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社研卒業生の現在(いま)

関沢 洋一さん

現在、独立行政法人経済産業研究所でご活躍の関沢洋一さんに、社研在籍当時や最近のご様子についてお話を伺いました。

関沢洋一さん
プロフィール

関沢洋一(せきざわ よういち)

独立行政法人経済産業研究所
(上席研究員 兼 研究コーディネーター)

社研在籍期間

准教授(2006年7月~2008年6月)

 社研では2006年7月から2008年6月まで准教授として働かせていただきました。

 当時の社研では中村民雄先生(現早稲田大学教授)を中心として「地域主義比較プロジェクト(CREP)」が動いていて、詳しくは今でもわからないのですが、経済産業省でFTAの交渉に携わっている人を社研に呼びたいという話があったようです。私自身は、経済産業省の職員として日本とタイの間のFTA交渉に携わっていたのですが、学術研究とは全く縁のない身でしたから、私にこの仕事が回ってきたのは本当に意外でした。

 地域主義比較プロジェクトにはあまり貢献できず、申し訳なかったという思いは今でもあります。ただ、社研にいた2年間は私にとってはとても勉強になりました。経済産業省におけるFTA交渉の経験も念頭に置きながら、反FTAだった日本がFTA推進へとスタンスを変えていく経過をまとめる機会をいただき、「日本のFTA政策:その政治過程分析」というタイトルで社会科学研究所研究シリーズの1つとして公表することができました。この研究における主要な指摘の1つは、日本のFTAが産業界主導ではなく一部の官僚に主導されたものだというものです。経済産業省内部の経験からこのことは私にとっては自明でしたが、そんなはずはないという批判も受けました。国際政治学会の発表で「『官僚たちの夏』みたいな官僚って本当にいるんですよ」と話したら、信じられないという反応をされて、おかしく思ったこともありました。

 社研でFTAの研究をしている内に、社会科学の多くが前提としている合理的な人間像と異なり、実際には恐怖心のような感情で人間は動かされ、政策さえもそうした感情に動かされるのではないか、FTAも日本が取り残されるという恐怖心によって進められたのではないかという思いを強く抱くようになりました。

 社研を2008年6月に卒業した後は、4年間にわたって経済産業省で経済連携調査官という仕事をして、その後は独立行政法人経済産業研究所(RIETI)で働いています。人々のメンタルヘルスを改善することと不況や戦争などの問題ある社会現象を防ぐことは実はかなり似ているのではないかという社研在籍時に得られた問題意識の下で、RIETIに来てからはメンタルヘルスの研究を始めました。最初に期待したような成果は出せなかったのですが、まだあきらめてはいません。人々の心と社会現象の関係についての研究は今後も続けていきたいと思っています。

 振り返ってみると、わずか2年間の社研の在籍でしたが、とても有意義だったと思います。もしかしたらこの2年間が私の人生を変えてしまったのではないかと思うことさえあります。小森田先生(現神奈川大学教授)、末廣先生(現学習院大学教授)を始めとする社研の方々には本当に感謝しています。



FTAの専門家として社研在籍中に、メンタルヘルスに関する新たな問題意識を持たれたとは興味深いですね。今後のご活躍に期待しております。今日はありがとうございました。


(2018年12月10日掲載)

最近、嬉しかったことは何ですか?


血圧を下げる治療法の効果が年を減るにつれて低下しているのではないかという問題意識が以前からあって、分析した結果をClinical Hypertensionという学術誌に最近載せることができました。自分が筆頭著者になって英語の学術誌に論文を載せることができたのは初めてであり、とてもうれしかったです。

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