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諮問委員会
国外委員からの意見の要旨
第 1 回会議までに、9 名の国外委員の方々から詳細な意見が文書で寄せられた。要旨は、以下のとおりである。
基本的プロフィール
*社会科学においては、研究対象である社会がダイナミックに進化するシステムであるがゆえに、学際的、国際比較アプローチが極めて重要である。この点で、社研のプロフィールは他に例を見ないものである。アカデミック・コミュニティーにおいては、安定した条件のもとでの専門分化が自然な傾向である。しかし、社会科学においては、ハイエクが「専門化のディレンマ」として描いたように、研究対象の本性からして、限度を超えた専門化は利益を逓減させる。社研はこのような「専門化のディレンマ」を回避している。
プロフィールが適切だとしても、そ れに内在するポテンシャルを利用するために、構造、プロセス、財政手段が適切であるかどうか、という問題は残る。構造について言えば、情報センターを spin off するというアイディアは、意味がある。センターはインフラを提供しており、インフラ機能は独立した組織的姿においてもっともよくはたされるからである。
*海外からの客員教授や大学院生を受入れ、ニューズレターやフォーラムをつうじて英語を話すアカデミック・コミュニティーに情報を提供することによって、社研が日本の社会科学への key window であり続けることを期待したい。
全所的プロジェクト研究
*全所的プロジェクト研究は、社研の価値ある文化の一部として継続されるべきである。しかし、そのための時間的・財政的負担が、外部から提案される大規模な共同研究プロジェクトに関与することを困難にしている。社研を国外の日本研究コミュニティーの目によりいっそう見えるものにするためには、完全なパートナー組織として国際的ネットワークと共同研究プロジェクトによりいっそう参加するか、そのためのハブの役割をはたすことがあってもよいのではないか。グローバル化が機関横断的な研究者の弾力的なグルーピングを容易にしていることを考えると、社研は内部的な全所的プロジェクト研究にあまりに大きな比重ないし優先度を与えているのではないか。全所的プロジェクト研究と外部的/国際的プロジェクトとのよりよいバランスが見出されないと、利点は将来弱点に転化してしまいかねない。
例えば、フランス CNRS との Associated International Laboratory は極めてユニークなものであるが、社研における認知度は充分ではなく、このことがその活動を拡張することが困難な理由のひとつかもしれない。
*全所的プロジェクト研究は、個々の研究者の能力を超えた複雑な研究課題に挑戦するためにリソースを束ねることを可能にし、外に向かって研究所の存在理由を示す、という少なくとも 2 つの利点がある。しかし、このような利点を生かすためには、単一のプロジェクトに集中することも、研究所の全研究者を参加させることも不可欠とは思われない。その場合、すべての研究者がそれぞれの関心を満たせるように、研究トピックは充分に広いものでなければならならず、その結果、プロジェクト全体は、同じプロジェクト・タイトルのもとで緩やかに関連しているにすぎないサブプロジェクトに分解してしまうだろう。したがって、内外の(国内・国外の)研究者をミックスした 2 つか 3 つのパラレルな、またはオーバーラップするプロジェクトを実施するほうがよいだろう。すべてのスタッフに少なくともひとつの研究プロジェクトに参加することを求めることも必要ではない。他の国際的、学際的プロジェクトに関与している場合には、opt out する可能性を認めてよい。共同研究プロジェクトの数と範囲について選択を広げる場合は、どのように選択が行なわれるかについての透明なルールが必要になるだろう。例えば、トピックの決定、資源の配分、研究者のリクルートのプロセスを、より formalize することが必要だろう。
*社研の規模と広がりを考えれば、「 失われた 10 年」プロジェクトのあと、2 つの同時並行的プロジェクトを実施していることは驚きではない。過去には、全所的プロジェクト研究は、すべての研究スタッフを何らかの程度でこれに関与させることが想定されていたと思われるが、スタッフの数が増えると、主要なプロジェクトの内部にさまざまなサブプロジェクトを配置することによってこれに対応してきた。しかし、スタッフの忙しさを考えると、すべての研究スタッフが 2 つの同時的プロジェクトに意味のある仕方で参加できるとは思われない。このことは、「 全所的」とは、今や、研究スタッフの全面的な参加ではなく、これら 2 つのプロジェクトに研究所が完全な支援を与えることに対する合意と、個々人は、それぞれの関心に応じて、必ずしも両方ではなく、いずれかのプロジェクトに参加するという約束を意味していることを示唆する。このことは完全に筋のとおったことであるが、「 全所的」の定義が明示的に変更されるべきである。
同時に、ふたつの同時並行的プロジェクトへの枝分かれは、研究所の知的生活にとっての全所的プロジェクト研究の統合的機能と、ふたつの別々のプロジェクトのあいだのcrossfertilizationという重要な問題を提起する。われわれは、すべてのプレセンテーションに参加し、すべてのレポートを読み、すべての新しい情報を理解することはできない。忙しいスタッフが別の異なるプロジェクトが何をしているかに注意を払うことができるとは思われない。魔法の解決法をもっているわけではないが、同僚間のインフォーマルな会話と結びつけられた 2 つのプロジェクトへのある程度のクロス参加によって、別々のプロジェクトが研究所を分けるのではなく一体化するようにするなど、プロジェクト間の相互作用を促進することを期待したい。
*これまで行なってきた全所的プロジェクト研究のテーマを俯瞰すると、戦後日本社会の知的関心の変遷が明らかに見て取れ、社研が社会科学のディシプリンに立脚しながらも、社会の知的関心に敏感に対応し、的確にテーマを設定してきたことが読み取れる。
*「地域主義比較」「失われた 10 年」「希望学」のような興味深いプロジェクトの成果が、国外にインパクトを与えることができるよう、もっと英語で出版されることを期待する。
データアーカイブおよび社会調査
*近年におけるもっとも印象的な達成は、データアーカイブというパイオニア的事業である。
パネル調査も、縦断的(longitudinal)調査が一般的ではない日本においては、パイオニア的なものである。縦 断的な調査は時間も金もかかるので、蒐 集されたデータが SSJデータアーカイブに入れられることは、国内外に大きなインパクトを与えるだろう。
*近年のもっとも大きな発展は、調査の実施、データアーカイブ、トレーニングなど、定量的社会科学における役割の向上である。日本版総合社会調査(JGSS)における社研の役割も重要であり、新しいパネル調査、アジアにおける共同調査も前進である。データアーカイブのデータは、abstracts で主な質問が英訳されているので、外国人が日本語データを利用するために助けが必要であるということは、それほど大きな障壁ではない。
が、ひとつの弱点は、データを入手するために大きな労力を払わなければならないことである。ICPSR その他の世界のサイトは、近年利用が容易になっており、社研のアーカイブとのギャップはかなり大きくなっている。このことは、より casual な利用を禁止的に制約するものであり、例えばウェブ上のアクセスを導入することが望まれる。
*外国の研究者にとって SSJ データアーカイブの利用手続が複雑なので、改善を望む。
国際交流
*個人、グループ、全所というすべての研究レベルで、社研は高度な国際化を達成している。それに加えて、外国の日本研究者に対するさまざまな援助プログラムや、スタッフ自身による刊行物や研究活動の国際的アウトリーチは、社研を社会科学的日本研究の真のハブとしてきた。
いっそうの国際化を実現するためには、第 1に,全所的プロジェクト研究を国際的な参加者に開放することが極めて望ましい。研究スタッフの国際化については、短期の客員プログラムに加えて、少なくとも任期つき(1〜3 年)の契約にもとづく外国研究者のリクルートが考慮されてよい。これは、卓越した外国研究者をより強力に共同研究プロジェクトに巻き込むための方法となるだろう。
第 2 に、社研は、広範囲な国際的ネットワークに内在する利点を完全には利用していないように見える。例えば、“affiliated” fellow または“honorary” fellow というステイタスを作ることによって、外部の研究者との協力が、より目に見えるものになりうるだろう。このような「無償の」fellow の研究活動やアウトプットは、より密接に社研の研究と関連づけられることになるであろう。
*アジア各国の代表的日本研究機関と交流ネットワークを作り、社研と共催で、持ち回りの形で、アジア各国の日本研究交流会を毎年開催してはどうか。
*中国の日本研究者は、大多数が日本語を用いて研究している。そのような中国の日本研究者とどのように交流を深めるかが今後の課題である。
*社研の国際的学術交流ネットワークに加わっている大学・研究所は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの3大陸をカバーしており、その多様性が印象的である。
Social Science Japan Journal(SSJJ)ほか
*日本の大学が英文の社会科学的日本研究ジャーナルを発行することは画期的なことである。
*多くの大学が、日本語で、非売品のためアクセスも困難な紀要を刊行しているが、SSJJのようにオンラインでアクセス可能な真の国際ジャーナルを作りだした大学ないし研究所はほとんどない。内容もきわめて有益である。Newsletter も非常に有益であり、他のニューズレターと比べて、出来事についての短い情報を提供する古典的なニューズレターとより深い論文を集めた雑誌とのあいだの程よい折衷となっている。
出版物についての唯一の弱点は、リサーチ・シリーズやディスカッション・ペーパーのオンライン・アクセスができないことである。それらのリストはウェブサイトに掲載されているが、PDF ファイルでダウンロードできるものはきわめて限られている。
*SSJJ は質が向上し、きわめて高いレベルを維持している。一般投稿論文、サーヴェイ論文、書評論文、書評という 4 部構成も、それぞれの機能をはたしており適切である。日本語の書籍の書評はとくに助けになるものであり、この線に沿ってサーヴェイ論文、書評論文についてももっと多くが期待できるだろう。年報に SSJJ についての統計データ(投稿数、配布状況など)を掲載するとよい。潜在的読者の便宜のために、無料の目次の掲載など、オンライン上のアクセス手段を改善したらどうか。
*SSJJ は、印刷される以前にオンラインでアクセスが可能になることによって、その価値が高まった。
SSJ Newsletter も、発行部数は少ないとはいえ、それ以上に多く読まれ、世界に研究状況について知らせ、最先端の研究者を紹介するうえで、非常に重要な機能をはたしている。
SSJ Forum は、社会科学的日本研究者のあいだのコミュニケーションにおいて同様に中心的役割をはたしている。焦点が狭すぎでも広すぎでもなく、他のオンライン・グループにはないものを持っている。
*SSJJ と Newsletter の発行頻度の増加と内容の改善を希望する。
Research fellow ほか
*研究のために日本に来る大学院生と学者のために a home away from home を提供するという社研の長年にわたる政策の結果、社研に所属したことのある研究者の長いリストは、International Who’s Who of Japanese Studies in the Social Scienceのような観を呈している。普通でないトピックに対して開かれた態度と、援助と自由との結合に感謝する。国際的な社会科学的日本研究のハブとしての社研の役割のコアとなる要素があるとすれば、それはまさにここにある。
機関および個人の双方との国際的ネットワークを築こうとする最近の努力も、賞賛に値する。社研の研究者が外国の日本研究者というより当該国の専門家との結びつきを必要としているというのはまったくもっともなことであり、双方のタイプの関係に対して可能性が与えられるべきである。
日本研究の国際化にともなって、社研をつうじて人々を結びつけているつながりもグローバルになっている。このことは、社研にとっては目に見えないかもしれないが、国外の学者を社研に集める短いコンファレンスやシンポジウムですら、これらの学者のあいだの関係を作り出すという結果をもたらす。
*社研は日本研究に従事する多くの学者と大学院生のための a home away from homeであるが、より多くの外国の研究者にとっての home となることができるだろう。フルタイムのスタッフとして、1〜2 年間、研究所のプロジェクトにおいて重要な役割をはたす長期のアソシエイトとして、海外の大学における共同研究や学生のトレーニングに参加する社研スタッフにとっての reverse home として。
疑いなく困難なことではあるが、研究者養成における社研の役割を拡張することは、次世代の研究者が社研の高度な質をもったスタッフから利益をえることを可能にするだろう。例えば、他の大学との joint degree によって、他の部局に所属する学生としてではなく、社研の学生として次世代を訓練することは、社研の新しい stakeholder と支持者を生み出すことになるだろう。
*外国人客員教授制度は招聘ベースで運営されているが、世界の日本研究者にこの制度を広く知らせ、さまざまな内部的プロジェクトを国外の応募者のプロジェクトと結びつける手段が見出されるならば、世界の日本研究の発展に貢献するもうひとつの重要な道を見つけることになるだろう。
*外国人客員教授として提供された研究室はすばらしかったが、住居は満足のゆくものではなかった。外国の学者にとって、短期滞在の住居を見つけるのはしばしば困難な問題であるので、改善を希望したい。
*東京大学全体の問題ではあるが、女性および外国人の教授・准教授の数がまだきわめて少ない。この点での改善を期待したい。