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新刊著者訪問 第34回

『雇用は契約―雰囲気に負けない働き方』
著者:玄田有史
筑摩書房 2018年3月:1,600円+税

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第34回は、玄田有史『雇用は契約―雰囲気に負けない働き方』(筑摩書房 2018年3月)をご紹介します。

関連書籍
玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安』
(中公文庫 2001年)
仕事のなかの曖昧な不安
玄田有史『希望のつくり方』
(岩波新書 2010年)
希望のつくり方
玄田有史『孤立無業(SNEP)』
(日本経済新聞出版社 2013年)
孤立無業

――前回の水町先生に続いて労働関係の本をご紹介することになりました。
「悪いようにはしない」という甘い口約束や、細かい条件や処遇などが聞きにくい雰囲気が多くの日本の職場の当たり前というのは本当にそうですね。「働き方改革」が叫ばれるようになり変わってきましたか?

 働き方改革の評価は、これからだと思いますし、ぜひそのあたりは、水町先生にお訊きください(笑)。

――2018年には有期契約の無期転換ルールの実施がスタートしましたが、このことは本書を執筆された背景にありますか?

 そうですね、ただ、この本を書いた背景には、正社員、非正社員の区別は話題になることがあっても、雇用が契約であるということについては、あまり関心が持たれてこなかったのではないか、と考えたことがありました。  そこであらためて「雇用(関係)とは契約なのだ」という原点に立ち戻って、読者のみなさんと働くということについて考えてみたいと思い、この本を書きました。

――なるほど、「契約」というとまずは「賃金」と思ってしまいますがその「契約」の中でも「期間」に着目されたのは何故ですか?

 直接のきっかけは、政府の統計調査に関係があります。これまで契約期間については、「臨時・日雇」という一年以内の契約期間か、「常雇」という一年超又は無期の契約期間に区分がされていました。
 それが最近の統計調査では、契約期間を年数別にもっと細かくたずねるようになり、さらに期間が「わからない」という選択肢も加わりました。その結果、契約期間が不明という人が400万人以上いることや、非正社員のなかでも期間不明の人ほど特に望ましくない労働条件にさらされていることがわかりました。
 このような事実を多くの方に知っていただくために、政府や民間の統計を再集計しながら、契約期間を軸に問題提起することを考えました。

――社研には労働問題について多くの専門家がいらっしゃるので、いろいろなアプローチがありますね。

 はい、働くことにまつわる真実を追求したり、望ましい働き方を考えるという目的は、法学、経済学のみならず、社会学、政治学を含めて、労働問題を扱うあらゆる分野で共通しているのではないでしょうか。もちろんそれぞれの分野で特長や、得手不得手はあると思います。その意味で、各分野が補完的な役割を果たしたり、各特長を活かして全体像に迫れるという点で、社研に多様な労働分野の専門の方がいらっしゃるのは、とても強みですし、一員としては心強いことだと思います。

――ちょっと話が戻るのですが、先ほど「政府や民間の統計を再集計しながら」とおっしゃいましたが、最近明らかになった政府の統計不正問題についてお伺いしてもよろしいですか?

 毎月勤労統計のことでしょうか。実は、1月から毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会の委員というのをつとめていましたので、この問題をどう考えるかについては、ぜひとも多くの方に、報告書を自分の目で読んで考えていただきたいと思っています。

厚生労働省HPより

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書について https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03758.html

毎月勤労統計調査における不適切な事務処理について、統計の専門家、弁護士等の外部有識者で構成される「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」において、事実関係の解明とその評価等が行われ、厚生労働大臣に追加報告書が提出されましたのでお知らせします。

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書[PDF形式:274KB]https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000483640.pdf

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書概要[PDF形式:402KB]https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000483641.pdf

k-1638漢字漢和語源辞典

(漢字漢和語源辞典より)

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 あとがきにも書きましたが、契約の「契」という字の語源は、手足を広げて立つ人間の頭に刀で印を刻む行為を意味し、ひいては人身売買を意味することだったともいわれています。私たちが、日頃、契約と言う言葉を聞いて、身構えたり、どこか怖いと感じるのは、そのような背景があるからかもしれません。

 一方で、契約は英語ではコントラクトcontractです。コンは一緒にということで、トラクトはトラクターのように重いものを引きずることです。つまり雇用契約とは、本来、働くことに伴う苦労を労使が一緒になって共有・共感することのはずです。日本の雇用社会で、本当の意味でのコントラクトとしての雇用契約が広がっていってほしいと思っています。

(2019年3月18日掲載)

玄田有史先生

玄田有史(げんだゆうじ)

東京大学 社会科学研究所 教授

専門分野:計量経済学・労働経済学

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