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社研卒業生の現在(いま)

加島 潤さん

現在、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院でご活躍の加島 潤さんに、社研在籍当時や最近のご様子についてお話を伺いました。

加島潤さん
プロフィール

加島 潤(かじま じゅん)

横浜国立大学大学院国際社会科学研究院(准教授)
専門分野:中国近現代経済史

社研在職期間:2007年8月~2012年9月

特任助教(2007.08-2012.03)
特任研究員(2012.04-2012.09)

 私が社研に赴任したのは2007年8月のことで、その年の4月に社研に設立された現代中国研究拠点の特任助教という職位でした。現代中国研究拠点とは、大学共同利用機関法人人間文化研究機構の現代中国地域研究プロジェクトの一環として設置された研究拠点で、そうした背景から私は同機構の地域研究推進センター研究員という職位も併せ持っていました。もっとも、業務は基本的に社研で行っていたので、在職期間中はどっぷり社研に浸りました。結局、特任助教任期終了後の特任研究員時代を合わせると、丸5年ほど社研にお世話になったことになります。

 社研に赴任する前までは、東大の大学院人文社会系研究科のなかの、いわゆる「東洋史」の博士課程で中国近現代経済史を専攻していました。社研現代中国研究拠点の研究員募集に応募したのは、同拠点が経済分野を主な研究課題としており、自身の研究領域と比較的近いということが理由でしたが、着任後は人文系と社会科学系のカルチャーの違いに大きなショックを受けました。例えば、同じ中国研究という領域でも、「東洋史」のなかの中国史研究は、基本的に対象とする時代の史料をコツコツ読んで事象を再構成していくスタイルなのですが、現代中国経済研究は、現地調査や計量的な手法によって刻々と変化する現在の中国経済をダイナミックに分析していきます。自分自身は、近現代経済史を専攻していたこともあり、人文系のなかでは比較的社会科学系の作法に親しんでいたつもりでいたのですが、やはり環境の違いに慣れるのには時間がかかりました。しかし今から思い返してみれば、こうした経験は社研に来なければ得られないものだったと思います。

 現代中国研究拠点の業務以外に、社研での活動で特に印象に残っているのは、「若手研究会」(現在の名称:「若手研究員の会」)です。この研究会は、社研に所属する助教や特任研究員、学術振興会特別研究員などのいわゆるポスドク・クラスの研究者が自由参加で行っていたもので、当時在籍されていた助教の岡部恭宜さんらと、せっかくいろいろな分野の若手研究者が社研にいるのだから、お互いに自分の研究について語る場を作ろうということで立ち上げました。研究会の参加者は、すでにそれぞれの専門分野で一定の業績をあげている方々でしたので、毎回毎回、実に様々な分野の最新の研究報告を聴くことができました。特に、人文系出身の私としては、この研究会での議論を通じて、社会科学系のなかにも多様な研究のアプローチがあること、社会科学系の聴衆にはどうアピールすればうまく話が伝わるのか(あるいは伝わらないか)ということを学ぶ非常に良い機会となりました。

 また、当時の研究会のメンバーは、多くが任期付きの職にあり、任期終了後はどうなるかわからない、というポスドク共通の緊張感を共有しており、ある種の連帯感のようなものがありました。そしてそのなかから、一人、また一人と、大学や研究機関での新たな職が決まり社研を去る方が現れていったことは、プレッシャーにもなり、同時に励みにもなりました。こうした若手研究者が循環する環境こそが、社研の研究機関としての魅力であり強みの一つではないかと思います。

 社研を退職後、横浜国立大学大学院の国際社会科学研究院(学部で言えば経済学部)に赴任することになり、現在はそこで「アジア経済史」という講座を担当しています。研究上の専門は変わらず中国近現代経済史ですが、これまでの過程を振り返ってみると、社研での経験がなかったとしたら、現在の職には就いていなかった、あるいは就いていたとしても現在とは相当に異なる研究や教育活動をしていたのではないかと思います。そして自分としては、そうした変化は、経済史という学問分野をより深く追究していく上で不可欠なものであったと捉えています。こうした私のキャリアにおける「歴史的転換」のきっかけを与えてくださった社研と現代中国研究拠点、そして社研での5年間でお世話になった全ての方々に、あらためて感謝を申し上げたいと思います。

「若手研究者が循環する環境こそが、社研の研究機関としての魅力であり強みの一つ」とのお言葉、ありがとうございます。現代中国研究は今後更に重要となっていく分野です。先生のますますのご活躍を期待しております。

(2017年6月29日掲載)

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通勤で通る横浜駅西口周辺に、居心地のいい喫茶店(カフェではない)を発見したこと。

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