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社研卒業生の現在(いま)

原口 佳誠さん

現在、関東学院大学法学部でご活躍の原口佳誠さんに、社研在籍当時や最近のご様子についてお話を伺いました。

原口佳誠さん

スタンフォード大学(2013年秋)

プロフィール

原口 佳誠(はらぐち よしあき)

関東学院大学法学部(准教授)
早稲田大学比較法研究所・臨床法学教育研究所(招聘研究員)
専門分野:憲法・英米法

社研在籍期間 2005年4月~2009年3月

研究補助員(2005年4月~2006年3月)
研究支援推進員・学術支援専門職員(2006年4月~2009年3月)

1 社会科学研究所・中村研究室

 初めて東京大学社会科学研究所(以下、「社研」)に在籍したのは、2005年春のことです。当時、早稲田大学大学院法学研究科の修士課程を修了し、学籍がないまま博士後期課程への進学準備をしていた私を、中村民雄先生(当時、社研教授 現早稲田大学教授)が研究室に温かく迎えてくださり、研究のアシスタントとして勤務することになりました。
 中村研究室はとても広く開放的で、正面のガラス窓には東大の青い樹々が大きく広がり、木漏れ日が満ちていました。研究室の机と席を貸与して頂き、そこで書生のような生活が始まりました。仕事内容は、研究論文の整理とコピー、およびウェブサイト作成等が中心でした。しかし実際には、私の仕事よりも、先生が私個人のために行ってくださる英語論文の読解・要約の指導、論文作成の指導の機会のほうが遥かに多かったと記憶しています。仕事や指導以外のほとんどの時間は、私の自由に任せてくださいました。ランチの時間になると、社研の自転車を借りて、近所のさまざまな食堂やレストランに連れて行って下さったことを、昨日のことのように覚えています。
 中村研究室では、先生が読書をし、メモをし、著書や論文を執筆・推敲される姿を間近で拝見することで、研究者のワークスタイルを実地で学びました。ちなみに、ロースクール教育が定着する前のアメリカでは、法律家は徒弟制度(apprenticeship)のもと、実際の法律実務を見よう見まねで学んだといわれます。中村先生の研究室は、私にとって、この上なく贅沢な徒弟制度でした。

2 社会科学研究所・CREP

 翌年、私が早稲田大学の博士後期課程に入学すると、中村先生は、社研の全所的研究プロジェクトのCREP(Comparative Regional Project:地域主義比較研究プロジェクト)の学術支援専門スタッフとして雇用し、社研1階の事務所と所長室の間に挟まれた共同研究室に居場所を与えてくださいました。それから3年間、CREPの公式ウェブサイトやシンポジウムの英訳資料の作成などを行い、多くの時間を社研で過ごすことになりました。研究室では、研究員の大森佐和さん(現国際基督教大学上級准教授)をはじめ、宇佐美さんと林さんに大変お世話になりました。事務室の職員の方々はいつも温かく接してくださり、当時の所長の小森田秋夫先生(現神奈川大学特別招聘教授)が気さくにお声がけくださるなど、アットホームな雰囲気でした。

books

 社研で得た研究上の財産は、少なくとも3つあります。第1に、研究書との出会いです。在籍中、まるで屋根裏の迷路のように入り組んだ社研の図書館によく通いました。社会科学の多くの専門領域の良書が選び抜かれ、凝縮されたような図書館でしたが、そこで、当時の国内で稀少書だった、合衆国最高裁判所の歴史に関する一連の研究書(Oliver Wendell Holmes Devise History of the Supreme Court of the United States, Cambridge University Press)を発見し、特に、ヴァージニア大学のホワイト教授(G. Edward White)が執筆したアメリカ建国期の最高裁研究(第3=4巻、写真)を熟読しました。のちにアメリカへ渡航して著者に直接インタビューし、彼の学説の批判的検討を主軸に据えながら学会発表と論文(*1)著書(共著(*2)発表を行うことになる、貴重な出会いとなりました。

 第2に、社会科学的・学際的な思考が養われたことです。社研では、多彩な専門領域をもつ所属教員によるスタッフセミナーが定期的に開催されていますが、そのセミナーに参加することで、学際的思考に自然と触れるようになりました。また、CREPのプロジェクト研究自体が、社会科学の各領域を横断して制度設計する姿勢で貫かれていました。その後、私は、法を社会科学として研究する意義について、拙いながらも考察し、国際シンポジウムで討論し、著書(共著(*3)として発表しました。法に対する社会科学的な研究関心の芽生えは、社研の自由闊達な学際的気風がきっかけであったように感じています。


 第3に、国際的思考が育まれたことです。CREPの仕事で常に英訳を行い、国際シンポジウムのサポートを担当するなかで、海外の研究者とごく普通にコミュニケーションを取るようになりました。当時、お台場にある東京国際交流館(Tokyo International Exchange Center)に入居し、海外の若い大学院生、研究者、官僚たちと日常的に親しくコミュニケーションをとり、異文化に接して理解する環境にいたことも、相乗効果をもたらしたように思います。


3 社会科学研究所を卒業して

 2009年春、CREPのプロジェクト終了とともに、私は社研を離れることになり、早稲田大学法学部の助手(英米法)に着任しました。翌年、中村先生が社研から早稲田大学に移籍されることになり、研究室の引越しのお手伝いをさせて頂いたことも懐かしい思い出です。
 助手の任期終了後、2012年から、スタンフォード大学ロースクールに客員研究員として留学し、フリードマン教授(Lawrence M. Friedman)のもとでアメリカ法を研究しました。先生は、法の社会的研究(Social Study of Law)を掲げ、アメリカ法制史全体のテキストを初めて執筆するなど、法社会学・法制史学を先導してきた第一人者です。その講義や研究指導を通じて、アメリカの社会と歴史から法制度を読み解いてゆく研究手法を少しずつ学びました。また、他学部で歴史学・政治学の講義も受講し、アメリカ社会の学際的な理解に努めました。

スタンフォード大学(2013年秋)

スタンフォード大学(2013年秋)

 2年間の留学を経て、2014年、関東学院大学法学部に憲法教員として着任しました。憲法の講義やゼミでは、法を社会からとらえる視点を重視し、政治学・歴史学等の社会科学領域の知見もふまえ、多角的に教えることを心がけています。その後、筑波大・桐朋音大の講義のほか、神奈川県内の自治体の市民講座で憲法を定期的に教える機会に恵まれました。

関東学院大学(2017年夏)

関東学院大学(2017年夏)

 また、一橋大学でIntroduction to Japanese Law(日本法入門)を担当し、大学院生・留学生を主な対象として、法を、日本特有の社会・文化、さらにそのグローバル化から理解する講義を行っています。ここでも、社研と留学でささやかながら培われた学際的・国際的思考が役立っているように感じています。
 現在は、アメリカの司法制度論を中心に研究しています。日米の最高裁判所裁判官任命制度の比較研究(2018-19年度科研費・若手研究)をメインで行っているほか、日米の憲法、法の支配や法学教育論などの分野で論文を執筆しています。最近は、トランプ政権が象徴するように、分極化したアメリカ社会における司法制度と民主主義について強い関心を抱いており、早稲田大学のシンポジウムで発表(*4)の機会が与えられました。

 私にとって、法の社会科学的な関心は、まさに社研で養われました。若く、最も多感な時期に、社研の自由で学際的な空気を吸い、図書館を利用し、教職員の方々と交流できたことは、何ものにも代えがたい財産になっています。同時に、いまだに甚だ浅学な身に翻ってみると、その財産をまだほとんどいかせていないことに気づき、少しでも研究にいかさなければと自戒しています。
 東京大学社会科学研究所でお世話になった教職員の皆様方に、改めまして、深く御礼を申し上げます。



*1「マーシャル・コートと共和主義―法の碩学としての裁判官モデルの提示」早稲田法学会誌58巻2号(2008年)455頁以下
*2戒能通弘編『法の支配のヒストリー』(ナカニシヤ出版、2018年)
*3曽根威彦・楜澤能生編『法実務、法理論、基礎法学の再定位』(日本評論社、2009年)
*4「合衆国最高裁判所による基本権保障と少数派保護ー大統領権限の抑制の観点から」比較法学52巻2号(2017年)154頁以下


(2019年4月18日掲載)

最近、嬉しかったことは何ですか?

 2014年春、留学最後の想い出として全米将棋選手権大会(全米アマ竜王将棋大会、サンフランシスコ開催)に出場し、好成績を収めたことです。日本将棋連盟サンフランシスコ支部から出場し、団体戦で優勝、個人戦で準優勝しました。個人戦決勝の模様は、会場の別室にSkype中継され、プロ棋士による大盤解説が行われました。
 留学中は、スタンフォード大学将棋部(Stanford Shogi)と称して、大学構内で定期的に日本人・アメリカ人と対局を行い、親交を深めました。当時の将棋仲間は、いまでもかけがえのない親友です。今春のアメリカ渡航の折にも、また現地で再会したいと願っています。


      2014年度全米将棋選手権大会・個人戦決勝の感想戦/個人戦・団体戦トロフィー


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