やした。ただし、この5年間に「世界の大都市研究」(3カ年計画)を立ち上げ、「東南アジアの大都市」の編集を担当した。また、経済学部の中岡哲郎氏と共同で 「技術研究会」を組織し、さらに大阪市長室の諮問委員として、大阪市とアジアとの交流に関する企画・研究を担当した。

(3)1992年に社会科学研究所に移籍してから、研究分野に大きな変化が生じた。ひとつの変化は、タイもしくは東南アジア域内に限定していた研究関心が、東アジア、ラテンアメリカ、ロシア東欧との比較研究に拡充したことである。同時に、日本の経験とタイや東南アジア諸国との比較も強く意識するようになった。もうひとつの変化は、研究テーマや視角の拡充であり、それまで15年間続けてきたタイの企業経営や主要産業の新たな視角による分析だけではなく、技術形成、労使関係、統計制度、政治と経済の相互作用にも関心を持つようになった。

(4)前者の地域研究の国際比較は、アメリカでこそコーネル大学が中心となって、東アジアとラテンアメリカの政治発展や経済構造の比較研究を行なっているが、日本ではこれまでまったく試みのない分野であった。社会科学研究所でのさまざまな研究会への参加や、文部省国際学術調査『地域発展の固有論理』(1994ー96年、研究主査末廣昭)での日本研究者(橘川武郎氏)との共同実地調査を通じて、調査の手法、研究の視角が大きく広がった点が、私にとってのメリットである。その成果は、『タイー開発と民主主義』 (主要業績の(4))や『開発主義』(同(9)、『地域発展の固有論理ー文部省国際学術調査最終報告書』(1996年)などに収めてある。

(5)研究テーマの拡充と学際的な研究について言えば、政治法律系教官との議論がきわめて刺激的であり、タイや東南アジアの政治形態や法的枠組みを考える上で参考になった。また、日本経済論を担当する橋本寿朗、橘川武郎両氏、ドイツ企業経営史の工藤章氏などとの企業経営や財閥をめぐる議論、安保哲夫氏を中心とする「日本多国籍企業研究会」への参加や東南アジア諸国、日本国内での自動車・電機電子産業の工場調査への参加は、これまで私自身が続けてきたタイの産業調査やファミリービジネス(財閥)に関する研究を見直す上で重要な契機となった(英文で4つの論文を発表)。

(6)技術形成については、社会科学研究所の助手であった鈴木淳、中村尚史両氏との明治期日本の技術形成に関する議論が大きな刺激となった。『戦前期タイ鉄道業の発展と技術者形成』(主要業績の(5)は、その成果の一部である。また、労働問題、労使関係についても、仁田道夫、佐藤博樹、中村圭介、石田浩氏などから労働調査の方法、労働統計、労使問題に関する基礎知識を得ることができた。『タイ労働史研究』は、現在研究書の刊行を準備中である。また、アジア通貨・経済危機以降は、河合正弘氏と共同で所外の研究会に出席することも多く、国際金融の分野について多くの知識を得た。

(7)グローバル化と工業化が進む現在、タイのような発展途上国の研究には、より広い視野と日本や他地域との比較研究が不可欠となっている。「1国主義的研究」に固執し、あるいは特定地域研究者の内部だけで研究会を組織したり、情報交換をそのレベルにとどめているだけでは、研究の発展は望めない。日本、欧米諸国の経験の再検討、アジア、ラテンアメリカ、ロシア東欧との比較研究や人的交流は、地域研究者にとってもますます重要になってきていると考える。

6. 今後の研究テーマ

  1. アジア通貨・経済危機と自由化の国際比較研究。とりわけ、ラテンアメリカ、ロシア東欧との比較のなかで実施する。
    Comparative study of economic liberalization and economic crisis among Asia, Latin America and Eastern Europe/Russia
  2. アジア諸国、とりわけタイにおける統計制度の発達と、過去100年間にわたる主要経済統計のデータの収集、整理と分析。
    Histroical study of Asian long-term economic statistics and construction of database
  3. 戦前期タイの労働問題、労働政策、労働運動の実証的研究(データベースはほぼ完了)。同時に、現在の労使関係の変化の企業・工場調査の実施。
    Study of socio-economic history of Thai workers in pre-war Thailand; Field study of changes in industrial relations in Thailand
  4. 過去20年間のタイの政治経済変化の総合的研究。とりわけ担い手(アクター)と制度に着目する。同時に地域研究者のデータ共有システムとネットワーク化を図る。
    Comprehensive study of contemporary Thailand with special reference to the role of institutions and economic agents; Networking of area study researchers through research organization
  5. テキスト『キャッチアップ型工業化ー地域研究者のアジア経済論』の執筆。
    Publication of a textbook on "Catch-up type Industrialization: A Study of Asian Economy from the standpoint of Area Study."

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院経済学研究科で 「アジア経済」 を担当している。

8. 所属学会

アジア政経学会(評議員,常任理事,業務担当理事),東アジア経済学会(国際理事),タイ学会(理事),東南アジア史学会

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