案内
社研卒業生の現在(いま)
佐藤由紀 さん
現在、玉川大学リベラルアーツ学部でご活躍の佐藤由紀さんに、社研在籍当時や最近のご様子についてお話を伺いました。
プロジェクトセミナー(ゼミナール) 2015.11.17
プロフィール
佐藤 由紀(さとう ゆき)
玉川大学リベラルアーツ学部(准教授)
専門分野:生態心理学
社研在職期間:2005年4月~2012年3月
RA(リサーチ・アシスタント)(2005.4-2008.9)
特任研究員 (2008.10-2012.3)
社研には7年に亘りお世話になりました。社研在籍最終年度の2011年度に、博士号取得、結婚、就職と大きなライフイベントがあり、その後数年慌ただしい日々が続いていましたが、2013年、ようやく結婚式を挙げることができました。
社研にお世話になったきっかけは、玄田有史先生がご自身の事務的パートナーを探しており、当時大学院生だった高橋陽子さんが私の友人に声をかけたことでした。
結婚式 2013.10.12
初めて玄田先生にお会いしたとき、たたみかけるように「何してるの?院生?研究のテーマは?なんでそれやってるの?」と問われ、「10代から芝居をしていたので、ひとり芝居をしているイッセー尾形さんという俳優さんの演技の研究をしてます」と答えたら、「お~。それはいいね。飲み会のネタになるようなテーマをしているのは、いい。希望学にぴったりだ」とおっしゃって、希望学プロジェクト(以下、「希望学」)のRA(リサーチ・アシスタント)に、ということになりました。
当時の私は、自分は「社会からもっとも遠いところにいる」人間だと思っていました。「社会」という言葉が何を指しているのか、「社会のことを考える」というのは具体的にどういったことをすれば「考えた」ことになるのか、そもそもなぜ社会のことを考えねば「いけないのか」がわかりませんでした。私の周囲にいる顔の見える友人や知人、家族らが幸せだと感じるように生きていけばそれでいいのではないか、と考えていました。ですから、「社会科学研究所」の玄田先生にRA=研究助手で雇っていただいたにもかかわらず、気分は「事務のアルバイトだ~」という「軽い」気持ちだったことを、懺悔と共に告白します。
希望学でのお仕事は予想以上に楽しいものでした。希望学メンバーの先生方の懐の深さに何度も助けられました。玄田先生が希望学を「これは、真剣な遊びだ」とおっしゃっていましたが、まさに希望学の先生方はこの言葉を体現されていました。
私が社研の一員となってまだ間もない、ある日の社研セミナーで、希望学のある先生がご自身の研究発表をされ、質疑応答となった段で、私はすっくと手を挙げて「先生がご発表の中でおっしゃっていた『社会』ってなんですか?」とおたずねしたことがありました。一瞬その場がしーんと静まりかえり、私は心の中で「しまった。これ、きいちゃいけないことだったのかな」と瞬間的に反省したのですが、ご発表されていた当のご本人は、間をとって、「…そうですね。僕はこれ(社会という言葉)を『前提』として使っていたので、少し時間をください。考えてお答えします」とお答えくださいました。2、3日後に、その先生から丁寧な返答メールをいただきました。博士課程の院生の「フレッシュすぎる」発言に対しても誠実に答える、その姿勢がどれだけ尊いことなのか、大学教員となった今、しみじみと感じています。
社研では本当に多くのことを学ばせていただきました。組織運営の在り方、人とのやりとりの仕方等といった実務的なことももちろんですが、何よりも研究に対する誠実さや、研究を信じる力を、身をもって経験させていただきました。自身の直感を信じること、同時にその直感を疑うことを恐れないこと、そして他者から投げかけられた言葉を受けとめ、反芻し、自身に嘘をつかず返答することで研究/人生を深めていくこと。また、「社会ってなんだ?」と感じていた私が、「それは誰のために、なんのためにおこなうのか?」という問いを立てることができるようになったのは、社研の先生方のお陰だと感じています。
いま、玉川大学ではリベラルアーツ学部という学部に籍を置いています。「世界がわかる。自分がかわる」というキャッチフレーズの通り、教育工学、古典文学、近代文学、社会学、音韻論、生物学、声楽、科学教育、中国哲学、心理学など、さまざまな専門の先生方が在籍する学際的な広がりのある、自由でのびのびした雰囲気の学部です。学部では、「社会」がわからなかった(今でもまだわかっているとは言えませんが)私が、「インターンシップ」と「キャリアセミナー」を担当しています。ゼミでは「好きなことを学術的にとことん極める」ことをテーマにしています。社研の先生方がそうしてくださったように、学生を「とことん」信じて突き放すこと、にトライ中です。
写真:佐藤ゼミ合宿 2015.9.14. 前列中央 佐藤
社研は、研究者としてしなやかに強く生きていきたい、という想いを育んでくれた場所です。その想いを胸に、研究者としての自分と、教員としての自分の接点を上手につなげていくことが、今の私の課題です。
社研在職時も、現在も「社会」って何?という問いを持ち続けていらっしゃるとのこと。それが人間として「しなやかに強く」生きるコツかもしれないですね。今日はありがとうございました。
(2016年6月29日掲載)
- 最近、嬉しかったことは何ですか?
-
うーん。今の私には難しい質問ですね。実は最近立て続けに同僚が亡くなり、そのうち一人は近しい人だったので、大きなショックを受けたばかりです。
「嬉しかったこと」をなかなか思いつくことができません。
「嬉しかったこと」とは少し異なるかもしれませんが、今朝その同僚の夢をみました。寛容と真剣勝負と謙虚さを教えてくれた人でした。彼はプロの声楽家で、ご自身のゼミで毎年オペラ公演をおこなっていました。その公演のお稽古にお邪魔した時、ゼミ生たちと歌や戯曲の解釈を巡って、ご自身が「プロ」であることなどどこ吹く風で、真剣に「バトル」を繰り広げていました。その姿に強く感銘を受けました。
もう会えないんだな、と思っていた人に、夢で会えるんだと気づけたこと。 それが最近の「嬉しかったこと」かな、と思います。