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新刊著者訪問 第22回
『ローカルからの再出発 日本と福井のガバナンス』
著者:宇野重規・五百旗頭薫 編
有斐閣 2015年:4000円(税抜)
このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。
第22回は、宇野重規・五百旗頭薫 編『ローカルからの再出発 日本と福井のガバナンス』(有斐閣 2015年1月)をご紹介します。
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- 関連書籍
- 東大社研・玄田有史編『希望学 あしたの向こうに―希望の福井、福井の希望』(東京大学出版会、2013年)
- 増田寛也編『地方消滅―東京一極集中が招く人口減少』(中公新書、2014年)
- 永井學『大飯原子力発電所はこうしてできた―大飯町企画財政課長永井學調書』(公人社、2015年)
――早速ですが、この本の概要を紹介してください。本書は全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」の成果本の一つですね。
全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」を構成する三つの班の一つ、ローカル・ガバナンス班のメンバーの論文を集めたのが、この本です。三部構成ですが、第一部でローカル・ガバナンスについて理論的考察を行い、第二部で福井を中心に北陸地域のガバナンス、第三部でとくに福井県の嶺南地域について焦点を置いて論じています。なぜ福井か、といえば、もちろん希望学・福井調査以来の関係があることは確かですが、それだけではありません。「地方消滅」が言われる時代に、子どもの学力・体力や女性の就労率など、しばしば「幸福度」日本一とされる福井の実態を、そのプラス・マイナス両面から探りたい、というのがねらいでした。さらにこの本のもう一つの特色は、「ローカル・ガバナンス」という概念まずありき、ではなく、そもそもこの概念を使うことにどれだけの意義があるのか、根底的に検討している点にあると思います。
――なるほど。たしかに「ローカル・ガバナンス」は「地方自治」という日本語とイコールではなさそうだし、最近は「ガバナンス」が「ガバメント」と区別されて使われています。ややこしく感じるのですが、本書のウリ、読みどころというと?
そうなんです。これまでも「地方自治」という言葉があったわけで、新たに「ローカル・ガバナンス」という概念を用いる必要がどれだけあるのか、そこから考え直しました。「ガバナンス」というときによく指摘されるのが、これまでは「上から下を統治する」というガバメントだったのに対し、これからは「水平関係のネットワーク」としてのガバナンスだ、という台詞です。本当にそうなんでしょうか。日本の地域の歴史を振り返ると、昔から住民の水平的ネットワークで問題を処理していた部分がかなりあります。非政府的な主体のはたす役割も小さくありませんでした。そうだとすれば、「ローカル・ガバナンス」は本当に新しいのか。このような視点から、これまで漠然と「地方自治」と呼ばれていたものを分析し直した点が、この本のウリだと思います。
――では、豪華な執筆陣についてご紹介いただけますか。14人もいらっしゃるんですよね。
ローカル・ガバナンスというと、通常、熱心に論じているのは行政学者や財政学者です。本書でも東大の金井利之さん、首都大学東京の伊藤正次さん、松井望さん、そして社研の荒見玲子さん(現在は名古屋大学)が行政学者として、本書に参加されています。ある意味で論じ尽くされたかに思われるローカル・ガバナンス論に、新たな光を投じて下さっています。一方、財政学者としては、慶応義塾大学の井手英策さん、埼玉大学の宮崎雅人さんがそれぞれ、北陸地域論、嶺南の原発問題を取り上げて下さっています。これに対し、その他の政治学の諸分野でこの概念がとりあげられるのは、例外的な事態です。とくに、この班の代表である私と五百旗頭薫さん(現在は法学部)は、それぞれ政治思想史と政治史が専門ですから、ガバナンス論はまったく門外漢ですが、その分、新たな目でこのテーマに接近できたと思います。さらに政治学からは岡山大学の谷聖美先生が、福井県政を歴史的に振り返られ、高知大学(いまは岡山大学へ異動)の上神貴佳さんが嶺南の自治体の議員調査を行い、さらに大阪大学の砂原庸介さんが大阪を中心に大都市問題を論じられました。五百旗頭さんは大活躍で、近代日本のローカル・ガバナンスを嶺南自治体に焦点を置いて再検討される一方、千葉大学の佐藤健太郎さん、新潟大学の稲吉晃さんと独自の敦賀港を展開されています。ローカル・ガバナンス概念にかなり慎重な憲法学の立場から、社研の林知更さんに加わっていただいたのも、有意義であっだと思います。
福井鉄道「越前武生駅」にて
左から宇野、岡山大学・谷聖美先生、留学生のソク・ジヘ(石智恵)さん
――さて、福井には何度も足を運ばれたとのこと。西川知事へのインタビューは7回にも及んでいます。入念な事前調査を踏まえてのインタビューだと思いますが、「現代的」知事の印象は如何でしたか?
福井県庁
西川知事は一見するとあまり「現代的」には見えません。旧自治省の出身ですし、メディアの耳目を集めるパフォーマンスをするわけでもありません。ただ、現在、多くの知事が「改革派」を名乗り、情報公開やマニフェストなどで新機軸を示しているのに対し、西川知事もまた間違いなくそのような意味での「改革派」であるのに加え、より基礎的なレベルでの改革を進めています。例えば、座布団集会で徹底して県内を回るとか、県庁内の決定プロセスを企画部門中心に変革するとか、防災に向けて県のあり方を見直すなど、実は西川知事の方が知事の未来像を示しているのではないか、と思う部分があります。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
この本は、「ローカル・ガバナンス」という概念の有効性について、疑問がないわけではないけれど、さりとて無視してしまっていいのか、という問題意識をおもちの方にぜひ呼んでいただければと思います。その上で、この概念を用いるべきかどうか、ご判断いただけるとうれしいです。そのことに加え、福井県に興味がある方にもご一読いただければと思います。幸福度ナンバーワンの福井県は本当に「幸福」なのか。高い生活充実度の背景にはどのような要因が隠されているのか。考える材料が満載の本だと自負しています。
(2015年9月11日掲載)