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自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動
平石直昭
1.経歴
1945年 | 1月8日生まれ |
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1968年3月 | 東京大学法学部卒業 |
1968年4月 | 東京大学社会科学研究所助手 |
1974年4月 | 千葉大学人文学部(のち改組により法経学部)助教授 |
1976年10月~78年9月 | 英国留学( St. Antony's College, Oxford及びLondon School of Economics & Political Science)(国際文化会館新渡戸フェロー) |
1982年10月~83年3月 | デリー大学客員教授(国際交流基金派遣) |
1984年4月 | 東京大学社会科学研究所助教授 |
1990年3月~7月 | 北京日本学研究中心客員教授(国際交流基金派遣) |
1997年4月~98年3月 | ベルリンフンボルト大学客員教授(招聘) |
2. 専門分野
比較現代政治大部門,政治文化分野,専門分野:日本政治思想史
3. 過去10年間の研究テーマ
- 古学派を中心とした日本儒学の比較研究
- 近世日本の職業観・勤労倫理の比較研究
- 「天」「鬼神」観念の思想史的研究
- 近世後期における儒学・国学・洋学の相互連関の研究
- 東アジアにおける「政治」観の類型論的研究
- 明治啓蒙思想と西欧思想の関連研究
- 近代日本のアジア主義の研究
- 近代の大学理念の比較研究
- 転向と近代の超克論を中心とした昭和前期政治思想の研究
- 戦後啓蒙思想の研究 4. 98年度までの主要業績
4. 1998年度までの主要業績
- 『荻生徂徠年譜考』平凡社、1984年5月(単著)
- 「徂徠学の再構成」『思想』766号(特集 徳川思想)、1988年4月
- 「前近代の政治観ー日本と中国を中心に」『思想』792号、(特集 儒教とアジア社会)1990年6月
- 『現代日本社会 4 歴史的前提』東京大学社会科学研究所編、東京大学出版会、1991年9月(共著)
- 『東京大学 現状と課題』1号、東京大学出版会、1992年12月(共編著)
- 『世界像の形成』[アジアから考える・7]東京大学出版会、1994年12月(共編著)
- 『戦後思想と社会意識』[戦後日本・占領と戦後改革3]岩波書店、12995年9月(共著)
- 『天』(一語の辞典シリーズ)三省堂、1996年5月(単著)
- 『日本政治思想史ー近世を中心にー』放送大学教育振興会、1997年3月(単著)
- 「近代日本の国際秩序観とアジア主義」『20世紀システム 1 構想と形成』東京大学出版会、1998年1月、176~211頁
5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ
研究所における私の研究分野は日本政治思想史である。社研における自分の役割は、この分野の専門研究を通して、日本社会やその「近代化」の特質を西欧やアジアと比較しつつ明らかにすることにあると考えてきた。
15年前に社研に移って以後の自分の活動を振り返ると、大きくいって次の三つの面からなる。
第一は専門分野における基礎研究で、ここでは主に近世日本の政治思想史について、伊藤仁斎、荻生徂徠、本居宣長など主要な思想家の研究を通じて新しい全体像を描くことを目指してきた。通常、社研所員の日本研究は近代以後を扱っており、私の場合も元来の関心は近現代日本の政治思想の分析にあった。業績(5)(7)など、折にふれてこの時期のテーマを扱った論文も書いてきた(前者は東大の理念を歴代総長の告辞類を素材に分析し、後者は戦後啓蒙の「近代の理念」がもっていた意味を当時の文脈に即して明らかにしたもの)。しかし思想史の場合には、近代を理解するためにも近世との連続・非連続の関係を巨視的にみることが必要であり、とくに政治思想の場合には、丸山真男氏の『日本政治思想史研究』を中心とする業績が大きな影響力をもち、この業績の批判的継承なしには新しい思想史像の提出は不可能だった。そこで迂遠なようだがまず、近世思想家の立ち入った研究を必要としたわけである。この面での自分の研究は、徂徠学について新しい見方を示した業績(2)で基礎が据わり、自分なりの統一的視点から徳川思想史の全体像を示した業績(9)(放送大学の教 材)で一応の目標を達したと考えている。
第二は、研究所のプロジェクト研究に関わるものである。ここでは頂点的な思想家の思想体系の分析と再構成というよりは、多様な史料類を渉猟して、一定の観念や理 念の発生や展開、変質を歴史的に跡づける仕事が中心になった。異なる方法に習熟するよい機会になったと思う。まず研究所プロジェクト研究『現代日本社会』(86-92)では、第4巻『歴史的前提』の班に所属した。この研究では現代日本社会を捉える一つのキー概念として「会社主義」をあげたが、議論の中から私は日本資本主義の精神的源流は何かという問題を引き出した。かねてから学界には、ヴェーバーの理論を引照基準として日本民衆の職業倫理の形成を捉えようとする流れがあり、石門心学にプロテスタンティズムの対応物が見いだされた。他方では滋賀秀三、石井紫郎氏ら法制史家の業績のように、日本の上下を通じた「家職」観念の成立に、中国国家や西洋封建制との相違を見る有力な学説も存在していた。私としては上記の問題提起をうけて、実際はどうだったのかを確かめようとした。こうして業績(4)では、主に近世の諸文献を素材として職業観や勤労倫理の特質を中国との比較の視点から調査し、その諸類型の析出に努めた。当時一部で喧伝されていた儒教資本主義論がまやかしであることを実証してもいる。この研究から勤労倫理と道徳倫理という区別を導きだし、それは後に業績(8)の分析で生かされた。
つぎに研究所プロジェクト研究『20世紀システム』(93-98)では、第1巻『構想と形成』の班に所属した。この研究会では19世紀以来の世界の巨大な変容をパクスブリタニカからパクスアメリカーナへの推移の中で捉えようとしており、20世紀前半に現われた様々の地域秩序構想は、この変容過程でアメリカの覇権が確立するまでの間における模索とみることができる。私の場合かねて近代日本のアジア主義への関心があり、94年には明治前期の思想家を素材にしたその形成過程の分析を行った(『近代化像』[アジアから考える・5]所収)。この関心と上記した研究会の視角が交錯したところに生れたのが業績(10)である。満州事変期までのアジア主義の流れを跡づけるとともに、従来ナショナリズムの一変形という見方が支配的だったアジア主義について、「覇権」や「地域秩序構想」等の分析視点を投入することにより一層具体的にその多様な側面を明らかにしている。
第三は社研の政治系スタッフ等との共同研究に関わる。この中で、一つには政治学入門のテキストを作る計画が生まれ、私には非西欧圏の政治やその理念について書く役割が与えられた。この計画は結局流れたが、そのとき前近代の中国・日本の文献を広く渉猟して構想をまとめ、後に4つの類型論として発表したのが業績(3)の論文である(奉仕・教化・裁判・支配の4類型)。またこの勉強をする中で東アジアにおける政治の正統性根拠について考えざるをえず、それが一つの準備作業となって業績(8)をまとめた。本書は日本だけでなく中国での「天」観の成立や分節化をも扱い、「天」という理念がもつ多様な側面について従来にない理論的な整理と分析を試みている。
これらの業績は中国をも扱っている点で私にとっては冒険だったが、分析の基軸は近代天皇制国家への批判にあり、政治学者から投げかけられた基本問題についての疑問に答えようとする中で、専門以外の領域にも踏みこんだ作品が書けたと思う。なお東大の他部局のスタッフとの共同研究もこの面で重要だった。とくに88年から94年にかけて、文学部の溝口教授、東文研の浜下、宮島両教授らと行った共同研究では、新しいアジアの歴史像を示すという共通の意図の下に、異なった対象領域、研究方法、問題関心をもった研究者と継続的に議論することができ、日本の問題を西欧との比較だけでなくアジアの視座から見る態度を培う上で有益だった。業績(6)参照。
6. 今後の研究テーマ
- 福沢諭吉研究
Chronological Study of the Formation of Thoughts of Hukuzawa Yukichi
現在、明治ゼロ年代を中心に進めている福沢の思想形成過程の研究をそれ以後の時代にまで延長し、内政論、外交論、実業論、教育論、家族論など時期による変化を含めてその全体的な連関を明らかにしようとする。 - 近代日本の資本主義の精神の比較研究
Comparative Study of the Spirits of Modern Japanese Capitalism
「近世日本の<職業>観」で行った仕事を受けて、近代日本資本主義のエートスの形成と歴史的な変化の跡をたどり、その全体的な特徴を比較の視座から明らかにすることを目指す。思想家、官僚、実業家、労働運動指導者などが残した文献類を素材とする。 - 近代日本の国際秩序観の研究
Historical Study of the Views of World Order in Modern Japan
アジア主義についてのこれまでの研究をうけて、明治初頭の開国和親宣言と万国公法の受容から昭和期の大東亜共栄圏構想に至るまでの近代日本の国際秩序観の変容を、政治家、外交官、ジャーナリストなどの残した文献類を素材にして包括的に研究する。
7. 主な教育活動
- 大学院
東京大学大学院法学政治学研究科において「東洋政治思想史」を担当している。
8. 所属学会
政治思想学会(理事,学会誌編集長),日本思想史学会(総務委員,大会運営委員),中国社会文化学会(評議員),Conference for the Study of Political Thought,福沢諭吉協