自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

西田美昭

1.経歴

1940年 10月29日生まれ
1964年 3月 横浜国立大学経済学部卒業
1969年 3月 一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
1969年 5月 一橋大学経済学部助手
1971年 5月 高崎経済大学講師
1974年 4月 東京大学社会科学研究所助教授
1981年 6月~82年 8月 ハーバード大学イエンチン研究所客員研究員
1986年 1~ 3月 デリー大学中国・日本研究科客員教授
1986年12月 東京大学社会科学研究所教授
1989年 3~ 8月 オックスフォード大学日産日本研究所客員教授
1994年10~12月 ミラノ大学政治学部客員教授
1999年 5~ 8月 ミュンヘン大学日本研究センター客員講師

2. 専門分野

比較現代社会大部門,社会運動分野,専門分野:日本経済史

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. 近代日本農民運動史に関する研究
  2. 近代日本地主制史に関する研究
  3. 戦前・戦後の農民経営に関する研究
  4. 日本の農地改革に関する研究
  5. 近現代日本の障害児教育と障害者福祉政策に関する研究

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『昭和恐慌下の農村社会運動』(編著)、お茶の水書房、1978年12月、875頁(東京大学社会科学研究所研究報告第27集)
  2. 「近代日本における障害児教育の特質」 東京大学社会科学研究所編『福祉国家6日本の社会と福祉』東京大学出版会、1985年7月、251-315頁
  3. 「『福祉見直し』と障害者福祉政策の動向」東京大学社会科学研究所編、『転換期の福祉国家』下巻、東京大学出版会、1988年6月、249-302頁
  4. 『近代日本の行政村』(大石嘉一郎と編著)、日本経済評論社、1991年2月、774頁(東京大学社会科学研究所研究報告第44集)
  5. 『西山光一日記』(久保安夫と編著)東京大学出版会、1991年7月、1378頁
  6. 『戦後改革期の農業問題』(編著)日本経済評論社、1994年2月、540頁(東京大学社会科学研究所研究報告第51集)
  7. “Labour and Farmers' Movements in Prewar Japan”Junji Banno(ed.),The Political Economy of Japanese Society, Vol.1,The State or the Market? Oxford University Press,1997,pp.237-276
  8. 『近代日本農民運動史研究』(単著)東京大学出版会、1997年3月、321頁(東京大学社会科学研究所研究叢書第88冊)
  9. 『西山光一戦後日記』(久保安夫と編著)東京大学出版会、1998年2月、1245頁
  10. 「戦後改革と農村民主主義」東京大学社会科学研究所編『20世紀システム5 国家の多様性と市場』東京大学出版会、1998年7月、80-114頁

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

研究所における私の専門分野は日本経済史であるが、主として(1)近現代日本農 業史に関する研究と、(2)近現代日本障害児教育史・障害者福祉政策に関する研究に取り組んできた。ここでは研究所プロジェクト研究・グループ共同研究・個別的基礎研究の相互の関連にも注意を払いつつ、主としてこの10数年間(教授昇任以後)の私の研究の特徴について記すことにしたい。

(1)の近現代日本農業史に関する研究の私の到達点は、主要業績(9)の著書である。本書で私が実証を基礎にこれまでの通説を批判したのは次の四点である。第一は、これまでの労農同盟論を軸とする戦前社会運動史研究が、労働運動と農民運動の同質性を強する傾向にあったが、実際は企業主義的傾向を強めて衰弱していく労働運動とは異なり、農民運動は、昭和恐慌以降も「左翼的」であり続け、小作争議も労働争議より活発であったこと、そしてこうした違いを生む基礎に労資関係と地主小作関係の根本的違い、つまり労働者と小作農民の生活形態の違いがあったことを主張した。第二は、農民経営の実態分析、全国各地で展開した小作争議の事例分析を通して、小作争議=農民運動展開の基礎には、小作・自小作中上層農民の自らの経営を充実させる動きがあったのであり、昭和恐慌期を含む戦前期の農民運動を通説が主張するような貪農的農民運動とすることはできないとした。第三は、日本の農地改革が自作農創設方式をとったことをその限界とする通説に対し、小作料の減額と耕作権の安定を求めた小作争議と戦時農地政策を歴史的前提として実施された農地改革により実現した自作農的土地所有は、農民的土地所有というにふさわしい内実を備えていることを主張した。第四は、敗戦直後の農民運動の爆発的高揚は、農民経営の充実を求める農民の広範な動きを基礎としており、また運動の急激な衰退は、経営の充実を求める条件が主体的にも客観的にも急速に失われていったことに求めるべきであることを実証的に示し、「農地改革を求めて農民運動は高揚し、改革の修了とともに運動は衰退する」という通説を批判した。

本書に対しては、すでに4本の書評(横関至『大原社会問題研究所雑誌』466号、1997年9月、岩本純明『経済学論集』第63巻第4号、1998年1月、大門正克『歴史学研究』714号、1998年9月、玉真之介『日本史研究』435号、1998年11月)があるが、私としては学界に対して一石を投じた仕事になったと考えている。また、ここで強調しておきたいことは、第一点と第二点は、個別的基礎研究のみならず、研究所プロジェクト研究に参加・執筆する中で得られた知見でもあり (「昭和恐慌期における農民運動の特質」東京大学社会科学研究所編『ファシズム期の国家と社会Ⅰ 昭和恐慌』東京大学出版会、1978年11月、319-366頁、「戦前日本における労働運動・農民運動の性質」東京大学社会科学研究所編『現代日本社会4 歴史的前提』東京大学出版会、1991年9月、263-313頁 )、第三点と第四点はグループ共同研究を組織する中でも確認できた点であったことである(98年度までの主要業績(1)(4)(6))。そして本書で得られた知見をベースとしつつ、農地改革への農民の具体的かかわり方、農民の政治意識の特徴にまで踏み込んで分析したのが、最新の研究所プロジェクト研究に参加し執筆した論文である。(98年度までの主要業績(10))

(2)の近現代日本障害児教育史・障害者福祉政策の研究(97年度までの主要業績 (2)(3)(4)は、「福祉国家」「転換期の福祉国家」という連続する研究所プロジェクト研究への参加なしにはありえなかった私の研究である。私の家族のうち娘が聴覚障害者であり、妻がリウマチを原因とする四肢障害をもっていたから、ろう学校などの障害児教育の現場、在宅介護の現場には或る程度通じていたが、障害児教育史や障害者福祉政策について研究するという予定も姿勢もなかった。しかし、このプロジェクト研究を推進していた当時の岡田与好教授や戸原四郎教授等と議論をすすめていく過程で、私がやるべき仕事の一つという位置付ができたのである。つまり、これらの研究分野では、現場のレポートか制度解説が圧倒的に多く、社会科学的手法で分析したものが極めて少ない状況であった。したがって私のこの分野での研究では、これまでの日本経済史研究の手法を持ちこみ、基礎的事実(データ)を構築することに重点を置いた。そしてその結果、障害児教育(学校)については盲聾教育の先行とその他の障害児教育の遅れという著しい跛行性をもつこと、そしてそのことは、「無用を転じて有用となす」という障害児教育観に規定されていたことをあきらかにした。また戦後の障害者福祉政策については、障害者の急増・高齢化・重度化が進行している中で、 在宅福祉の充実という方向は示されても障害者福祉予算はそれに見合った伸びを示していないことの問題点を指摘することができた。この分野の私の研究が研究所プロジェクト研究に寄与することになったことは当然であるが、障害者(児)問題関係の学界に一定の問題提起をすることになったと考えている。

以上のように、私の個別的基礎研究は、研究所プロジェクト研究との緊張関係なしには成立しえないものであったし、また長期にわたるグループ共同研究への研究所のサポートがあってはじめて推進することができたものであった。つまり、研究所プロジェクト研究やグループ共同研究に積極的に寄与することが、結果的に私の個別的基礎研究の充実にもつながったのである。

6. 今後の研究テーマ

  1. 高度経済成長期の農業問題に関する研究
    Agricultural Problems under the Rapid Economic Growth
    食糧自給率の低下、専業農家の急激などにみられるように今日の日本農業は解体の度を強めているといってよいが、こうした展開の直接の起点が1950年代後半から の高度経済成長期にあると考えられるので、この時期の農業問題を分析しつつある。
  2. 農地改革の比較史的研究
    Comparative Studies on Land Reforms, in case of Japan, Korea and Taiwan
    現在、国際共同研究としてすすめているもので、近い将来“Reexamining East Asian Land Reform: Class and Culture in Action”としてまとめる予定である。日本の農地改革の特質が比較史的にあきらかになることが期待できる。
  3. 20世紀日本の農村社会の研究
    Japan's Countryside in 20th Century
    Sandra Wilson, Ann Waswo, Kerry Smithなど研究所の客員教授として招いた研究者と行う共同研究で、研究所側からは私の他に加瀬和俊教授が参加する予定である。研究の焦点は、先進諸国の中でも最も激しい変化を示した日本農村の生活と文化の特徴をあきらかにすることにおかれる。
  4. 近代日本の就学構造に関する研究
    Various Aspects of Primary School Life in Modern Japan
    日本教育史を専門とする研究者の参加もえて行う共同研究で、基本史料としては文京区立林町小学校所蔵のものを使用する。促進学級(障害児学級)、夜間小学校も併設されているので、様々な社会的背景をもつ生徒が如何なる進路を選択するかを分析することにより、近代日本の都市社会における就学・就職構造とその変化をあきらかにしたい。
  5. 障害者問題の国際比較に関する研究
    Comparative Study on Policy Toward Disabled
    具体的には、日本の「身体障害者実態報告」とイギリスのOPCS survey of disability in Great Britain を使用し、障害者のおかれた実態について比較する。問題解明の糸口としては、何故人口が日本の半分であるイギリスにおいて、障害者は日本の3倍も統計上確認できるかに求めたい。

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院経済学研究科で「現代日本農業史」を担当。

8. 所属学会

土地制度史学会(理事),歴史学研究会,農業史研究会,日本農業法学会

東京大学 社会科学研究所

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