自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

宮崎良夫

1.経歴

1944年 2月15日生まれ
1967年3月 東京大学法学部196Ⅰ類卒業 
1967年4月 東京大学社会科学研究所助手
1973年4月 同 助教授
1976年8月~78年7月 ドイツ・フンボルト財団奨学生
(ドイツ・エアランゲン・ニュルンベルク大学)
1989年6月 東京大学大学院法学政治学研究科法学博士学位授与
1990年4月 東京大学社会科学研究所教授
1993年4~9月 ドイツ・ベルリン自由大学東アジア研究所客員教授
1994年8~10月 ドイツ・ミュンスター大学法学部客員研究員

2. 専門分野

比較現代法大部門,統治関係法分野,専門分野:行政法・ドイツ行政法

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. 環境行政法の形成と課題
  2. 行政手続法の比較法的研究
  3. 行政訴訟法理の研究とくに原告適格論・団体訴訟論の研究
  4. 行政的規制と規制緩和の問題
  5. 行政組織の改革をめぐる問題
  6. 公務員の基本的権利をめぐる問題
  7. 地方分権推進に関する研究
  8. 社会保障行政と権利保護の問題
  9. 日本の行政法学史の研究
  10. 行政法における公益についての研究
  11. 行政法総論をめぐる諸問題

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『行政訴訟の法理論』三省堂、1984年7月
  2. 『法治国理念と官僚制』東京大学出版会、1986年11月
  3. 「行政法の実効性の確保」有斐閣、『行政法の諸問題(上)』所収、1990年4月(203~247頁)
  4. 「行政不服審査制度の問題点と改革の方向」『公法研究』52号、1990年10月(218~232頁)
  5. 「行政手続法理の形成(序論的考察)」勁草書房、兼子仁・宮崎良夫編『行政法学の現状分析』所収、1991年7月(249~278頁)
  6. 『行政争訟と行政法学』弘文堂、1991年12月
  7. 「環境法の課題」東京大学出版会、東京大学社会科学研究所編『現代社会問題の諸相』所収、1992年4月(299~332頁)
  8. 「行政法における公益」『公法研究』54号、1992年10月(128~154頁)
  9. 「行政法関係における参加、協働、防御」勁草書房、兼子仁・磯部力編『手続法的行政法学の理論』所収、1995年3月(67~98頁)
  10. 「行政手続法の構造転換」東京大学出版会、東京大学社会科学研究所編『20世紀システム5国家の多様性と市場』所収、1998年7月(117~149頁)

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

1967年に社会科学研究所の助手に採用されて以来、わたくしの研究所在職期間は32年を越えることになった。文字通り、わたくしはこの研究所で研究者として育てら れたという実感を持っている。1973年にわたくしは研究所の助教授となり、本法公法部門を担当し、1990年には教授として統治関係法分野を担当することになり、現在に至っている。

 社会科学研究所は、法学、政治学、経済学、社会学の分野の研究者から構成され、学際的な研究はもとより、法学研究に関しても、たんに解釈学的研究を行うだけでなく、社会科学的な研究方法、とりわけ、歴史的研究、実証的研究を重んずる気風がきわめて 強かった。この気風は、わたくしの研究に強く影響を与えている。わたくしの研究が行政法学者としては比較的広い範囲に及んでいるのは、この研究所における共同研究の賜 物である。以下、助手時代以来のわたくしの研究と研究所との関わりを述べれば、以下のとおりである。

(1) 助手時代のわたくしの研究テーマは、行政法における行政行為の公定力理論を批判的に研究することであり、そのためには、日本の行政法学説に強い影響を与えたドイツ行政法理論との比較研究が必要であった。しかし、そのような比較研究だけでは、表面的な研究にとどまると感じたために、ドイツの行政法学説の基底にある「法治国」の思想を研究する必要を感じた。しかし、その場合でも単なる思想史的研究では不十分であって、ドイツの行政裁判制度の根幹にある法治国の理念を制度史的研究を通して解 明する必要があると感じた。このような問題意識のもとで推進した研究がわたくしの助手論文である「プロイセンにおける官府裁判(Kammerjustiz)」と題する論文であり、この論文をもとに作成したのが、『法治国理念と官僚制』と題する著書であり、これが 法学博士の学位請求論文となった。わたくしが学位請求をしたのは、教授昇進人事が行われる前に、いわばわたくしの研究に対する外部評価をしてもらいたいと考えたからでもあった。他方、行政行為の公定力理論に関する研究は、『行政訴訟と行政法学』と題する書物に収め、行政訴訟に関する諸問題とくに、いわゆる司法権の限界に関する理論や取消訴訟の原告適格、取消訴訟における立証責任の分配に関する問題を研究した成果は『行政訴訟の法理論』としてとりまとめた。

(2)以上のような個人研究の他に、判例研究・判例評釈、行政事件訴訟法に関するコメンタールの分担執筆など、行政法の解釈学的研究についても、行政法研究者としてある程度の研究を進めてきたが、社会科学研究所の重んじてきた実証的研究も進めた。行政不服審査制度の運用と問題点を取りあげた論文「行政不服審査制度の運用と問題点」および「行政不服審査制度の問題点と改革の方向」、行政代執行制度の運用と問題点を取りあげた「行政法の実効性の確保」と題する論文は、いずれもその分野の研究としては端緒的な基礎研究であったと自負している。

 さらに、個人研究としては、地方自治に関する研究、文化財保護行政に関する研究、社会保障行政に関する研究、公務員制度に関する研究も進めた。これらは、行政法研究としては、いわば周辺分野に関する研究であるが、わたくしの研究範囲を広げる上では重要な意味を有していた。

(3)わたくしの行政法研究者としての研究の幅を広げてくれたのは、研究所における共同研究である。これまで、わたくしは研究所の共同研究には積極的に参加するように努めてきた。わたくしが最初に共同研究に参加したのは、助手時代に組織された共同研究「資本主義法の形成と展開」であった。このテーマは、もともと、経済史学者であった岡田与好教授が営業の自由に関する法学者の見解に対する問題提起を契機にとりあげられたものであったが、法学者と経済史学者との間の論争に参加して、わたくしも「行政国家における営業の自由」と題する論文と「営業の自由と営業警察-ドイツにおける公権論争の諸前提」と題する論文を作成して、この論争に参加した。この研究では、経済史学者の問題設定の仕方と法学者とくに公法学者の問題設定の仕方の相違に大いなる学問的関心を惹起された。その後、日本公法学会で「営業の自由の現代的意義」と題す るテーマで報告をしたが、それは、このときの研究を発展させたものであった。

ついで、研究所のプロジェクト研究として組織されたのは、戦後改革をテーマとするものであった。この全所的研究の一環としてわたくしは「ドイツ連邦共和国の行政裁判 制度改革-ナチス体制からボン基本法にかけて」と題するテーマで論文を作成し、これを機に、ナチズムと行政法の関係について問題関心を惹起され、ナチス体制の下での行政法に対するわたくしの問題関心が拡がることになった。その後、研究所の全所的共同研究テーマとされた「ファシズム研究」に参加して、「ナチズムと行政法学」、「ナチス 支配下の憲法状況」および「ナチズムの警察法論(1)」と題する論文を作成した。このナチズムとドイツ行政法学の関係に対する研究は、戦前のわが国行政法学とヴァイマール期のドイツ行政法学を比較研究するという問題関心をも引き出してくれた。

 その後、全所的研究として取りあげられたテーマは「福祉国家の研究」であった。このプロジェクト研究にはわたくしも運営委員の一人して参加し、全所的研究の運営がなかなか困難な事業であることを実感したが、しかし、それはそれとして、この全体研究テーマの下に「社会保障行政と権利保護」および「西ドイツにおける社会国家論の展開」と題するテーマの論文を作成し、その後、社会保障法学会で「社会保障行政と行政 法の課題」と題する報告をした。「福祉国家の研究」の後、全所的研究として組織されたのは「現代社会」と題するプロジェクト研究であった。この研究テーマいささか茫漠としていて、参加するについては何をわたくしの研究テーマとすべきか迷ったが、当時は環境保護訴訟、団体訴訟制度、文化財保護行政などについて関心を寄せていたので、また、環境庁の中の「環境アセス 法研究会」に委員として参加していたこともあったので、上記のテーマの下に、「環境 法の課題」と題する論文を作成した。これは、日本における環境権論、環境保護訴訟に おける原告適格の範囲、環境アセス法の必要性などについて研究したものであった。

以上の全所的共同研究に続いて組織されたのは、「20世紀システム」と題するプロジェクト研究であった。この研究では、アメリカの連邦行政手続法と先進工業国の行政手続法とを比較研究し、アメリカの行政手続法の及ぼした影響について考察した。行政手続法はその後1993年にわが国でも制定され、このような比較研究が今後のわが国の行政手続法の解釈論的研究にも大いに寄与すると考える。

多様な専門分野の研究者から構成される社会科学研究所において、全所的共同研究を組織する場合、なるべく多くの研究者の参加を期待するとすれば、全体の研究テーマがやや包括的なものとなることは避けがたい。このことは、全所的研究のマイナス点ともなりうるが、他方では、個々の研究者からすると自己の個人研究に埋没することを避けて、学際的な研究あるいは隣接領域の研究に関心を拡げていくというメリットもある。少なくとも、わたくしにとっては、社会科学研究所の共同研究は研究者として成長し、その研究の幅を広げていく上でかけがえのないものであった。今後、全所的共同研究のあり方については、所員の個人的な基礎研究がますます重視されつつあるので、そのテーマ設定、運営方式などさまざまな困難が生ずると思われるが、全所的共同研究ないしそれに相応するような共同研究は研究所としての一体性、その存在意義を確保する上でも、なお重要性を失っていないと思う。

 (4)社会科学研究所におけるわたくしの研究活動の中で、もう一つ重要であったのは、グループ研究としての公法私法研究会における研究であった。この研究会は、1960 年に渡邊洋三教授、高柳信一教授らによって組織され、現在に至るまで39年間存続していて、現在の研究会の代表者には高柳信一名誉教授が、幹事役にはわたくしがあたっている。当初は、私法学者、公法学者、法曹、行政実務家らで構成されていたが、わたくしが助手になって、この研究会の事務局的仕事を引き受けてからは、おもに若手の行 政法研究者および行政実務家によって研究会が組織されるようになった。この研究会では、年毎に緩やかな共同研究テーマを掲げるが、必ずしもそれにこだわらずに、参加者が自由に多様な研究テーマで報告し、討論をするようにしてきた。したがって、まとまった研究成果はないが、1991年に兼子仁教授とわたくしの共編著で『行政法学の現 状分析』と題する書物を公刊した。これは、実質的には、研究会代表者である高柳信一教授の古稀記念論集に相当するもので、執筆者はこの研究会のメンバーであった。

6. 今後の研究テーマ

  1. 行政手続法の研究
    Research on the laws of administrative procedure
  2. 行政訴訟法の研究
    Research on the laws of administrative litigation 

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院法学政治学研究科で行政法特殊講義の課目を担当している。授業目としては、行政組織をめぐる諸問題、環境行政法、行政法総論の課題、規制緩和と許認可行政、行政法における公益、行政法と教授の方法といったテーマを取りあげてきた。

8. 所属学会

日本公法学会,全国憲法研究会,民主主義科学者協会法律部会,日独法学会,日本ドイツ学会

東京大学 社会科学研究所

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東京大学社会科学研究所

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