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新刊著者訪問 第47回

ODAの国際政治経済学  戦後日本外交と対外援助 1952-2022
著者:保城 広至
千倉書房 2024年: 5,400円(税抜)

このページでは、社研の研究活動の紹介を目的として、社研所員の最近の著作についてインタビューを行っています。

第47回は、保城広至『ODAの国際政治経済学  戦後日本外交と対外援助 1952-2022』(千倉書房 2024年12月)をご紹介します。

――本書を出された背景と本の概要を教えてください。

 私の博士論文(とそれを基にした単著)では、1950年代から60年代における日本の東南アジア外交、特にアジア地域主義という概念を、外交史の手法を使って論じました。これが約20年前です。そこでは実現しなかった多国間枠組みを創設する試みを分析したのですが、日本から途上国への実際の資本移動――対外援助――を論じなければ片手落ちだという点を強く認識していました。そこで2018年より本プロジェクトを本格的に開始し、いくつかの論文発表を経て、ようやく単著として上梓することができました。
 日本のODAはよく輸出増進、資源獲得のため、つまり経済利益のためだと言われます。しかしながら実際のデータを適切な手法で分析すれば、その印象があまり現実を反映していないことがわかります。たとえば、石油獲得と日本のODAには何の関係がないことは、本書第6章の分析結果から得られた結論です。他にも、戦後賠償と輸出の関係はないこと(第2章)、日中の援助競争がアジアにもたらしたプラスの影響(第9章)など、従来研究者によって当然とされてきた見解を、広範な歴史/データ分析によって反論したものが本書です。

――70年という時間はとても長いと思われますが、なぜ1952年から2022年なのでしょうか?

 まず、1952年という年は、サンフランシスコ平和条約の発行によって日本が主権を回復した年です。それまでの日本政府は、他国との交渉はほぼ米国に限定され、特に北東アジア諸国との外交交渉などは行うことができませんでした。したがって、対外援助の交渉――主として賠償交渉――が正式に開始されたのがこの年であるため、はじめを1952年としています。ちなみに日本による援助供与が開始されたのは、1954年末です。
 そして2022年は、開発協力大綱が改定された前年にあたります。現状分析の常ですが、社会情勢は絶えず変転していくために、その分析を世に出した時にはすでに古いトピックとなっていることは少なくありません。本書もその例外でなく、どこかで区切りを付けなければならないと考えていました。また第7章で3つのODA大綱を分析したのですが、4つめを取り上げるには時期尚早だとも感じていました。そこで、2023年開発協力大綱の改訂前を区切りとして、1952年から2022年という、70年間を扱うことにしたのです。

―― 日本のODAは今後どのようになって行くと考えますか?

 それはわかりません(笑)。と言うより、本文(終章)でも書きましたが、私は社会科学者として将来予測をすることには批判的であり、それを意図的に避けてきました。例えば30数年前にODA大綱が発表されたとき、日本の援助が現在のように日本経済の活性化のためと唱えられたり、軍事的用途に寛容になったりするとは誰も想像しなかったと思います。たただし他の条件が同じであれば、短期的・中期的には、ある程度の日本援助の傾向は変わらないと考えることも妥当です。その簡単な分析は終章で述べられているので、興味のある方はそちらをご覧ください。ちなみに私としては、対外援助研究はとりあえず一段落して新しいテーマに取り組みたいと思っているのですが、それも今後どうなるか予測不可能です。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 本書は必ずしも気軽に読めるものではないかもしれません。私は2つめの博士論文を書くんだという決意で本書を完成させました。つまりとてもとっつきにくいはずです。それにもかかわらず本書に意味があるのは、(1)70年という日本のODAの歴史を理解することができる、(2)複数の章が国際ジャーナルに掲載された諸論文を土台としており、従来の見解とはかなり異なったオリジナルな主張をしている、(3)一つの分析手法のみならず、複数のそれを組み合わせて説得力を高めている、という諸点が挙げられると思います。対外援助や日本外交の専門家以外の方にも、広く本書を手に取って、一部だけでも良いのでご覧いただければ幸いです。

(2025年3月3日掲載)

保城 広至 (HOSHIRO Hiroyuki)

東京大学 社会科学研究所 教授

専門分野:国際関係論・現代日本外交

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