東京大学社会科学研究所

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自己点検・自己評価報告 各所員の研究活動

渋谷博史

1.経歴

1949年 4月4日生まれ
1973年3月 東京大学経済学部卒業
1973年4月~77年3月 三井物産
1977年4月~83年3月 東京大学大学院経済学研究科
1983年4月~90年3月 日本証券経済研究所
1985年3月 経済学博士(東京大学)
1987年5~11月 米国ペンシルバニア大学及び国際通貨基金客員研究員
1989年7~12月 米国メリーランド大学客員研究員(米国学会協議会奨学金)
1990年4月 東京大学社会科学研究所助教授
1994年4月 同 教授

2. 専門分野

比較現代経済大部門,アメリカ経済分野,専門分野:アメリカ財政・アメリカ経済社会

3. 過去10年間の研究テーマ

  1. アメリカの連邦税制改革
  2. アメリカの社会保障改革
  3. アメリカの国債管理
  4. アメリカの福祉改革
  5. アメリカの金融制度改革
  6. アメリカの企業年金制度
  7. 日米の福祉国家システムの比較
  8. アメリカにおけるコーポレートバナンス論
  9. パクス・アメリカーナの日本財政へのインパクト
  10. パクス・アメリカーナの日本社会へのインパクト

4. 1998年度までの主要業績

  1. 『現代アメリカ財政論』お茶の水書房、1986年12月、298頁(1987年度日米友好基金賞)
  2. 「レーガン政権期の税制改革」『社会科学研究』第42巻第5号、第6号、1991年3月、65-161頁、81-126頁
  3. 『レーガン財政の研究』東京大学出版会、1992年8月、227頁
  4. 「基軸国アメリカにおける福祉国家システム」林健久・加藤栄一編著『福祉国家財政の国際比較』東京大学出版会、1992年9月、27-47頁
  5. 「福祉国家と市場」『社会科学研究』(特集福祉国家と市場メカニズム)第45巻第1号、1993年10月、46-91頁
  6. 『日米金融規制の再検討』(北條祐雄・井村進哉と共編著)日本経済評論社、1995年5月、270頁
  7. 「福祉国家の歴史トレンド」工藤章編『20世紀資本主義Ⅱ 覇権の変容と福祉国家』東京大学出版会、1995年9月、239-273頁
  8. 『現代アメリカ連邦税制史』丸善出版事業部、1995年11月、270頁
  9. 『連邦議会資料集:現代アメリカ連邦税制史』(編集)Congressional Information Service 及び丸善出版事業部、1995年11月
  10. 『日米の福祉国家システム』(井村進哉・中浜隆と共編著)日本経済評論社、1997年9月316頁

5. 社会科学研究所における自己の研究分野と研究活動の位置づけ

>研究所における私の研究分野は「アメリカ経済」であり、そこから研究所のプロジェクト研究、グループ共同研究、企画プロジェクトに参加し、また逆にそれらの共同研究活動から受けた刺激を自分の個人研究に生かすこともできた。

(1)研究所のプロジェクト研究「現代日本社会」(プロジェクトは1986-92年であるが、私は社会科学研究所移籍後の1990年から参加)及び「20世紀システム」(1993-1998年)においては、これまでの私の個別基礎研究であった「アメリカ財政」あるいは「連邦政府の役割」という視点から、現代日本社会あるいは20世紀システムを規定する最重要なファクターであるアメリカ政府にかかわる部分を担当し、論文も執筆した。これらの大規模かつ学際的な研究プロジェクトにおける、経済学以外の法律政治系の研究者の議論は、後述するように、私の個別基礎研究やグループ共同研究にとって大いなる刺激となった。

社会科学研究所移籍前の私の個別基礎研究は、第2次大戦以降の現代アメリカ財政について財政学のディシプリンに基づく実証研究という手堅いスタイルをとっていたが、プロジェクト研究の学際的な刺激によって、パクス・アメリカーナの基軸国アメリカの財政構造を規定する国際的な諸要因(第2次大戦、パクス・アメリカーナの確立、ニクソン期の変容、レーガン期の再軍拡、冷戦崩壊等)あるいは国内社会的な諸要因(マクロ経済動向、人口動向、都市問題、人種問題等)も含めた分析への広がりの必要性を一層意識せざるを得なくなった。それと同時に、その広がりのためには、様々な分野の研究とのグループ共同研究が必要不可欠であることも一層強く認識させられた。

(2)研究所内のグループ共同研究として「現代財政金融研究会」を設立し、そこにアメリカの財政金融の研究者だけではなく、日本・アジア・ヨーロッパに関する研究者にも参加してもらい、国際比較の手法で「広義の福祉国家システム」という視角から「市場経済と政府の役割」について分析・検討してきた。その一環として1992年8月に東大社研国際シンポ「福祉国家と市場メカニズム」を開催し、その成果を『社会科学 研究』(第45巻第1号特集号「福祉国家と市場メカニズム」、1993年)として刊行した。また1994年7月には小樽商科大学経済研究所と共催で小樽国際コンファレンス「転機に立つ金融・証券規制と資本形成」を開催し、その成果は渋谷博史他編著『日米金融規制の再検討』(主要業績(6))として刊行し、さらに1996年8月にはワシントンで国際コンファレンス「Evolving Roles of Government in Japan and the United States: Social Welfare, Public Credit Activities, and Financial Regulations」を開催し、その成果は渋谷博史他編著『日米の福祉国家システム』(主要業績10))として刊行した。なお、次回は、2000年8月に京都国際会議「社会統治と会社統治」を開催する予定である。

これらの国際的な共同研究活動を通して、主として日米の財政学、地域経済論、年金制度研究、医療政策、金融制度、証券研究、住宅政策、福祉政策、労働法、企業統治論、農業政策等の様々な分野の研究者と濃密な議論を行い、これらのすべてに分野を内包しうる「広義の福祉国家システム」という視角、あるいは分析ツールを形成しつつある。この「広義の福祉国家システム」という実験的な概念を軸にした実証研究を携えて、1999年5月にフランスのリヨン大学における国際ポランニ学会で「パクス・アメリカーナと日本型福祉国家」及び「日本における規制緩和の再検討」という2つのセッショを開催して、国際的な交流をはかる予定である。

(3)上記のような他分野の研究者との共同研究によって、私は、自分の個別基礎研究現代アメリカ財政研究」についても周辺領域への広がりの面で大いに助けられている。その個別基礎研究においては、大学院以来、第2次大戦以降の各時期を米国議会資料を中心にして検討し、その成果を主要業績リストにみられるように刊行してきたが、最後に残ったのが、米国内外のシステム全体が大きく変容するニクソン政権期の分析である。戦後世界構造の変化という大きな歴史的転換期に、アメリカの担う基軸国機能に伴うコスト負担を軽減させながら、国内のアメリカ型福祉国家(ヨーロッパ型よりもはるかに市場整合型)の確立・定着のために、制度や財源面での整備を進めるというニクソン政権の歴史的役割について分析する予定である。

このアメリカ財政研究における主たる素材は連邦議会公聴会記録であるが、この資料は、アメリカ民主主義の本質を知る上でもきわめて貴重である。連邦議会の各委員(歳入、予算、外交、銀行等)で、かなり質の高い専門知識に基づく議論が真剣に行われ、しかもそれが透明性の高い形で国民に公開されており、私のような外国人研究者でも、何の手続きもなく公聴会を傍聴し、資料や議事録を入手できるのであり、そこには、およそ日本では考えられないような行政等の資料が提出され、添付されている。まさに民主主義的な政策形成にとっての必要不可欠な要素である。そのような問題意識から、米国議会資料集『現代アメリカ連邦税制史』及び『日米の福祉国家システム』を編集した。

(4)もう一つの社会科学研究所における研究企画は、朝日新聞社との共同プロジェクト「東大社研・朝日切り抜き記事データベース」である。このプロジェクトは、朝日新聞社内に保存される300万件の切り抜き記事(戦後)の中から、日本社会の社会科学研究にとって重要と思われる100万件を選び、検索キーワードを付加しながらデジタル情報化して、データベースを構築し、社会科学研究所のホームページから世界の日本社会研究者が利用できるようにするというものであり、現在、予算申請中である。

6. 今後の研究テーマ

  1. 現代アメリカ財政研究
    Fiscal Structure of the United States
    20世紀のパクス・アメリカーナの基軸国であり、21世紀になっても中心国であり続けるであろうアメリカの財政構造、税制、福祉国家について実証研究を行い、そのアメリカのインパクトを受け続ける日本社会にとって必要不可欠な情報を提供する。
  2. 広義の福祉国家システム論
    Welfare State System, Broadly-Defined
    資本主義的な市場システムが社会を包摂する時に、人間社会としての構造・機能を維持あるいは防御するメカニズムが要請されなければならないが、20世紀に存在した社会主義国あるいは社会主義的なメカニズムが崩壊した後に、あらためてそのような要請を体現できるメカニズムとして福祉・社会保障を軸としながら他分野を網羅する福祉国家システムの意義が問われるのであり、社会科学研究所内のグループ共同研究として検討していく予定である。

7. 主な教育活動

  1. 大学院
    東京大学大学院経済学研究科において「現代アメリカ財政研究」を担当している。
  2. 学部
    東京大学法学部の「経済政策論」,教養学部の「経済政策論」及び「アメリカ経済論」を担当してきた。現在は文部省特命事項のために出講を取りやめているが、「アメリカ経済論」のみは、上記科学研究補助金プロジェクトの研究グループと共同出講している。

8. 所属学会

日本財政学会,地方財政学会,日本アメリカ学会,International Association of Public Finance,American Association of Political Science

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