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自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動
仁田道夫
1.経歴
1948年 | 3月1日生まれ |
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1971年6月 | 東京大学経済学部経済学科卒業 |
1974年3月 | 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了(経済学修士) |
1978年3月 | 同 博士課程単位取得退学 |
1978年4月 | 東京大学社会科学研究所助手(1980年3月まで) |
1980年4月 | 武蔵大学経済学部助教授(1988年3月まで) |
1983年8月~84年8月 | 米国MITで在外研究(日米教育委員会若手研究員プログラム) |
1988年4月 | 武蔵大学経済学部教授(1990年3月まで) |
1989年7月 | 経済学博士(東京大学大学院経済学研究科) |
1990年4月 | 東京大学社会科学研究所助教授(1993年3月まで) |
1991年8月~92年8月 | 米国ミシガン州立大学で在外研究 |
1993年4月 | 東京大学社会科学研究所教授 |
2. 専門分野
比較現代社会大部門,労使関係分野,専門分野:日本の労使関係・労務管理の調査研究, 日本とアメリカの労使関係・労務管理の比較研究
3. 過去10年間の研究テーマ
- 米国鉄鋼業の労使関係の変化に関する研究
- 在米日系企業の労使関係と労務管理に関する調査研究
- 労使関係と人材形成に関する国際共同研究(鉄鋼業を担当)
- 鉄鋼業における研究開発過程に関する日仏共同研究
- バブル崩壊後の日本の雇用慣行の変化に関する研究
- 生計費と賃金に関する調査研究
- 経済構造改革が雇用におよぼす影響に関する調査研究
- アメリカ労使関係システムの歴史的形成に関する研究
- 日本労使関係システムの歴史的形成に関する研究
4. 1998年度までの主要業績
- 『日本の労働者参加』東京大学出版会、1988年(労働関係図書優秀賞受賞)
- 「構造変化と労使関係戦略」『日本労働協会雑誌』第342号、1988年1月
- 「構造変化と日本の労働組合運動」日本労働協会編『新たな労使関係システムを求めて』日本労働協会、1989年8月
- 「経営多角化と人事労務戦略ー化繊産業に関する考察」『武蔵大学論集』第37巻2ー5合併号、1990年3月
- 『労使関係の比較研究』(石田光男、井上雅雄、上井喜彦と共編著)東京大学出版会 、1993年
- "Developments in Industrial Relations and Human Resource Practices in Japan," (中村圭介と共著)R.Locke, T. Kochan & M. Piore eds., Employment Relations in a Changing World Economy, MIT Press, 1995.
- 「バブル崩壊後の日本の雇用変動」『社会科学研究』第47巻2号、1995年10月
- 『アメリカ鉄鋼産業の最近の労使関係の展開に関する研究』(日本労働研究機構・調査報告書、奥田健二ほかと共同執筆)、1995年3月
- 『鉄鋼業における労使関係と人材形成』(日本労働研究機構・調査報告書、森建資、土屋直樹と共同執筆)1997年2月
- Knowledge-Driven Work(Joel Cutcher-Gershenfeldほかと共著,188頁), Oxford University Press, 1998.
5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ
(1)私が担当している研究分野は比較現代社会部門の労使関係分野である。戦後発 足以来、当研究所の主要な研究分野の一つであった日本の雇用・労働に関する実証研究の分野で、従来の蓄積を生かしつつ研究を継続し、また発展させることが基本的任務であると考えてきた。発展の方向の一つは、日本の実態を踏まえつつ国際比較研究を進めることである。これまでの研究所の労働分野での国際比較研究プロジェクトとしては、 1978-81年にかけて文部省科学研究費(海外学術調査)により実施 したイギリス自動車・鉄鋼産業の労使関係の調査研究(戸塚秀夫ほか著『現代イギリスの労使関係上・下』東京大学出版会、1987,88年として公刊)があるが、その成果を踏まえて、主として米国をフィールドに国際比較研究を実施した。とくに、1980年代半ば以降、円高のもとで急激に進展した日本製造業による直接投資の結果米国各地に設立された工場を主な対象として研究を実施することができた。具体的には、ほとんどの主要米国鉄鋼企業が設立した日本鉄鋼企業との合弁企業の実態調査研究、今ひとつは自動車関係を中心とする日系企業の労使関係に関する研究である。後者は、ミシガン州立大学の研究者グループとの緊密な共同研究として実施し、昨年 Oxford University PressからKnowledge-Driven Workとして刊行した。この研究を実施するに当たっては、研究所の安保哲夫氏が中心になって進めていた在米日系企業の経営に関する総合的調査研究との交流が有益な刺激を与えてくれた。これらの研究を実施す上で、着任直後であったにもかかわらず、1年間の在米研究の機会を与えてくれた研究所に謝意を表したい。
労働分野での国際比較研究としては、もう一つ、MITのT.Kochanの呼びかけによる国際共同研究プロジェクトに参加した。この研究は、10カ国をこえる国の労使関係究者が同一の枠組みのもとで、同じ産業分野を対象に実態調査にもとづく研究を実施るものである。私は、日本におけるこのプロジェクト(自動車、鉄鋼、電気通信、衣料、航空などを対象とした)全体のコーディネートを行うとともに、経済学部の森建資氏、大学院生の土屋直樹氏(現在武蔵大学)と共同して鉄鋼業の調査研究を実施した。その成果はKochanほか編の Employment Relations in a Changing World Economy, および『鉄鋼業における労使関係と人材形成』としてとりまとめられている。このような研究は個人で実施することは困難であり、学内外の共同研究者の協力、大学院教育の一環として実施する若手研究者の参加抜きには成果をあげることができない。
(2)労働分野の研究蓄積の継承・発展という点では、日本社会研究情報センター設立後実施している研究所所蔵戦後労働調査資料の整理・電子データ化プロジェクトに参加している。戦後労働調査のうち、大量調査が主体であるが、コンピュータを利用した再集計・再分析を可能にし、貴重な資料に別の光をあてることにより、戦後日本の労使関係について新たな視角からの研究を可能にできると考えている。
(3)研究方法の側面では、当研究所の労働研究は、大筋において制度派経済学の方法による研究が主流であったと言ってよい。私は、その成果の上に立ちながらも、制度の基礎にある人々の規範意識や、制度の構築・転換に大きな役割を果たすイデオローに着目して、研究を進めてきた。このような研究方法を開発していく上で、法学、政治学、社会学の分野の研究者との討議や、その研究成果に学ぶことが有益であった。
(4)日本の雇用・労使関係のあり方も、大きく動いており、とくに、私が着任後は、バブル崩壊の影響で様々な問題が噴出し、「雇用流動化」が流行語となる状況であり、そうした状況をどう見るかという切実な課題が突きつけられてきた。私がこの問題に取り組むきっかけとして、1994年12月10日に開催された社研シンポ「日本の政治経済システムは変わるのか」(コーディネーター大沢真理、橋本寿朗両氏)での報告「バブル崩壊後の日本の雇用変動」(『社会科学研究』47巻2号に収録)が重要であった。この報告に対する経済学(伊藤元重)、社会学(稲上毅)の立場からのコメントになお十分に答え切れているとはいえないが、これ以後、この課題に関わって、中間管理職の雇用・処遇問題、生計費と年功賃金の関係、経済構造改革の雇用・労使関係への影響などに関して調査研究を進めてきた。この研究は、事態の推移に対応して現在も進行中である。
(5)私が参加した全体研究プロジェクトは「20世紀システム」である。その中では、プロジェクトの構想上必要不可欠であるということで、アメリカにおける労使関係システムの歴史的成立に関する研究を担当した。この研究は、従来の自分の専門分野(日本の労使関係研究、あるいは日米労使関係の現状の比較研究)の範囲を超えるものであり、基礎的な研究蓄積が乏しいので苦労したというのが正直な感想である。しかし、この研究を実施する中で、アメリカ労使関係思想の日本への影響について考え、文献調査を行ったことから、副産物として、戦後日本の労使関係の歴史的展開について新たな見方をもつきっかけになった。その成果の一部は、98年度の研究業績「労使関係論と社会政策に関する覚え書ー中山伊知郎教授と生産性向上運動」として発表した。
(6)これにとどまらず、戦後日本労使関係史の研究は、当研究所労使関係分野の研 究課題の一つとして重要であると考えており、今後も研究を進めていく計画である。このような研究を進めていく上で、研究所の戦後日本経済史、経営史の専門家の仕事は密接に関連しており、学ぶ点が多い。また、近年の労使関係史研究では、政治との関係の考察が意外なほど欠落しており、戦後政治史研究者の最新の研究成果と照らしあわせて研究を深める余地が大きいと考えている。このような研究を進める上で、政治、経済など多様な分野の研究者と日常的に研究上の討議を行うことのできる研究所の環境は大変有り難いものである。
6. 今後の研究テーマ
- 構造転換と労使関係の変容に関する研究
Changes in Industrial Relations and Structural Shift in the Japanese Economy
1997年秋の金融危機により、日本経済が抱えている問題が鮮明になり、その中で政治経済システムの構造転換とも呼ぶべき動きが進んでいる。その中で雇用・ 労使関係がどのような変化をとげていくのか、そしてこれへの対処における政策的課題はなにかが重要な課題となっている。会計制度の転換や商法の改正といった従来にない新たな動きを踏まえつつ、雇用・労使関係の動向をあくまで実証的に追究していきたい。 - 戦後日本における労使関係システムの歴史的形成に関する研究
Evolution of Industrial Relations Systems in Post-war Japan
戦後日本の経済・政治・経営・社会全般に本格的な歴史的研究が登場してきている。労使関係分野でも、A.Gordonの業績などが生まれている。このような研究を踏まえつつ、労使関係論の視点から、戦後日本の労使関係システムの成立過程を総合的にとらえ直してみたい。 - 米国鉄鋼業の労使関係の変化に関する研究
Changes in Industrial Relations in the United States Steel Industry
従来の研究の継続である。米国調査の資料の整理・取りまとめと、近年の動向の追跡調査を行いたい。 - 情報技術革新や産業構造の変化が雇用・労使関係に及ぼす影響に関する国際比較研究
Comparative Study on the Impacts of Information Technology and Shifting Industrial Structure on Employment and Industrial Relations
構造改革の標的となっている分野で、狭義の雇用関係と異なる経済的関係にある自 営業・専門職の行動は労使関係研究にとって隣接分野であると言える。この分野での利害代表や紛争解決の仕組みについて考えてみたい。 - 自営業・専門職分野における利害代表と紛争解決に関する研究
Representation of Interests and Dispute Resolution in Professional and Self-employed Sect
構造改革の標的となっている分野で、狭義の雇用関係と異なる経済的関係にある自 営業・専門職の行動は労使関係研究にとって隣接分野であると言える。この分野での利害代表や紛争解決の仕組みについて考えてみたい。
7. 主な教育活動
- 大学院
東京大学大学院経済学研究科において,「労働」に関わる講義,演習を担当している。
8. 所属学会
社会政策学会,日本経営学会,日本労使関係研究協会,Industrial Relations Research Association( U.S.A.)