東京大学社会科学研究所

東京大学

MENU

案内

自己点検・自己評価報告書

Ⅱ. 社会科学研究所の組織と活動
組織と運営

1)研究スタッフ

(1)部門構成

 社会科学研究所の研究部門は、1985年度以降、従来の17小部門(及び客員1部門)から4大部門に改組された。比較現代法(6研究分野及び1客員分野)、比較現代政治(5研究分野)、比較現代経済(6研究分野)及び比較現代社会(4研究分野)の4大部門であり、比較現代経済大部門が実験講座部門として認められた。

 各部門にはそれぞれ研究分野がはり付けられているが、スタッフ人事は、大部門制の趣旨に則り、社会科学研究分野の重点の変化及び研究所の研究課題の設定に対応して、後述するように後任人事(自動的に同一の専門分野の者を採用すること)を排して、柔軟に選考専門分野の設定を行なう方式を採ってきている。そこで大部門制導入以降の人事運用の特徴的な方向をあげれば、第一に、日本研究者と外国研究者のバランスにおいて、相対的に日本研究者に比重を置いてきたこと、第二に、従来カバーしていなかった新たな研究分野として、アジア地域研究(中国研究は従来からカバーしている)及び国際法・EU法分野の研究を取り込んだこと、そして第三に法学・政治学・経済学に加えて、社会学の専門研究者を採用し、研究所の社会科学研究の幅を広げたこと、である。比較現代法には比較法客員分野(教授・助教授)がおかれているが、客員の委嘱先を比較法専門家に限定せず、これも柔軟に運用している。

 研究所の研究活動において固有の日本社会研究の相対的比重が高まってきており、スタッフの補充に際してもこのことを上記のように考慮してきているが、社会科学研究所は社会科学の比較総合研究を固有の課題とするものであるから、固有の外国研究者と日本研究者のバランス(ただし数的に同じである必要はない)を欠くことがないように人事運用に際しては留意している。

 1996年度から設置された日本社会研究情報センターは、教授2、助教授2で構成され、ネットワーク型組織及び調査情報解析の二つの研究分野が置かれている。センターの人事は、上記と異なり、センターの設立趣旨に応じて特定の研究分野の専門家を確保する必要性があるので、いわゆる後任人事を行うこととしている。また、センター助教授については、センターの事業の運営にあたる必要があるので、研究能力と合わせて事業に対応する業務能力を要件とする人事選考を行っている。

 1992年度から外国人客員教授が1ポスト認められ、さらに、1996年度の日本社会研究情報センターの設置に際しては1ポスト増が認められて、振り替え分とあわせて2ポストがセンターに付けられた。後述のような方針にしたがって、これを運用している。

 研究所はまた、非常勤講師のポストを活用しており、毎年10名程度に委嘱している。原則として全所的プロジェクト研究への参加を求め、また、必要に応じてグループ共同研究に配置することとしている。さらに、法学政治学研究科・法学部及び経済学研究科・経済学部には、「研究委嘱」の形式で毎年2名に委嘱し、社会科学研究所の研究活動への協力と部局間のリエゾン役を依頼している。

(2)採用人事と業績審査
  • 新規採用の人事選考の方法

     大部門制への移行は、人事選考の方法にも大きな影響を与えた。大部門移行の過程において小部門が新規採用人事の際に専門分野を固定させ、その結果として研究所が最も必要とする研究分野や有意な人材をリクルートする上での障害になるという認識が共有されるに至った。1990年度の研究組織委員会(教授会の常置委員会)の設置に際して、人事選考の方式を抜本的に改めることが合意され、それまでの法、経各教授懇談会が事実上の小部門を前提として人事選考分野の発議をするという方式を改め、研究組織委員会が研究所の研究活動全体を見渡して最適な人事選考分野を提案する(発議は教授懇談会を経て所長が行う)という方式が採用された。また、人事選考に可能な限り柔軟性を付与するという観点から、欠員ポストが生じたときにその都度人事選考委員会を起こすのではなく、5年間程度の人員異動状況を見通して総合的に選考分野を検討するという「中期人事計画」の方式が採用された。現在、「第3次中期人事計画」(1996年度-2000年度)の計画期間中である。

     採用人事に関する新方式では、いわゆる「後任人事」の考え方をとらないことが原則として了解され、この原則を前提として、①全所的なプロジェクト研究を視野に入れた新分野を開拓すること、②人材本位の分野設定を積極的に進めること、③あわせて基幹的分野の確保に配慮すること、の3点が研究組織委員会が人事選考分野の検討をする際の基準として了解されている。新方式による人事採用が進められた結果、アジア経済、アジア政治、国際法、EU法など新しい研究分野のスタッフが採用され、また学際的な研究を推進するという観点から法科系、経済系のいずれにも属さない「第3系」分野(社会学など)の研究者の採用も行われた。さらに、日本社会研究情報センターに情報学などの専門研究者を採用することによって(Ⅱ-5参照)、センターを含む研究所の研究スタッフの研究分野は一層学際性を強めることになった。

     以上のような現行の新規採用の人事選考手続きは、研究組織委員会における研究分野選定のためのサーベイや検討に相当の時間と労力のコストを要求するが、それに増して研究所が必要とする新しい研究分野の開拓、優秀な人材の獲得、及び学際性の強化という面で所期の成果をもたらしている。

  • 教授の任用

     従来からの検討を踏まえて、教授の任用について1999年4月に新制度を決定した。それによれば、研究所の助教授には教授任用のための業績審査を受ける権利があるが、業績審査のために特定の業績を指定しなければならず、また、選考は当該助教授の専門分野における外部の他の研究者との比較を基準として行われる。さらに、教授選考委員会は審査に際して外部の研究者の評価を求めることができるとされている。

  • 教授任用後の業績評価

     教授認容後のスタッフの業績評価についても、1999年4月に新制度を決定した。それによれば教授任用後10年を経過した者は研究活動報告書を作成し、業績目録を添付してこれを外部の研究者の評価に委ねるというものである。研究活動報告書と業績目録は教授会に提出され、また年報に掲載し、公表される。本年度からこの制度は実施され(本年度は教授就任後7年を経過した者7名を対象としている)、現在その作業が進められている。

  • 人事選考結果の公表

     人事の透明性を確保するという観点から、昨年度から新規採用人事、教授任用人事にかかわる選考委員会報告書を、形式を改めて紀要『社会科学研究』に掲載し、加えて今年度からホーム・ページに簡略化した紹介文を公表している。さらに選考報告書そのものをホームページで公表することも検討中である。

(3)研究支援スタッフ

 研究支援スタッフには、助手並びに非常勤職員として研究所に配置される研究機関研究員、研究支援推進員及びリサーチ・アシスタントがいる。これにさらに校費によって雇用する日々雇用ないし時間雇用の非常勤職員が加わる。研究所の研究活動がより組織的に行われ、また、日本社会研究情報センターの研究関連事業が展開するにつれて、研究関連業務をサポートするスタッフに対する要求が、量的にも、かつ、質的にも大きくなってきている。

 研究関連業務として重要なのは、まず①全所的プロジェクト研究のマネージメント及び②英文翻訳・英文雑誌編集であり、これらのために、すでに早くから、それぞれについて業務に専念する助手(業務助手)を任期を付さずに採用している。また、日本社会研究情報センターの業務として、③研究所のコンピューターシステムの管理、④ニューズ・レター"Social Science Japan"編集・発行、、⑥オンライン・フォーラム"SSJ-Forum"のマネージメントなどがあり、これらの業務を担当させるために、2年ないし3年の任期を付して若手研究者(ただしその研究分野は必ずしも社会科学研究所の研究分野とは関係しない)を採用している(センター助手)。センター助手は現在二人であるが、業務の内容に応じて外国人スタッフを採用している。

 研究関連業務のなかで特に指摘しておくべきは、⑤英文雑誌"Social Science Japan Journal"の編集業務である。同雑誌の水準を維持するためには、日本社会の社会科学的研究についての研究者的能力及び雑誌編集者としての相当に高い能力を有する者をマネージング・エディターとして配置する必要のあることが認識されてきた。1998年4月から助教授待遇でアメリカ人研究者をマネージング・エディターとして採用した。今後はセンター助教授に準じるステイタスをもってマネージング・エディターを確保することを決定している。

 非常勤職員について、まず、研究機関研究員は1999年度には3名が配置された(前年度2名)。それぞれ、システム管理業務、国際交流関連業務・SSJ-Forum関連業務、及び全所的プロジェクト研究関連業務を担当している。研究支援推進員は4名が配置され(前年度3名)、英文雑誌編集、英文翻訳・ネットワーク管理、データ・アーカイブ関連業務補助、調査情報の整理などの業務をそれぞれ担当している。リサーチ・アシスタントは6名配置され(前年度7名)、センターの業務及び研究プロジェクト関連業務を担当するほか、いくつかのグループ共同研究の研究関連業務に従事している。

 校費で雇用する非常勤職員は6名である。多くは研究所およびセンターの恒常的な研究関連業務に従事しており、センター研究業務補助2名、英文雑誌編集業務補助1名、図書遡及入力業務1名、フォーラム翻訳作業補助1名、外部評価実施委員会データベース作成業務1名である。

 以上のように多様な雇用形態の研究支援スタッフが存在し、研究関連業務のサポート体制を形成している。これらの体制についてその円滑な運営を管理することが研究所にとって重要な課題となっている。また、短期間の雇用という条件の下で業務に相応した適格性のあるスタッフを確保することも重要で難しい課題である。今後、引き続き適切で効果的な業務支援の体制を構築し、研究スタッフの業務負担を軽減させることが、研究所とセンターの活動を発展させる重要な基盤である。

(4)助手制度

 社会科学研究所の助手制度(研究所手制度)は、若手研究者に一定の研究期間を保証し、できるだけ水準の高い論文を作成させ(助手論文)、もって日本の社会科学研究(法律学・政治学・経済学)の分野に優秀な後継者を提供することを目的として、運用されてきた。研究所の助手を研究所のスタッフ(助教授)として採用することは、制度上排除されていないので、その限りでは、この助手制度は社会科学研究所の後継者養成の機能も担ってきたということができる。現在のスタッフ31名のうち社会科学研究所助手の経験者者は約4分の1である。このうち助手から直接にスタッフに採用された者は1名のみである。これまでの研究所助手経験者総数のうち社会科学研究所のスタッフとなった割合は、別添資料の示すとおりである。

 助手の採用は、法科系と経済系とでそれぞれ各別に募集し(ポスト数は同数である)、選考し、面接を行い、採用候補者の最終的決定を行って教授会に提案し(そのために法科教授懇談会及び経済系教授懇談会が制度として機能している)、教授会の審理・決定を経て行われる。経済系の助手は、応募資格を博士課程修了者(またはそれと同等の学力を有する者)に限定し、採用後の任期も3年までである。法科系の助手は、修士課程修了以上を応募要件とし、任期は学歴に応じて、修士課程修了者(博士課程中退を含む)は4年、博士課程修了者は経済系と同じで3年である(以上の任期には、公式の任期に就職猶予期間1年を加えた年数である)。

 研究助手は、助手論文の執筆・作成をもっとも重要な職務としているので、研究所の全所的研究プロジェクトへの参加も全くの任意であり、また、研究関連業務の分担も最小限に留められている。研究室の利用(個室)、図書の利用、その他研究所のファシリティーズの利用はスタッフと全く平等である。また、紀要「社会科学研究」については助手論文の発表のためのスペースが優先的に確保されるというメリットも与えられている。管理運営については、1998年度までは教授・助教授及び助手によって構成される「所員会」が運営されており、これに参加していた。1999年度からは、所員会の廃止にともない新たに「月例助手連絡会議」が設置され、このメンバーとなっている(管理運営については別項参照)。また、研究所の常置委員会のうち、図書委員会、紀要編集委員会及び日本社会研究情報センター運営委員会には、研究助手は委員として参加している。

 以上のような研究所手制度は、若手研究者にメリットの大きな制度であり、これまで優秀な研究者を養成し、日本の社会科学研究の発展に貢献するところが少なくなかったということができるであろう。しかしながら、社会科学研究所がその使命と課題を充分に達成していくためには、研究所のもてるリソースを全面的に活用して、研究所全体として体制を構築しながら前進しなければならないという状況を迎えており、従来の研究助手制度も研究所の全所的プロジェクト研究との関連、多様な研究関連業務への参加のあり方などを論点として、従来のあり方を検討する段階に来ていると考えられる。このために、研究所の教授会は、1999年7月に助手制度改善検討委員会を設置したところであり、年内に改善提案をまとめることが期待されている。

2)事務機構

(1)現在の事務定員と事務部の構成

 研究所の事務部の構成と定員の配置は、図#のようである。事務部の総定員は、1989年には26名であったが、1990年、93年、96年、99年の定員削減措置(各年度1人)の実施により、99年4月1日には22人となった。そのうち図書室職員に9人を振り向けているのは、図書等情報資源の蓄積・拡充と利用提供サ-ビスの機能強化を重視する研究所の方針(「3)予算」「4)図書」参照)を反映したものである。

 総務主任の下にある一般事務部の構成については、1998年度に重要な改革を実施している。それまでは調査統計掛(1953年10月1日設置。定員2人)と業務掛(1963年10月1日設置。定員3人)の2掛が置かれていたが、1998年4月1日をもって前者を研究協力掛に、また後者を企画交流掛に名称変更し、事務分掌の整理・見直しを行った。研究所の研究活動の国際化、情報化の進展に伴い、新たな質と広がりをもった研究支援事務が急速に拡大してきたことを踏まえて、それに対応できる事務体制を整備することがこの事務機構改革の目的であった。その際、庶務掛と会計掛の事務分掌もあわせて見直しを行っている。

 新設の企画交流掛は、1)国際研究集会等学術交流関係、2)各種研究助成金・奨励金の申請関係、3)受託研究および民間等との共同研究の受入れ関係、4)国際交流協定関係、5)各種出版物の編集・作成・刊行・配布関係、6)マイクロ等による研究資料の複写関係などにかかる事務を所掌する。他方、研究協力掛は、1)科学研究費補助金関係(会計掛の所掌するものを除く)、2)各種研究員の受入れ関係、3)海外渡航関係、4)共同研究会関係、5)日本社会研究情報センタ-の運営関係にかかる事務を所掌する(研究所事務分掌規定4条、5条)。多様な研究支援事務を掌るこれら2掛の新設は、本研究所の研究体制の発展の事務機構への投影であると同時に、これからの附置研究所の事務機構のあり方に一つの先鞭をつけたものと言える(次の"統合事務部への移行"を参照)
 なお、下図に表示した人員外で庶務掛に非常勤職員1人を置き、所長秘書の職務を担当させている。

社会科学研究所事務部機構図(1999.4.1現在)
事務長(1) 総務主任(1) 庶務掛(3)
会計掛(3)
企画交流掛(3 ※併人 1)
研究協力掛(2)
図書主任(1) 図書掛(4)
資料雑誌掛(4)
   

合計 22人

統合事務部への移行

 1999年度には、全学的に検討されてきた事務部統合計画の一環として、本研究所を含む文系4研究所(他は、東洋文化研究所、史料編纂所、社会情報研究所)の事務部を統合することが合意され、本研究所が担当部局となってその実現に向けた概算要求書を提出した。これが認められれば、2000年4月からの事務機構は、まさに一新される。

 概算要求書で提示している構想では、統合事務部は、事務部長の下に総務課、経理課、研究調整課の3課を置く構成になる。その大きな特徴の一つは「研究調整課」の創設要求であるが、これは、研究所には学部の場合とは異なる固有の事務機能として多様な研究支援事務が大量に存在しており、その事務機能の拡充・強化がいま強く要請されていることを正面から打ち出したものである。統合事務部と本研究所の研究体制との接合関係の詳細については、なお詰めを要する点も残されているが、この改革により一般事務の合理化と研究支援事務の充実・強化とが同時的に実現されることが、今後に期待されている。
 なお、図書資料関係の掛は総務課の下に配置されるが、その関係業務の統合のあり方については、現在検討作業が進められているところである。

3)予算

(1)校費

 過去10年の予算額(校費)は、別掲の表2のように推移してきた。1997年度の校費総額が飛び抜けて多いのは、日本社会研究情報センタ-の新設に伴う特別施設整備費が交付されたことによる。また、1996年度以降の校費には、同センタ-関連の付属施設経費が加わっており、それが校費総額を引き上げている。他方、これらセンタ-関係の経費を除いた校費の配当予算額は、この数年来むしろ減少傾向をたどっている。

 予算の編成と執行に当たっては、研究活動関連経費と管理的経費とを大別したうえ、前者については各種の研究活動を所轄する委員会単位で配分し、管理・執行するという体制を採用している。研究費を部門、分野あるいは教官単位で配分する方法をとらないのは、本研究所が全所的またはグル-プでの共同研究の推進を基幹的な課題とし、各スタッフの専門分野基礎研究の実施のためには、全所員に共通する基盤的資源・ファシリティを研究所として整備・提供するにとどめるという方針を確立してきたことに基づくものである。

 研究活動関連経費の支出につき主要な特徴点を挙示すれば、以下のとおりである。

 最大の支出費目は、図書委員会の管轄する図書費であり、1996年度までは、校費総額の40%前後を占めた。これは、戦後に新設・附置された研究所として、設立趣旨に即した図書等情報資源の蓄積・拡充のために格段の努力を払おうとした本研究所の伝統に由来する。ただし、国際化や情報化に対応した新しい研究活動の拡大・強化に伴い、近年の図書費の比重は30%前後に低下している。専門分野基礎研究の便宜を図るため、図書費中の一定部分を各研究者が選択した図書等の購入に充当する仕組みも用意されているが、購入された図書等は、やはり共通の研究資源の一部として図書室で管理される。

 2番目の大きな支出費目は、研究情報の発信活動にかかわるものである。従来は、紀要編集委員会(旧出版委員会)の管轄する紀要『社会科学研究』とAnnals of Social Scienceの編集・発行経費がその中心であったが、現在ではそれに加えて、Social Science of Japan Journalの編集・発行経費(SSJJ編集委員会の管轄)、日本社会研究情報センタ-の情報発信活動経費が支出されている。仮に、センタ-のプロジェクト関係経費の全体を含めてその関係経費の総額をとれば、この関係の支出費目の比重は、1998年度の校費総額の20%弱に達する。

 もちろん、センタ-運営委員会が管轄するその運営予算は、他にもさまざまな諸活動(「5)日本社会研究情報センタ-」参照)にかかる経費を含んでおり、その総経費額は、センタ-の業務活動の拡充に連れて年々増大せざるをえない趨勢にある。その活動を十分ならしめるための経費額をすべて校費で賄うことは不可能である以上、必要な諸経費(調査研究の実施等をも含む)をいかに確保していくかが今後の重要課題の一つとなる。

 最後に、全所的プロジェクト研究の実施のための経費も、本研究所の重要な特徴である。校費の予算額には種々の制約があるなかでも、従来からそのために毎年400~600万円前後の経費が支弁されてきた。この経費額は、プロジェクト研究運営委員会が管轄する、いわば最小限かつ共通の研究推進業務費であり、実際には図書費等の一定の部分も、必要に応じて全体研究の実施のために充当されている。しかし、1999年度から着手された新しい全所的プロジェクト研究(「外に向かって開かれた複数のプロジェクトが、共通の課題ないし視角のもとに結合した、いわば「連邦型」ないし「重層展開型」のプロジェクト研究)の効果的な推進のためには、従来のような校費に依存した経費支出だけでは明らかに限界があり、研究費調達のための新しい創意工夫が求められている。

(2)リ-ダ-シップ経費

 1997年度から措置されるようになったリ-ダ-シップ支援経費については、その制度の趣旨を活かすべく、一般の校費予算とは明確に切り離して所長の管轄下に置き、研究所の重点的な諸活動の支援と活性化のために、所長の判断によって柔軟かつ機動的に活用できるようにしている。1998年度からは従来の一般設備費もリーダーシップ支援経費として要求することができるようになったので、この支援経費の柱は、諸謝金、旅費、研究プロジェクト推進費及び研究基盤設備費の4つである。支援経費の用途についての基本的な考え方としては、国際シンポジウム等の企画・開催、全所的プロジェクト研究推進及びグループ共同研究援助、さらにまた、図書等情報資源の購入または研究所の情報システムの整備などを目的とするものとしている。国際的共同研究を推進するためには、支援経費によって外国人研究者の招聘旅費・滞在費及び外国派遣旅費・滞在費などを確保することが望ましいが、これにあてうる額が国内旅費に比して極めて圧縮されていて、研究所におけるリーダーシップの発揮という点からみると適合的でないので、増額が要請されるところである。

 なお、予算の柔軟かつ機動的な執行体制の確保という点に関しては、1998年度から一般校費の予算中でも、あらかじめ使途を特定しない「所長留置」の経費枠を設けることとしている。

(3)文部省科学研究費助成金等の申請・採択・受入れ状況

 すでに述べたように、個々のスタッフの専門分野基礎研究はもとよりグル-プ共同研究の実施・推進についても、特別に必要となる追加的な研究費の調達・確保は、原則として各人の努力と創意工夫に委ねられている。その最も基本的な方法となっているのは文部省科学研究費補助金であり、過去10年間のその申請と採択状況は、別掲の資料3のようであった。

 他の研究所等と比較しての申請件数の多寡の評価は簡単にはなしがたいが、1)採択率が相当に高いこと(10年間の単純な件数合計の比率では、約70%)、2)グル-プ共同研究の推進を基礎づける重点領域研究や総合研究型(現在の基盤研究AまたはB)の研究費の申請・採択がほぼ毎年のようになされていることは、一つの特徴と言えよう。ただし、3)年平均でみた場合の科研費の獲得額は、なおけっして大きなものとは言えず、今後の研究活動の多面的な拡大・充実のためには、科学研究費補助金の申請につきよりアクティブな対応を進めることが期待される。

 個々の研究者に対する民間の財団等からの研究助成金は、教授会の承認を経て、奨学寄付金(委任経理金)として受け入れている。その受入れ件数と金額は、別掲の資料4の通りである。なお、受託研究費の受入れはごく限られたものにとどまってる(資料3)。

4)図書

 社会科学研究所では、毎年6~7千冊の図書を購入している。蔵書は、現在約28万冊(雑誌資料類を含む)であり、大部分が法律、政治、経済、労働、社会など社会科学関係のものである。連合国を研究しつつ日本の民主化を推進するという研究所の設立趣旨から「比較総合」という方法への関心が強く、欧米、中国、旧社会主義諸国、および日本の近現代史に関わる文献が集められている。

 洋書では旧社会主義諸国の文献が比較的揃っており、近現代中国関係の書物も少なくない(東洋文化研究所に近代以前の文献が多いのと補完関係にある)。日本関係では、労働問題・特高関係の諸資料や、産業、法制、政治関係の文献、地方史(県史、市町村史など)、個人全集、伝記類も多い。マイクロ資料が多いことも特色である。

 また個人等から寄贈された文庫がある。糸井文庫は、戦前日本の職業紹介事業関係の原資料類を主とし、島田文庫は、海軍軍令部に集められた戦前の日中関係原資料類を主としている。ドイツ労働総同盟図書館の旧蔵文書は、1970年代までのドイツ、欧州の政治、経済、労働関係の文献約7千点からなる。またアジアの比較近代化研究資料として、インド、パキスタン、セイロンなどの独立前後の時期の立法関係文献のバックナンバーもある。

 図書委員会が毎月一回開催され、図書室関連の諸問題の処理に当たっている。集書の方針は、(1)各所員に図書予算の一定額が割り当てられ、各自が専門領域や研究テーマ等に応じて発注する、(2)図書委員会が年3回、全所的な観点から分野横断的な重要性をもつ基本図書を選書する、(3)高額の資料類や全集等は別に費目を立て、所員の要求を図書委員会が審議して可否を決する、などの方法を組み合わせている。また約950種の和洋雑誌を継続購入しており、年2回、新規購入のための選定委員会が開かれる。

 サービス面では、他部局よりも遡及入力が進んでおり、そのため情報検索が簡便になって、他部局からの利用者が急増している(昨年度の閲覧冊数は約7千冊で、3年前と比べて2千冊以上増え、閲覧人数は1800人強で同じく400人以上増えている)。法・経・教養・文などからの利用者が多い。これらの需要に対応するために9名の職員が努力している。

 図書室が抱える最大の問題は書庫スペースの狭隘化であり、過去10年位、数年に一度の割で地下部分を集密書庫化することでしのいできた。またマイクロ資料室を改装して収容能力を高めたり、一部資料を総合図書館に移管したり、購入雑誌の点数を削ったりという努力を重ねている。しかしもはや限界であり、全学的な保存図書館の設置のためにイニシアチブをとる活動を始めている。

5)管理運営

(1)教授会・所長・協議員会・月例助手連絡会議

 研究所の管理運営の中心機関は教授会である。教授会は教授・助教授によって構成され、所長を選定し、スタッフ人事、助手人事及びその他の研究職に関わる人事を決定し、予算を含めて研究所の管理運営に関する重要事項を管轄し、また、研究所の全所的プロジェクト研究の企画を確定する。

 所長は2年を任期として研究所教授の中から教授会によって選定され、2年1期を限って再任または重任が認められている。所長は教授会を主宰し、人事案件の提案を行い、委員会体制と委員の配置を決定し、また管理運営業務を統括する。

 所長の研究所運営を円滑ならしめるために、教授会によって3名の「協議員」が選任される。協議員の任期は2年であり、法科系及び経済系のそれぞれから少なくとも1名を選任しなければならない。協議員によって構成される協議員会は、所長の諮問機関として所長とともに研究所の運営にとっての重要な事項を協議し、所長による研究所運営をサポートしている。また、所長が教授会に対してスタッフの人事提案及び教授会内規改正提案を行なう場合には協議員会の議を経ることとされている。

 1998年度までは、教授会とならんで「所員会」が設置されていた。所員会は、教授会メンバーである教授・助教授に加えて助手を正式のメンバーとする、研究所の研究職員の会議体であり、予算及び研究関連事項について審議する場所であった。ただし、所員会については教授会と異なり成文の規則が存在せず、長年の慣行によって運営されてきた。所員会の存廃について1997年度から検討を行い、1998年11月の教授会において研究所の管理運営を効率化するために教授会と所員会の二元的体制を廃止する方向が了承され、1999年1月に所員会の廃止が決定された。同時に教授会の決定及び研究所運営(また大学の運営)に関わる重要な情報を伝達するための機関として、助手を構成員とし、所長が主宰する「月例助手連絡会議」を新たに設置することが決定された(同会議には非常勤の研究機関研究員がオブザーバーとして参加する)。1999年度から新しいこの体制が発足した。

(2)委員会体制

 教授会のもとに若干数の常置委員会及び専門委員会が置かれる。各委員会の委員は所長の指名による。任期は1年であり、原則として毎年4月に所長の決定した当該年度の委員会体制及び各委員会の構成が教授会において確認される。

 現在の委員会体制は、常置委員会として、予算案の審議と策定・予算の管理にあたる「予算委員会」、人事計画の策定と研究関連事項を管轄する「研究組織委員会」、図書・資料の購入など図書部の運営を管轄する「図書委員会」、日本社会研究情報センターの運営をつかさどる「センター運営委員会」及びホームページの運営・研究所の年報や要覧の編集・作成にあたる「広報委員会」の5委員会、、専門委員会として紀要「社会科学研究」の編集を担当する「紀要編集委員会」及び英文雑誌"Social Science Japan Journal"を編集する「SSJJ編集委員会」の2委員会である。二つの雑誌の編集委員会は、いずれも研究所外の研究者をもメンバーにして構成されている。

 全所的プロジェクト研究の運営については、独自の委員会を設置することがこれまでのやり方であり、「20世紀システム」プロジェクトまでは「全体研究運営委員会」を設置してきた。次期の全所的プロジェクト研究については、現在、プロジェクト企画の立案とそのための研究討議の組織を目的として「プロジェクト企画委員会」(全所的プロジェクト研究企画委員会)を設置し、同委員会が提案する企画案が教授会で確定すれば「プロジェクト運営委員会」に改組するこことしている。

 上記の委員会には、スタッフ人事を審議する研究組織委員会を除いて、助手及び事務職員が必要に応じて委員として参加している。

 その他、特別の臨時的な課題を処理するために、教授会の承認のもとに、特別委員会が置かれることも少なくない。本外部評価の実施を準備する外部評価実施委員会または助手制度の改善を検討する助手制度改善検討委員会などがそれである。

(3)事務機構内の会議

 教授会の決定及び研究所(及び大学)の運営に関する重要な情報を伝達し、事務機構の円滑な運営を図るために、事務長が主宰する掛長会議が定期的に行なわれ、また、それをうけて掛ミーティングがもたれている。

6)自己点検と広報活動

(1)社会科学研究所年報

 社会科学研究所では、1964年以来、毎年『研究実績並びに計画』を刊行し、共同研究と所員個人の研究についての情報を広めることによって、所内外の研究者間の交流に役立ててきた。

 91年には、これを『東京大学社会科学研究所年報 実績と計画』に改めるとともに、研究所と所員の自己点検の素材としての位置づけを明確にし、学内外の機関に配布することによって、外部からの評価・アドヴァイスを受けることを期待してきた。

 97年には、以上のような趣旨をよりよく生かすために、内容を拡充するとともに装丁を改めた(併せて表題から「実績と計画」を削除し、『東京大学社会科学研究所年報』とした)。

 99年度版の『年報』第36号の構成は、以下のとおりである。

   はしがき
  Ⅰ 社会科学研究所の概要
   1.研究所の目的と役割
    1)理念と沿革
    2)1998年度の動向
    3)将来構想
   2.部門編成と所員一覧
   3.管理運営機構
    1)機構図
    2)委員会等配置
    3)事務職員一覧
   4.図書室
    1)所蔵図書
    2)主要な新規購入資料
    3)利用状況
   5.予算等
    1)予算
    2)科学研究費補助金
   6.施設の概要
    1)建物の状況
    2)建物の利用状況
    3)施設・設備の改善
   7.インターネット・ホームページ
  Ⅱ 日本社会研究情報センター
   1.沿革と概要
   2.データ・アーカイブ(SSJ Data Archive)
   3.多言語イントラネット
  Ⅲ 研究活動
   1.全所的プロジェクト研究
   2.グループ共同研究
   3.月例スタッフセミナー
   4.社研シンポジウム
  Ⅳ 教育活動
   1.大学院教育
   2.全学自由研究ゼミナール
   3.他部局・他大学における教育活動
  Ⅴ 国際交流
   1.外国人客員教授
   2.外国人研究員
   3.海外学術活動
   4.Social Science Japan Journal (SSJJ)
 5.英文ニューズレター・英文出版
   6.ネットワーク・フォーラム(SSJ Forum)
   7.国際シンポジウム
   8.外国の研究機関との交流
    1)学術交流協定
    2)出版物送付先一覧
    3)1998年度来訪者
  Ⅵ 各所員の活動
   1.経歴
   2.専門分野
   3.98年度の研究活動
    1)研究所のプロジェクト研究等
    2)その他の研究
    3)海外学術活動
   4.98年度の研究業績
   5.98年度の教育活動
    1)大学院
    2)学部
    3)学外
   6.学内行政事務等
   7.所属学会
   8.その他の活動
  Ⅶ 新規採用所員の経歴と業績
  Ⅷ 刊行物一覧

(2)ホームページ

 98年度までは、日本社会研究情報センターにおいて、主としてセンターの活動をインターネット上で展開することを目的とした英語版のホームページが作られてきた。その一部には日本語のページも含まれていたものの、情報の範囲は不十分であり、また研究所全体としての責任体制も不明確であった。

 そこで、98年12月に所員会の決定によってホームページ委員会が作られ、ついで、99年4月に発足した広報委員会によって、ホームページを運営する仕事が引き継がれれることになった。

 99年6月8日、日本語版のホームページが開設され(http://www.iss.u-tokyo.ac.jp/)、従来の英語版はこれに接合された。ホームページの運営には広報委員会が責任をもち、入力実務はシステム管理室が担当し、事務部では研究協力掛が所管している。

 スタートの時点でのトップページの構成は、次のとおりである。

    社研案内
   ○社会科学研究所とは
   ○日本社会研究情報センター
   ○案内図
  最新情報
   ○社研ニュース
   ○新任教官紹介
   ○研究会案内
   ○シンポジウム案内
   ○『社会科学研究』投稿募集
   ○社研所員の発言
  研究・教育活動
   ○全所的プロジェクト研究
   ○グループ共同研究
   ○大学院教育
   ○全学自由研究ゼミナール
  刊行物
   ○『20世紀システム』
   ○『社会科学研究』
   ○Discussion Papers
   ○Social Science Japan Journal
   ○Social Science Japan (Newsletter)
   ○社会科学研究所研究叢書
   ○社会科学研究所研究報告
   ○社会科学研究所調査報告
   ○所員の最新著書
  ネットワーク&データベース
   ○データ・アーカイブ
   ○朝日新聞記事データベース
   ○SSJ Forum
   ○権力と言語
  組織
   ○部門編成
   ○研究スタッフ
   ○図書室
   ○国際協定

 

 ホームページの役割の第一は、研究所および個々の所員の活動についての情報を広く社会に対して開かれたものにし、理解を得ると同時に批判も受けるための手段としての役割である。例えば、新任教官の採用理由、経歴、研究業績などを掲載した「新任教官紹介」の欄は、採用人事についての説明責任をはたすための措置の一環として位置づけられている。また、「全所的プロジェクト研究」の欄では、共同研究のプロセスにおける議論の一端を公開するという新しい試みがおこなわれている。

 以上のような役割に加えて、第二に、日本社会研究情報センターを中心におこなわれているデータ・アーカイブ、朝日新聞記事データベース、SSJ Forum、「権力と言語」フォーラムなどにアクセスすることができる。これらが社会科学研究所のホームページの特徴である。

 なお、ホームページの役割が高まるにつれて、入力業務を担う要員を恒常的に確保することが不可欠になっている。現在は、システム管理室に配置された研究機関研究員が担当しているが、何らかの形で担当者を安定的に配置することが今後の課題である。

TOP