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新刊著者訪問 第6回
『結婚の壁—非婚・晩婚の構造』
著者:佐藤博樹・永井暁子・三輪哲 編
勁草書房 2010年: 2400円(税別)
このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。
第6回となる今回は、人的資源管理・産業社会学・社会調査を専門分野とする佐藤博樹教授の『結婚の壁-非婚・晩婚の構造』(勁草書房)をご紹介します。
- <目次>
- 序 章 「出会い」と結婚への関心
・・・佐藤博樹・永井暁子・三輪哲 - 第 I 部 「出会い」への期待と機会
- 第1章 現代日本の未婚者の群像
・・・三輪哲 - 第2章 職縁結婚の盛衰からみる良縁追求の隘路 ・・・岩澤美帆
- 第3章 なぜ恋人にめぐりあえないのか?
・・・中村真由美・佐藤博樹 - 第 II 部 揺らぐ結婚意識
- 第4章 同棲経験者の結婚意欲
・・・不破麻紀子 - 第5章 結婚願望は弱くなったか
・・・水落正明・筒井淳也・朝井友紀子 - 第6章 結婚についての意識のズレと誤解 ・・・筒井淳也
- 第 III 部 結婚を左右する要因
- 第7章 男性に求められる経済力と結婚
・・・水落正明 - 第8章 結婚タイミングを決める要因は何か ・・・朝井友紀子・水落正明
- 第9章 友人力と結婚 ・・・田中慶子
- 第10章 未婚化社会における再婚の増加の意味 ・・・永井暁子
- 終 章 結婚の「壁」はどこに存在するのか ・・・佐藤博樹
- 索引
――この本は、どういう論文集ですか?
本書は、結婚を希望していてもパートナーと出会うことや結婚を難しくしている結婚の「壁」の存在、つまり未婚化を促進させている要因はどこにあるのか、この点をデータに基づいて総合的に分析したものです。
計量分析による論文が主となっていますが、できるだけ数式が理解できなくても内容がわかるような編集を心がけました。計量分析による論文集にもかかわらず、比較的読みやすい内容になったと思います。
分析に取り上げているテーマは、①結婚を希望していてもパートナーと出会うことや結婚することを難しくしている要因、つまり結婚の「壁」がどこにあるのか、②結婚の「壁」は、結婚を希望する個人の側にあるのか、あるいは社会の側にあるのか、あるいは両者によるものなのか、③結婚の「壁」を残り越えるために必要な取り組みはどのようなものなのか、「婚活」は結婚の「壁」を乗り越える方法として有効なものなのかなどです。
――どのようなデータに基づいているのですか?
本研究は、社研の社会調査・データアーカイブ研究センターで継続的に行われている2次分析研究会の研究成果です。研究会の名称の「2次分析」が、研究会の特徴を示しています。つまり、新しく調査を実施して得られたデータを分析するのではなく、すでに実施されている既存の社会調査のマイクロデータ(集計前のデータ)を新たな視角から再分析し、それまでにはなかった新しい知見を得る研究方法が2次分析です。こうした2次分析による研究が可能となったのは、社会調査・データアーカイブ研究センターのSSJデータアーカイブにデータ寄託していただいた寄託機関や、家計経済研究所などデータを2次分析のために提供している機関のご協力によるものです。本書の各章の分析は、こうした貴重な様々なデータを利用することによってはじめて可能となったものです。
SSJデータアーカイブには、1300を超えるデータセットが寄託されていますので、2次分析に関心のある研究者の皆様には、是非、寄託されているデータの調査情報をご覧になり、研究に活用されることを期待しています。
――結婚の「壁」は一体どこにあるのでしょうか?
本書の分析によると、結婚の「壁」は、個人の意識や行動から社会構造にいたるまで、あらゆるレベルに存在することが明らかになります。そのため少子化の主要因を非婚化・晩婚化に求めるのであれば、結婚を阻むこうした多様な「壁」を取り除く取り組みが重要な政策課題となります。政策課題とするためには、結婚を「私事」としてのみとらえられるものではなく、社会構造の規定されたものと考えることが必要です。
結婚の「壁」をいくつか取り上げると、職場が男女の出会いの場でなくなり、他方で、職場外での出会いの場が十分に形成されていないことがあります。従って、結婚を希望するのであれば、積極的に異性との出会いの機会を作る努力が未婚者に求められることになります。他方、未婚者の結婚希望の緩やかな低下が確認でき、そのことが最近の未婚化の原因の一つとなっている可能性も否定できません。未婚者の多くが結婚願望を持っていることから,晩婚化・非婚化についてそれほど心配することはないという楽観的な見方には注意が必要になります。
また、最近は、未婚者のなかでパートナーとであうための結婚活動を行っている者も増えており、婚活はパートナーと出会う上で無視できないものとなっています。同時に、婚活に取り組んでいる未婚者が増えてきているものの、婚活は自分の選択とコスト負担で行う必要があり、そのことが婚活の広がりを限定的なものとしている可能性も高いようです。そのため婚活を行うことに関する心理的なコストの削減や、婚活を気軽に参加できる機会とするための工夫も必要になるでしょう。
――少子化対策以前の問題として結婚に注目していますが、日本の結婚を巡る政策的な取り組みは進んでいるのでしょうか?
佐藤博樹(さとうひろき)
東京大学大学院情報学環教授 兼・附属社会調査・データアーカイブ研究センター教授
専門分野 : 人的資源管理・産業社会学・社会調査
主要業績
『人事管理入門(第2版)』(今野浩一郎と共著)日本経済新聞出版社, 2009年12月
『実証研究 日本の人材ビジネス:新しい人事マネジメントと働き方』(佐野嘉秀・堀田聡子と共編著)日本経済新聞出版社, 2010年3月
『職場のワーク・ライフ・バランス』(武石恵美子と共著)日経文庫, 2010年11月.
日本政府の少子化対策は、国民の結婚や出産に関わる希望の実現を阻害している要因を取り除くことを基本方針としています。そして国民の結婚や出産に関わる希望が実現した場合には、合計特殊出生率が1.75まで回復するとの推計も出されています。このように出生率が回復すれば少子化の趨勢は持続しますが、日本も先進国並みの少子化国にはなれるわけです。私もこうした少子化対策に関する基本的な考え方は、適切なものと考えています。しかし、具体的な少子化対策の中身をみると、すでに結婚しているカップルの出産に関する希望の実現を阻害している要因を取り除くものが主で、結婚に関わる施策は、一部の地方自治体の婚活支援などを除いてほぼ皆無です。この背景には、結婚は「私事」のため、政府が介入すべきでないとの考えが強いためと思われます。しかし、結婚に関する国民の希望の実現を阻害している社会的な要因が存在するとすれば、それを取り除く施策が不可欠と考えます。
――最後に未婚の読者へのメッセージをお願いします。
結婚を希望する場合は、異性だけでなく同性を含めて、積極的に新しい交流機会を作ることが、結果として異性との出会いの機会につながります。ボランティア活動や異業種交流会への参加なども効果的です。そのためには、対人関係能力を高めることが不可欠で、同性同士の友人とのつきあいであっても対人関係能力を磨く機会として役立つことから、友人とのつきあいなどを積極的に増やす努力なども必要です。
(2011年9月30日掲載)