自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

大沢真理

1.経歴

1953年 4月4日生まれ
1976年3月 東京大学経済学部卒業
1981年3月 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
1981年4月~84年3月 東京大学社会科学研究所助手
1985年4月~88年9月 東京都立大学経済学部助教授
1987年6月 経済学博士号を取得(東京大学)
988年10~98年3月 東京大学社会科学研究所助教授
1992年10~93年2月 ドイツ・ベルリン自由大学客員教授
1994年10~11月 ドイツ・ボッフム大学マリー・ヤホダ国際女性学客員教授
1997年11月~98年1月 アジア工科大学院ジェンダーと開発専攻客員教員
1998年4月 東京大学社会科学研究所教授
1999年1~3月 アジア工科大学院ジェンダーと開発専攻客員教員

2. 専門分野

比較現代社会大部門,社会保障分野,専門分野:社会政策の比較ジェンダー分析

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. 日本の社会保障・福祉
  2. 現代社会とフェミニズム
  3. 現代イギリスの社会政策
  4. 社会政策・労働問題への比較ジェンダー・アプローチ
  5. 戦後イギリスの社会保障
  6. 日韓の社会政策の比較ジェンダー分析
  7. 日本の「パートタイム」労働と均等待遇原則
  8. アジアにおける開発と女性,ジェンダーと開発
  9. 諸外国の男女共同参画を推進する国内本部機構の組織と機能
  10. 諸外国の男女共同参画にかんする基本法制等の比較研究

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『イギリス社会政策史-救貧法と福祉国家-』東京大学出版会、1986年5月
  2. 『転換期の国家・資本・労働-両大戦間の比較史的研究-』(廣田功、奥田央と共編著)東京大学出版会、1988年2月
  3. 『フェミニズムって何だろう-あるゼミナールの記録-』(広渡清吾,平石直昭,小森田明夫と共編著)日本評論社、1990年6月
  4. 「現代日本社会と女性-労働・家族・地域-」,東京大学社会科学研究所編『現代日本社会 6 問題の諸相』東京大学出版会、1992年1月
  5. 『変容する男性社会-労働、ジェンダーの日独比較-』(原ひろ子と共編著)新曜社、1993年7月
  6. 『企業中心社会を超えて-現代日本を<ジェンダー>で読む-』時事通信社,1993年8月(山川菊栄賞受賞)、1995年に鄭鎭星,張和卿訳でハングル版を刊行
  7. 『ライブラリ相関社会科学2 ジェンダー』(原ひろ子、丸山真人,山本泰と共編著)新世社、1994年9月
  8. 『アジア・太平洋地域の女性政策と女性学』(原ひろ子,前田瑞枝と共編著)新曜社、1996年2月
  9. 『ライブラリ相関社会科学5 現代日本のパブリック・フィロソフィ』(山脇直司、大森彌、松原隆一郎と共編著)新世社、1998年10月
  10. 「社会保障政策-ジェンダー分析の試み-」、毛利健三編『現代イギリス社会政策史-1945-1990年』ミネルヴァ書房、1999年3月

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

研究所における私の所属は比較現代社会大部門の社会保障分野であり、専門は社会政策の比較ジェンダー分析である。大学院在学中より、国際比較を念頭においた社会政策の歴史的、実証的研究をイギリス、日本を対象としておこなってきた。1998年10月に社会科学研究所に移動してからの10年間は、グループ共同研究「近現代イギリスの経済・社会・国家」を拠点としつつイギリスの社会政策の研究を続けるとともに、グループ共同研究「フェミニズム研究会」を組織するなどして女性学・ジェンダー研究の蓄積にも学び、社会政策のジェンダー分析の方法を開発しつつ韓国、東南アジア諸国なども関心の対象を広げてきた。私がジェンダー研究に向かう契機となったのは、広渡清吾氏が責任者となり、私を含む研究所のメンバー4人が協力した89年度夏学期の東京大学全学一般教育ゼミナール「現代社会とフェミニズム-男女平等の社会科学的検討-」(その成果は主要業績 (3)),および86-92年の研究所プロジェクト研究「現代日本社会」の後半に参加したことである.とくに「現代日本社会」プロジェクトで、広渡氏が編集した第6巻「問題の諸相」に論文「現代日本社会と女性-労働・家族・地域-」(主要業績 (4))を執筆したことが,決定的に重要だった.以下、同論文を位置づけることから、この間の研究活動を述べたい。

(1)1980年代末には、会社(本位)主義や企業(中心)社会、企業主義など、ネーミングはさまざまでも共通する概念を使いながら、現代の日本社会のあり方を分析し、あるいはそこからの転換を説く議論が盛んだった。1991年から2年にかけて刊行された『現代日本社会』は、そうした論調を学術的なレベルで集約した一例といえる。この『現代日本社会』全7巻の構成は,日本の社会科学において「女性」が不在であり、「ジェンダー」が無視されてきたことを、象徴的に示している。もう一つ興味深いのは、「福祉」の微妙な位置づけである。『現代日本社会』第1巻の「序論」によれば、現代資本主義の「二本立」の特質は「成長」と「福祉」にある。高度成長期はもちろん石油危機後にも「とびぬけた」経済成長をとげてきた日本は、「成長」の面では現代資本主義の「典型」といえる。日本の成長経済の柱は「会社主義」にある、とされた。他方、日本の福祉国家は明らかにちいさく、「福祉」の面では日本は現代資本主義の「例外」である。このような日本の「典型性と例外性の統一的解明」こそが、現代日本社会論の課題である、という。

この研究プロジェクトをリードした仮説である「会社主義」は、女性を、というよりむしろ、職場といわず家庭といわず社会の構造をつらぬくジェンダーを、無視することによってなりたっていた。そこで私の論文は、従業上の地位別の就業者の構成比における男女差、男女賃金格差、性別の職域分離と企業規模別格差、性別と雇用形態による差などを、基礎的な統計資料を整理・加工して述べ、また家事労働の女性への集中を若干の調査のもとづいて指摘することをつうじて、雇用労働と家事労働をつらぬく性別分業こそが、会社主義-のちの用語では企業中心社会-の基盤であることを主張した。

この論文は、しかし、会社主義と「福祉」の「統一的解明」に論を進めることはできなかった。「序論」に内在しても、そこでは会社主義は「成長」のキー概念であって、他方で「福祉」は、成長によって「支えられる」ことはあっても、あくまで資本蓄積制約条件、つまり成長阻害要因とされる。福祉と会社主義との構造的なかかわりを問いにくい問題設定だったといえる。そこにジェンダーという座標軸を導入することはなおさらむずかしかっただろう。

(2)そこで、主として欧米での「ジェンダー」論の成果を消化吸収しながら、ジェンダーと日本の社会政策、および企業中心社会とのかかわりを問うことが、91年秋以降の課題になった。ジェンダー・センシティブな社会政策論について方法を練りあげでないままに、ともかくも現代日本の社会保障・福祉政策のジェンダー・バイアスと思われる特徴をつぎの論点にまとめた。

①戦後日本の社会保障・福祉システムには、「家族だのみ」・「大企業本位」・「男性 本位」というバイアスがある。②そのような社会政策システムが、戦後の20年ほどのあいだに構築されたことは、ジェンダーを基軸とする企業中心社会の形成の一環だった。③1980年代に社会政策の全分野にわたっておこなわれた「改革」は、「家族だのみ」・「大企業本位」・「男性本位」を維持強化することによって、企業中心社会の確立を助長した(くわしくは主要業績 (5),(6))。
以上のように社会政策のジェンダー・バイアスを整理するなかであらためて痛感したのは、一見女性ともジェンダーとも関係が薄いように思われる領域、たとえば企業規模別の種々の格差と対応する社会保険制度の分立などにも、ジェンダーが深く前提されていたり、ジェンダーによって異なる効果をもつということだった。

(3)そして、日本の社会政策をこのように特徴づけられるとしても、諸外国はどうか、比較の基準はなにかという問題が、つぎに起こってきた。私の分析は、幸いアメリカやドイツの日本研究者から好意的に迎えられ、英語、韓国語、ドイツ語、イタリア語などに翻訳もされたが、ほとんど同時に返ってくる質問は、日本の社会政策のジェンダー・バイアスは、他国よりも強いか否かというものだった。

そこで、社会政策について、ジェンダーを組みこんで比較分析することが、私の最近の研究課題となった。その際、福祉国家比較論にジェンダーを組みこむ課題を研究の先端におしあげようとする北欧の研究者たちの動きから、大きな刺激を受けた。この問題意識は、研究所でのグループ共同研究「近現代イギリスの経済・社会・国家」での作業にも強く反映された(成果は主要業績(10))。比較社会政策研究の展開からも学んだ社会政策のジェンダー分析の枠組と、中途半端だが日韓比較のこころみを、主要業績 (8) に発表した。この分析枠組は、アジア経済危機のジェンダー・インパ クトにかんする5か国調査をとりまとめる際にも適用された。途上国の開発政策も社会政策の一分野とみなして、開発政策の比較ジェンダー分析を進めることが、当面の研究課題である。

6. 今後の研究テーマ

  1. 21世紀の社会における市場,国家,第3セクターの役割
    The Roles of the Market, the State and the Third Sector in the 21th Century
    21世紀の前半にかけて、グローバル経済のもとでの競争の激化と少子・高齢 化などの課題をかかえる日本社会で、市場と国家の役割の代替や補完の関係、民間 非営利団体やボランティア・ワークの役割を、欧米諸国と対比しつつ検討する。
  2. 開発政策を含む社会政策について,東・東南アジア諸国の比較ジェンダー分析
    Comparative Gender Analysis of Social Policies including Development Programs inEast and Southeast Asian Countires
    アジア経済危機のジェンダー・インパクトにかんする調査研究プロジェクトの結果をふまえて、1980年代以降の東・東南アジア諸国の社会政策(開発政策を含む広い意味の)について、比較ジェンダー分析する。
  3. 戦後日本の開発政策
    Development Policies in Post-war Japan
    戦後日本の経済発展において地方公共団体を含む政府が果たした役割について、産業政策、地域開発政策等を含む広義の社会政策の特徴として検討する。

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院経済学研究科の経済史専攻において欧米経済史を担当している。
  2. 学部
    東京大学経済学部において社会保障(特殊講義)を1990年度から95年度まで隔年で担当している。

8. 所属学会

社会政策学会(幹事),社会事業史研究会

東京大学 社会科学研究所

〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1

東京大学社会科学研究所

Tel 03-5841-4904 Fax 03-5841-4905

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